0203_201903281020003b3.jpg 0204_2019032810200232f.jpg 0205_20190328102003d6f.jpg 0206_2019032810200561e.jpg 0207_20190328102006214.jpg 0208_20190328102008971.jpg 0209_20190328102009fda.jpg 0210_20190328102011c68.jpg 0211_20190328102013493.jpgご存じだろうか。名前は知らずとも、田舎の田んぼ道や、山間の県道なんかで、まがまがしい雰囲気を放つオンボロ小屋を見たことがある人はいることだろう。
正体は、アダルトグッズの自動販売機が設置された24時間営業の小屋だ。全国111チェーンというから、トイザラスほどの数は存在することになる。寂れた場所ばかりに、地理的にはまさしく〝こっそり〞と、しかし派手な看板で自己主張しながら佇むこっそり堂。不思議なのは、客が入っていく姿を見たことがない点だ。いや、客がいないのにここまで店舗が拡大するはずがない。いったいどんな人たちが利用しているのか、一晩かけて調査してみよう。
10月某日金曜、夕方6時。関東某所のこっそり堂の前に車を停めた。目の前には田んぼが広がり、隣接する道路はときおり車が通るぐらいで静かなものだ。周囲に他の店はなく、民家がぽつぽつと建っているのみ。暗くなり始めた風景にあらがうように、看板が光を放っている。
駐車場に車を入れて店内へ向かう。ふと、足元に妙なものを発見した。泥にまみれた布…え、パンティ?なんでこんなところに?わけがわからない。小屋の中へ。のれんをくぐると、そこには想像どおりの空間が広がっていた。
広さは8畳ほどだろうか。コの字型の通路の壁に沿うように、13台の自動販売機が並んでいる。
  エロ本
  AV
  オナホグッズ
  媚薬
  バイブ類
  女モノコスプレ
  使用済み下着
ジャンルはこれだけだ。生脱ぎが隆盛の今、自販機で使用済み下着を買う世界というのもここぐらいのものだろう。ただ、その時代錯誤感とはうらはらに、AVやエロ本はどうやら新作が揃っているし、オナホもテンガなど新しいものばかりだ。しっかり商品は補充されているらしい。もう外が暗いこともあり、辺りの羽虫がたくさんこの自販機の灯りに集まっている。通路には中身の抜かれたAVのパッケージやゴミが。頻度はさておき、客は来ているようだ。
駐車場の車内で待つこと2時間、前方に人影が見えた。歩いてやってきたTシャツ姿の50がらみのオジサンが、せかせかと店に入っていくではないか。後へつづいて店内へ。奥の通路にいたオジサンは、エロ本自販機を熱心に眺めている。
「あの、失礼します。ここって良く来るんですか?」
「え、俺? まあ、来るよ」
「どんな人が買いに来るのか調査をしていまして」
「へー、そうなんだぁ。オレは下見だけどねぇ」
下見?こんなトコを下見する必要性がどこにあるのだろうか。尋ねてみれば明快な事情が浮かび上がってきた。
「俺、生活保護受けててさぁ。しょっちゅうは買えないでしょ? だからこうやってときどき店に来て、お金が貯まったら何を買おうかチェックしてんの」
なるほど、11月ごろからクリスマスプレゼントの目星を付けにオモチャ屋へ行く子供のようなものだな。生活保護の理由を尋ねてみた。
「前は倉庫で働いてたの。だけど本が山ほど入った段ボールが足に落ちてきてさ、指を3本骨折しちゃって。それからナマポで月に10万円ぐらいもらって、ときどき日雇いにも行ってるんだよね。でもオレ酒が好きじゃない?だから生活はカツカツなんだよ。(アダルト)グッズを買うのもそう簡単にはいかないわけ」
一気に話しきったところで、彼が他の自販機のチェックを始めた。
「何を買おうとか、メモはとらないんですか?」
「ないない。ぜーんぶ頭ん中にあるから」
 そういうもんか。
「毎月500円、このために貯金してんだ。それで年一回、欲しいものをドバッと買うんだよ」
