0012_20181225160646435_2019102112555054f_20200111131837844.jpg0013_2018122516064726a_20191021125552556_20200111131933dbf.jpg0014_201812251606486d4_2019102112555307f.jpg0015_20181225160650006_201910211255542c6.jpg0016_20181225160651f6c_201910211255563a0.jpg0017_20181225160653966_201910211255587ee.jpg0018_20181225160654339_20191021125601c96.jpg0019_20181225160656d51_2019102112560364e.jpg結婚をエサに女の金をダマしとる。くどくど説明する必要はあるまい。結婚詐欺である。過去、数十人の女性に約4千万を貢がせた俺からすれば、結婚詐欺ほど簡単なシノギもない。ちょっとしたウソをつくだけで面白いように金が取れるのだ。きっかけは友人の誘いでねるとんパーティに参加したことだった。
このときすでに妻も子供もいたが、女好きの性格が結婚などで直るはずもなく、当然のように浮気しまくりの毎日。つまり、このパーティも、一夜のお相手をゲットするためだった。会場となったホテルの広間には、約10名の男性に対し、20名ほどの女性が集まっていた。女の方が多いねるとんパーティというのも珍しい。
「お仕事は何をなさってるんですか?」
フリータイムでケイコと名乗る小太りの女性が話しかけてきた。容姿は並以下だが、どうせ一晩限りの付き合い。少々不細工だって構わない。
「従業員は5人しかいませんけど、一応、自分の会社を持ってるんですよ」
「え、社長さんなんですか…」
肩書き(実際に俺は土木関係の有限会社を経営していた)がかえってケイコを警戒させてしまったようだ。目の前の男はいかにもモテそうな若社長。ねるとんパーティなんぞで恋人を探しているのが不自然に映ったのかもしれない。
「いやあコイツ、最近、長く付き合ってた彼女と別れちゃってね。それでずっとふさぎ込んでたから、今日は僕が、無理矢理ここに連れてきたんだよ」
すかさず友人がフォローを入れる。本人の弁ならウソ臭く聞こえる話も、第三者が口にすれば信ぴょう性が高まるってもんだ。と、案の定、ケイコは目をキラキラと輝かせ始めた。男性参加者はサエなそうな連中ばかり。誰だって掃き溜めの鶴を逃したくはあるまい。聞けば彼女、某大手証券会社のOLらしい。職場ではコレといった相手が見つからず、かれこれあちこちのねるとんパーティに参加しているという。
「やっぱり30才を越えると親が早く結婚しろってうるさくて」
「いやあ、偶然だなあ。僕もそろそろかなって考えてるとこなんだよね」
妻子持ちの分際で我ながらよく言うわと思うが、結婚願望の強い女をオトすときは同じ境遇だとアピールするのが一番だ。すっかりうちとけた頃合を見計らい、ケイコをドライブに誘ってみた。
「ちょっとぐらいならいいわよ」
パーティ終了を待たずに会場を抜け出し、愛車のシーマでお台場のレインボーブリッジへ。橋の上まできたところで路上に車を止め、彼女を連れて外に出た。
「何するの」
いきなり体を抱き上げて欄干を乗り越えると、ケイコは鷺いた表情で目をパチクリさせた。あまりにもクサイ演出だが、これも俺なりの理由があってのことだ。実は以前、女房に結婚した理由を尋ねてみたところ、返ってきたのは「抱き上げられたときの力強さに感激したから」という答。なるほどそんなものかと妙に納得し、以来、女をオトす際には必ずこのテを使っていた。
ケイコは俺の胸に体をあずけながら、うっとりと夜景に見入っていた。チャンスとばかりに唇を奪いにかかると、さしたる抵抗も無く舌を絡めてくる。ここまでくれば、もうことばはいらない。帰りは、ホテル代がもったいなかったので、川崎の工業地帯に車を乗り付け、カーセックスでコトを済ませた。あらかじめ予想はしていたことだったが、翌日からケイコの電話攻勢が始まった。
もっとも、彼女に教えたのは携帯番号のみ。無視し続ければ、そのうち勝手にあきらめてくれるに違いない。が、1週間2週間と過ぎても鳴り止まない。どころかその数は日を追うごとに増えてくる一方だ。仕方ない。もうこうなったら、直接電話に出て「その気はない」と伝えるか。このままずっと電話が続くのもうっとうしいしな。
「ああ、よかった、無事だったのね。アタシ、心配で心配で夜も眠れなかったんだから」
