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飲食業界には、まれにミョーな店が存在する。店主みずから看板で『まずい』と宣言している店だ。
真意はわかる。下卑た謙遜、へりくだりだ。へい、あっしの料理なんてまずいもんです。へい、こんなくだらない料理にお代を払っていただきすみません。え、美味しいですか。滅相もございません、へい。オモロないんじゃ、ボケ!
あらかじめ期待値を下げておいて、「意外とウマイじゃん」的なリアクションを期待するなんて、飲食業界の片隅にも置けぬ輩だ。と、勝手な想像を述べていてもしょうがないので、実際に食ってやる。まずいと宣言する以上、めちゃくちゃまずくなきゃ許さんぞ。
一発目はこのラーメン屋から行ってみよう。「日本一まずい!!」 感嘆符を2つもつけるなんて、ソートーな自信だ。マジで国内最強のまずさなのかもしれない。ドキドキしちゃうなぁ。注文したのは、しょう油ラーメンだ。見た感じ、これといって変わったところはない。ニオイも普通のラーメンのそれだ。でも油断はできない。なんたって日本一なんだから。まずはスープをひと口。まったく平気だ。てか、ダシがしっかりと効いていて、むしろ美味い。立て続けにさらに二口、飲んでしまったほどだ。きっと麺や具がヤバいんだな。どれどれ。ズズズズ。 
いいじゃん。コシがあって歯ごたえもあるし、チャーシューもバカウマ。って、おい!これのどこが日本一のまずさなんだよ。まるっきり話が違うじゃん!ちょうど目の前に店主のおっちゃんが立っている。話しかけてみよう。
「看板に日本一まずいってありますけど、美味いじゃないですか」
「そう?ありがとう」
「でも、残念だなぁ。いったいどれだけまずいのか、すごく楽しみにしてたのに」おっちゃんは困った顔をした。「そういわれてもなぁ。看板はイパクトを狙っただけだから。お客さんだって、本当にまずいよりいいでしょ?」ちぇっ、やっぱりその狙いか。面白くねーよ。中華なんて味の素をかければなんでも旨くなるのに、この店にはうまい物なし。化学調味料を嫌ってるのかも。運ばれてきたラーメンと餃子は平凡を絵に描いたような代物だった。ではラーメンから行ってみよう。…げ、なんだこりゃ。麺にまったくコシがない。ワンタンみたいにグチャグチャだ。伸びてんのか?スープは可もなく不可もなくといった感じか。高速道路のパーキングエリアにありがちな、パックにはいったスープをそのまま使っているような味だ。餃子も然り。冷凍モノの方がまだマシな気がする。餃子は完食したが、ラーメンは半分ほど残してしまった。看板に偽りなし!偉い! 店主に聞いた。
「この店、どれを食べてもうまい物はないんすか?」即座に反応が返ってきた。
「ないよー。ないない」えらく投げやりだ。
「看板に美味いなんて書くと期待されちゃうでしょ。気楽に食べてくれればいいのよ」期待せず、気楽に食った。で、マズかった。宣言どおりだったのは誉めてあげたいが、これでやっていけるのか気になるっちゃ気になる。 この店名、明らかに『まずい』を意識していると考えていい。おでんがメインの居酒屋なので、がんもと厚揚げとつみれをオーダーした。運ばれてきたおでんから立ちのぼるいい香りに一抹の不安を覚えながら、つみれをひと口かじる。ふ、ふ、ふざけんな!
めまいがするくらい美味いじゃんかよ!気を取り直して、今度は厚揚げをパクリ。血圧がさらに上がった。上品でうま味たっぷりの汁が、口に広がるではないか。さらにがんもに至っては、人生で最高と言ってもいいくらいの美味で、もう何と言いますか、悔し涙すらこぼれかけた。ひどすぎる。これだけ看板に偽りのある店も、そうあるまい。「ここは『まづいや』なのに、めちゃめちゃ美味いじゃないですか。店名、変えた方がいいんじゃないですか」
怒りにまかせて文句を言うと、大将がヘヘっと照れ笑いを浮かべた。
「あれは自分への戒めだ。店名みたいにまずかったら、お客様に申し訳ないからな」
なんだかよくわからんぞ。くそっ、悔しい!魚料理メインの飲み屋だ。魚がまずいというのは大いに期待できる。腐った魚とか出てくんのか? オススメを尋ねると、鯛とまぐろの刺身がいいらしい。刺身がまずいのか。何か得体のしれない液体で〝漬け〞にでもされてるのかも。 まもなく目の前に料理がならんだ。どっからどう見ても普通の刺身だ。では味の方は…フツーに鯛やまぐろだ。つまりフツーに美味い。…はあ、またダマしやがった。「全然まずくないですね」
「はは、まずいワケないよ。築地直送の新鮮な魚だもん」言ってくれるじゃないの。看板にはハッキリまずいって書いてるくせに。
「でも看板にまずいって書いてありましたけど」
「そんなのシャレだよ、シャレ」 
はいはい、もう結構です。