500円×12回で6千円。ドバッと、とまではいかないだろうが、その豪勢なショッピング時間はさぞかし楽しいことだろう。
「でもなんでココに来るんですか?他のキレイなアダルトショップとかもあるのに」
「そりゃ、近いから。ほら、ナマポだから車もないでしょ」
オジサンは大きくひと息ついて、一人語りを続けた。結婚はしたことがなく、女にモテたこともない。風俗はカネがかかるから、エロ本やAVがイイ。今は前回ドカ買いしたエロ本やオナホで1日3、4回オナニーしている、などなど。
「昔は風俗が好きだったんだけど、当時の女にバレて、ケンカになったんだよね。腹が立ったから殴りまくって、逮捕されかけたり。いろいろあったなぁ」
オジサンは何本目かのタバコを消し、「また来月チェックしに来るわ」と去って行った。ゴールデンタイムかと予想していた午後21時ごろは、意外や誰も来なかった。ときどき車が近づいてきて看板を見たりはするのだが、ただの興味本位なのか、そのまま過ぎ去っていくばかりだ。そんな中で一台の車が、なんの躊躇もなく駐車場に飛びこんできた。作業着姿の、40代後半らしき男性だ。
店内で男性がこちらに気づき、会釈をくれた。
「あ、どうも。こちらよく来られるんですか?」
「あ、まぁ、たまにですけど」
男性はそう言うとAV自販機を見て、財布に手をやっている。さっそく購入かと思いきや、財布の中身を確認してからポケットに戻した。
「買わないんですか?」
「いやー、どうしようかと思って」
AVを買って帰ろうと思ってココに来たそうだが、急に思いが変わったのだという。
「恥ずかしいんですけど、家内とケンカしちゃいましてね。それでエロビでも観ようと思ったんだけど、家じゃ観れないしと思って…」
買ってもリビングで観るわけにはいかないということらしい。そのことに今ようやく気づいたほどに、突発的な行動だったのだろう。姉さん女房である奥さんとは、歳が8つ離れているそうで、今日は「薄味すぎる豚汁」が原因でケンカをしたらしい。
「もうババアだから、薄味じゃないとキツイんだろうけどね。でもこっちは仕事中、汗かくんで、塩気のきいたメシじゃないと味気ないんですよ。そんなことを言ったら、
『結婚して15年も経つのに今さら言わないで!』とかって怒って。まあそりゃあそうなんだけど、別に言ってもいいじゃないですか」
うん、わかるわかる。夫婦喧嘩ってそんなもんですよね。にしてもAVを観るならレンタルでも良
さそうなのに、なぜこっそり堂で購入するのか。
「家にいるとニュース番組とか、NHKとかそっち系の硬い番組しか観れないんで、息が詰まっちゃうでしょ。ココってそういう堅苦しさとは無縁の下品な場なんで、ストレス発散できるんですよね」
確かにここは世間の騒々しさから隔絶された空間だ。人間にはこういう場所が必要なときがあるのだろう。彼がAVからオモチャの自販機へと移動し、吟味を始めた。
「女ってこういうの使ったら引かないですかね?仲直りに買ってってやろうかな」そう言って、バイブとディルドの写メを撮っている。
「もうね、家内とは10年以上、そういうことしてないんです」
「ウチも子どもができてから全然ですよ」
「ああ、ウチは子どもがいないんですよ。家内が妊娠できない体みたいで。昔は色々治療とか、そういうのも試したんですけどね。ぜんぜんデキなくて。それからなんとなくセックスとか、そういうのはなくなりましたね。で、息苦しくなって、たまにココに来るようになって」
あまりにもボロくてショボくて哀しい場所だけれど、だからこそ男のオアシスになりえるんだということが、32才になったオレにもわかる気がしなくはない。彼はまた10分ほどかけて自販機を見回り、ガラケーでバイブの写真を撮りだした。
「なんか話してたら不思議と、家内ともう一回試してみようって気分になりましたね。写メをさりげなく見せて、選ばせてみます」
日付が変わり、駐車場に一台の車が入ってきた。ボーダー服の男性が降り、小走りでこっそり堂に入っていく。続いて入店したオレを見るや否や、男が口を開いた。