俺の声を耳にした途端、ケイコはむせび泣いた。2週間も音信不通だったのに理由などこれっぽっちも聞きもしない。余程おめでたい性格なのかもしれない。そのとき、邪悪な考えが浮かんできた。もしかするとこの女、何でも言いなりになるんじゃないか。例えそれが金に関することであっても…。
「ごめんな。今は会いたくても会えないんだよ」
「どうして」
「いや、会社の資金繰りに困っててさ。毎日金策にかけずり回ってるんだ」
いまどきテレビドラマにも出てこないべタなセリフである。が、この程度でコロッとダマされてくれるぐらいじゃなければ大金など引っ張れまい。仮に、女にウサン臭がられたとしても、以降は二度と付きまとわなくなるだけ。どちらに転ぼうとも俺にソンはない。
「私、ちょっとぐらいなら出してあげられるわよ」
あまりにもあっさりケイコは言った。
「いくら必要なの」
「とりあえず手形を落とすのに、10万ばかり足りないんだ」
「わかった。じゃあすぐに銀行からお金を降ろすから」
その1時間後、ケイコは待ち合わせのコンビニ前に、銀行の封筒を胸に抱いて立っていた。さっそく中をあらためると、確かに1万円札が10枚。
マジかよ・1回寝ただけの男にどうして金を貸せるんだ。思惑どおりにことが運んだとはいえ俺は信じられない気持ちでいっぱいだった。絶好の機会が巡ってきたのは、知り合って2週間後のことだ。シオリのアパートで鍋をつついた帰り道、幸か不幸か、車がガードレールに突っ込んでしまったのだ。
「昨日、ちょっと酒を飲み過ぎてたみたいでさ・帰り際に事故つちやったんだ」
「え」「いや、体の方は何ともなかったんだけど。ただ、車の修理代がかなりかかるらしくて。それを稼ぐのに夜のバイトをしようと思うんだ。しばらく会えそうにないよ」
「そんな…」向こうも「飲ませすぎたせいかも」と責任を感じていたのだろう。
「私が払うわ」と言い出すまでそう時間はかからなかった。
そうと決まればさっそく知人の修理屋に連絡である。手数料3万を支払い、本来50万円程度の修理費を250万の見積もりで請求してもらう。差額の200万は丸々懐に入る手はずだ。
ところがある日
「ピンポーン」夜中の2時、孝江という26才の女とイチャついていると、部屋の呼び鈴が鳴った。思わず、孝江の口を手のひらで押さえる。
「借金取りが来たみたいだから、大人しくしててくれ」
しかし、演技もむなしく、外からはこんな大声が聞こえてくる。
「イサムちゃーん、いないの」バレバレだが、ドアの向こうできびすを返すハイヒールの音が消えるまで手を離すわけにはいかない。バレるのはー人だけで十分だ。
「ナニ今の『イサムちゃん』なんて借金取りがどこにいるのよ。私のことダマしたのね」
出会って1カ月足らずで30万も貢いでくれた女だったが、これ以降は途端にサイフのヒモが固くなった。まだまだ十分抜けた(貯金が500万以上あった)だけに、悔ゃんでも悔やみきれないミスである。他にもこんなことがあった。路上ナンパしたヤンキー娘とベッドでイチャついていたところ、28才の洋子(200万を貢がせていた)と鉢合わせ。どうやらうっかり部屋のカギをかけ忘れたらしい。「…」気まずい沈黙が流れた後、洋子は、無言でパタンとドアを閉め、なぜか台所へ入っていった。
こんな邪悪な生活が長く続けられるもんじゃない。深入りすれば、いずれ女からしっぺ返しを食らうだろう。それは何となく想像がついていた。予感が的中したのは、昨年6月のある朝のことだ。自宅の呼び鈴が鳴ったので、寝ぽけ眼で外に出てみると、背広姿の男が4、5人立っていた。一発で刑事だとわかった。
「ちょっと署まで来てもらおうか」見せられた逮捕状には、詐欺の二文字が見える。突然の逮捕劇も、俺に特別な驚きはなかった。もちろん予期していたわけじゃない。なぜか前夜にワッパをかけられる夢にうなされたのだ。正夢とはまさにこのことだろう。
そのまま地元の警察署に連行された後、型通り48時間の取り調べを受け、これまた型通りに拘置所へ送致。訴えを起こしたのは、前述の700万のベンツと1千万を貢がせた静香だった。考えてみれば1年以上も電話連絡すら取っていない。キレイに縁を切ったつもりでいたが、向こうはそうは思っていなかったようだ。とはいえ俺は、「結婚しよう」なんて一言も口にしちゃいない。金品もくれるとい、つものを有り難く頂戴しただけ。恐らく詐欺罪は立件できないに違いない。しかし、担当の検察官に話を聞いてみると、俺には決定的な証拠があるという。静香に書かされた1千万円の借用書である。こんなこともあろうかとあらかじめムチャクチャな金利を記入しておいたのだが、問題となるのは、俺が一銭も静香に金を返していない。返済の意志なく金を借りたー詐欺との図式が成りたつらしいのだ。つまり、俺の工作は何の意味もなかったというわけである。取り調べが進むに従い、きっちり余罪も追及された。