「掲示板見た人?」
「はい?いや、わからないです」
「そうなの?女装見なかった?」
わけがわからない。女装ってなんだ、女装って。話を聞けば、ここは女装や女装好き男が集まる一大スポットとなっているらしい。彼はある掲示板で『女装の出没予告』を見て、急いで車を走らせてきたのだとか。「なんだ、釣りかよー」
「ウソ予告ってけっこうあるんですか?」
「まあ、あるね。そういうのも含めて遊びだからしかたないけど」
「なるほど。ちなみに女装さんが来たらどんな遊びをするつもりだったんですか?」
「そりゃ、ここでパックンしてもらおうと思ってたよ」
…恐ろしい。こっそり堂の意外な一面といったところか。
この男性のあとに3名もの「女装好き」オッサンがやってきては、みな掲示板に釣られたことを悟り、肩を落としながら帰っていった。また新しい車が駐車場に入ってきた。長身スーツのスキンヘッド男性が、ゆったりと店内へ向かっていく。様子をうかがっていると、男性はすぐに店から出てきて、入り口横のジュース自販機でコーラを買って飲みだした。おそるおそる近づいてみる。
「ここ良く来るんですか?」
「あ、まあ、はい」
「僕は初めて来たんですけど、なかなか強烈な場所ですよね」
すると男性の表情が、心なしか緩んだ。
「こういう変なとこ、好きなんですよ。廃墟とかもよく行くし」
心霊スポットなんかも含めて、ワケあり場所巡りがお好きらしい。
「友達、あまり多くないから、一人で行くことが多いんですけどね」
よくよく聞けば、『一人のことが多い』のではなく、毎回一人なのだとか。43才。近くの工務店の事務仕事をしており、独身で彼女もいない、と自虐的に話す男性。
「あまり人と仲良くしたりできないほうなんです。子どものころから太ってたし、イジメられてたりもしてましたし。こんなに、話しちゃっても大丈夫ですか?」
「もちろん、お話ししましょう。ここで何か買ったりしないんですか?」
「買いはしないですね。風俗はときどき行きますけど」実家の一軒家に1人で住んでいる(両親は亡くなった)そうで、お金には余裕があるのだとか。
「親も2人とも亡くなったし、本当に人付き合いがないですよ。風俗とかお酒ぐらいしか、お金を使うことはないんですよね」
お酒は家で1人呑み。酒癖が悪くてオネショをしてしまうこともあるそうだ。広い家で1人、濡れた布団を干す四十路男性。かなり寂しい生活なのかもしれない。
「楽しいことって、あんまりないですよね。ココに来ると、『悪いことしてる』みたいな気分になるというか、そういう意味で、ちょっと面白いですけど」
結局のところ、この時間にこっそり堂にやってきた目的についてはよくわからないままだった。あるいはこの人も、女装予告に釣られたのかもしれない。静寂が延々と続き、新聞配達の兄ちゃんが怪訝な顔をしながら横切ったあとで、白いセダンが停まった。Yシャツ姿の男性が小屋に入っていく。少し遅れて後へ。Yシャツさんの声が小屋に響く。
「あちゃー、売り切れてるなぁ。せっかく来たのに」
聞けば、オナホを買おうとやって来たのだという。それも、東京西部から1時間半ほどかけてだ。
「昔この近所に住んでまして、アダルトグッズはここに来て買うようにしてますね。やっぱりなじみのある場所がいいから」
なじみったって、オナホのためにここまで?こちらの不可解な表情を読み取ってくれたのか、ワケを話してくれた。
「僕、会社が自宅のほとんど目の前なんですよ。家と会社の往復だけの生活なんで、こっそり堂に行って帰る時間がけっこう気晴らしになってるというか。好きな音楽をガンガンかけて唄いながら運転してるんです」
深夜ドライブの最終目的地は、こっそり堂。ユーモラスで憎めない。
「まあ、元妻とのことがあったからですかね。半年前に離婚したんですけどね、結婚してすぐセックスがなくなって、自分でするのにグッズを買おうと思って、ここにくるようになったのかなぁ」
「どうして離婚したんですか?」
「うーん。妻とは、価値観の違いというか、そういった点が多くて。元々ね、出会い系サイトで知り合ったんですよ。それで勢いで結婚したんだけどね、まあダメで」
セックスがなくなり、口をきく頻度も少なくなった。そんな低調な夫婦関係から逃げるように、こっそり堂に来るようになったそうだ。
「さっき『気晴らし』って言ってましたけど、他にも気晴らしの方法ってあるんですか?」
「いやぁ、地元を離れてるもんで、おいそれと会える友達がいなくてね。今しゃべってて思ったんですけど、ホント、気晴らしってここに来ることくらいですね」
酒も飲まなければ博打もやらない。妻と別れてからはツタヤでお笑いのDVDを借りて、それを観ながら寝る毎日だそうだ。
「まあ、今はなんの起伏もない生活を淡々とこなすだけで、精神的に落ち着いてるんです。ここへドライブもたまに来ますし。アハハ」
空が白んできた。最初は異様で不気味に見えたこっそり堂の風体も、見慣れたせいか景色に溶け込み、すっかり違和感がなくなっている。日の出と共に駐車場に滑り込んできたのは、黒い軽自動車だ。車内の男性はしばしスマホをいじった後、ゆっくりと店に向かっていく。長身で、往年の名俳優みたいな雰囲気の男前だ。男性は入店してから自販機をチラチラ見ては、通路をぐるぐる回るだけ。目的を持った様子がない。声をかけてみた。
「今日は何か買いに来られたんですか?」
「え?僕?まあそんな感じで」
「こっそり堂に来るお客さんの調査をしてまして」
「あー、そうなんだ。なんか面白いっすね」
兄さんは建築関係に勤める40才で、ここにはよく来るそうだ。
「ゆうべからココにいるんですけど、けっこう人が来るもんですね」
「ああ、そう。自分は昔ここで、しょっちゅう遊んでましたよ」
「遊びってなんですか?」
「あのー、変態遊びちゅうかね。掲示板とかあるじゃないですか。そういうので、昔の彼女と一緒に単独男性さんを集めてね、『OS』とか、いろいろやりましたよ」
OSとは「オナニー射精」の意味らしく、自分の彼女を脱がせて、男たちにシコらせていたのだとか。
「へえ。もう変態遊びはやってないんですか?」
「うん、今はやってないですね。というかその子、死んだんで」
 え? 死んだ?
「それはなんというか…。どうして亡くなったんですか?」
「心筋梗塞、らしいです」
「らしいっていうのは…」「いや実は、死に目には会えなかったんです。同棲してたんですけど、ケンカして、彼女が茨城の実家に帰ってたときで。いくら連絡しても電話に出ないから、しまいには彼女の実家に電話したんです。そしたらお父さんが出て、『娘は心筋梗塞で死んだ。もう電話してくるな』って」
以前から彼女の実家とは不仲だった(カネを借りたりしていた)ため、最初は父親の嘘だと疑ったそうだ。
「信じられないから、彼女の実家までクルマを飛ばして。そしたら、もう1週間前に葬式を終えたっていうんですよ。彼女、ときどきドラッグとかやってたんで、そういうのが原因だったみたいですね」
「そうだったんですか…じゃあ、どうしてココに来てるんですか?」
「懐かしいっていうかね。いろいろ思い出すから」
彼は、今は亡き彼女を散々オカズにさせた場所で、往時を懐かしんでいたのだ。
「やっぱり懐かしいですか」
「うーん、そうですね。死んだ当時はツラすぎて働く気にもならなかったんですよ。変態掲示板の仲間から、『今週は開催しないの?』とか連絡が来たりして、そういうのでますます気持ちが落ち込んだり」
それでもすぐにカネがなくなったので、仕事に復帰。1年ほど経ってようやく落ち着いたそうだ。
「まあ考えてもしょうがないなって思って、吹っ切りました。新しい彼女が出来たっていうのもあったんですけど」
「ってことは、また変態遊びも?」
「いや、何人か彼女ができたんですけど、みんな露出遊びは付き合ってくれなくて」
「まあなかなか厳しいですよね」
「だから自分は単独側に回ることにしました。ぶっかけオフとか、そういうのにたびたび顔を出して遊んでます」
町の喧騒や、派手な遊びに慣れた者にとっては、こっそり堂の存在意義などさっぱり理解できないと思う。でももし人生に少し疲れたら、一度立ち寄ってみてはいかがだろう。