0018_2018100511004327e.jpg 0019_20181005110044100.jpg 0020_201810051100454d3.jpg 0021_201810051100472ac.jpg 0022_20181005110049df5.jpg 0023_20181005110050ce6.jpg 0024_20181005110052fb5.jpg 0025_201810051100534e1.jpg 0026_201810051100545cd.jpg野球自体には興味がないが、前から気になっていたのだ。近ごろ増えているらしい『カープ女子』のことが。優勝とならば、当然、広島の町では彼女らが大騒ぎだろう。「おめでとー!」と声をかければ、いくらでも仲良くなれるはず。絶好のナンパチャンスではないか。ただ、無策ではダメだ。おそらくオレと同じようなことを考えて現地入りする男がたくさんいるに違いない。出し抜くためには目立たねば。得意の変装でカープ選手のソックリさんになってやろう。が、これがなかなか難しい。今期の主力メンバーは、風貌に特長がないのだ。菊池だの丸だの、こんな選手のマネなんてどうやってすんのよ?いや、なにも今のメンバーである必要はない。カープファンなら誰もが尊崇するあの男になればいいじゃないか。
というわけで、たぶん今夜勝って優勝するだろうと予想を付けた9月10日、対巨人戦(東京ドーム)の土曜日。夕方に広島入りした。町はカープ一色で、どこもかしこも『C』のロゴだらけ。18時から試合が始まるんで、ユニフォーム姿の方も多い。みなさん、スポーツバーなんかへ観戦に行くんだろう。こちらはまずホテルで変装である。顔にドーランを塗り、眉も鉛筆を擦りつけて濃くする。ポイントのモミアゲは、ドンキで買ってきた『エルビスプレスリーコスプレ』用のブツだ。
おっと、18時半だ。試合が始まってるじゃん。戦局はどうなってんだろう。テレビをつけてみる。
 1回表、『広島0ー巨人2』いきなり先制されてるじゃん。カープの先発は誰だ? 黒田ってオッサンか。知らないけど大丈夫かしら。もしかして今日の優勝はなかったりする?いったん変装はストップし、テレビ中継を見守る。すると3回表にカープが1点返した。よしよし、その調子でいってくれ。こちらも変装再開だ。工事現場用の赤いヘルメットの額にマジックで『C』と書く。これをかぶれば完成だ。どうだろう、激似とは言わないが、けっこう衣笠っぽいんじゃね。自作の赤ヘルってのも熱いファンっぽくていい感じだろう。とそのとき、テレビからアナウンサーの絶叫が、
「レフトスタンドへの同点ホームラン!」
さらにその直後、
「右中間へのホームラン。カープ勝ち越しです!」
すばらしい。こりゃあマジで優勝しそうだ。町のカープ女子どもはさぞやキャーキャー騒いでいるだろう。衣笠マー君、出陣だ。スマホで戦局をチェックしながら繁華街へ向かうと、店頭に大型テレビを置いた飲み屋の前に、ユニフォーム連中が大集結していた。パブリックビューイングのような雰囲気だ。現在、試合は7回でカープが2点優勢である。このままいくと30分後くらいには、みんなで抱き合うみたいな状況になるはず。この場所で単独女のそばに陣取っておくのはいいかもな?集団のなかにズンズン入っていくと、あちこちから視線が飛んできた。女たちもチラチラ見てくれている。ふふっ、目立ってるじゃん、衣笠。どの女をロックオンしようかな。あっちの女は男と一緒だし、向こうは女グループだし。…ツレがいる女ばっかりだな。おっ、うしろのあのメガネの子、一人っぽいぞ。それとなく隣に陣取った。一応軽くアピっとくか。
「観戦中すみません。一緒に写真を撮ってもらえません?」
こちらの顔をマジマジと見つめてくるメガネちゃん。
「自分、東京から来てるもんで。こっちのカープファンの人と交流した記念ってことで」
「へー、ぜんぜんいいですよ」
ぜんぜんいいと来ましたか。そりゃあキミも、衣笠と撮りたいよね。パシャリ。よし、ツカミはOKでしょう。
試合は8回、カープの攻撃の大事な場面。あんまりしゃべりかけるのもアレなんで、あとは優勝の瞬間を待つことにしよう。というかオレも真剣に応援するか。万が一、負けられたらかなわんからな。そんなわけで普通に観戦することしばし。試合はカープの2点リードのまま順調に進み、9回裏の巨人の攻撃2アウトまでやってきた。最後のバッターが打ったボールが内野に転がり、ショートが取って一塁へ。ゲームセット! 瞬間、道路が揺れるほどの歓声が上がった。予定どおり、カープの優勝だ!さぁ、ここからがオレの試合開始だ。隣のメガネちゃんに抱き付きつこう…。ってあれ? 彼女は男と手を取り合って楽しそうにしているんだけど。しかも他人ではない間柄の感じなんだけど。…ツレがいたのかよ。出鼻はくじかれたが、まだオレの試合は始まったばかり。気を取り直して参りましょう。賑やかな商店街のほうへ歩いていくと、通行人同士が誰かれ構わずハイタッチし合うという大騒ぎが起こっていた。どの女の子も、衣笠のそっくりさんとは手を叩き合いたいことだろう。ちょうど前からユニフォームの一人女がやってきた。行ってみましょう。
「優勝おめでとー!」
「あははっ」ポンと手を叩き、足を止める彼女。まずはさっきの「東京から来たんで、一緒に写真撮って」作戦をカマしてみる。しかし、写真を撮っていたところ、そばにいた男グループが横入りしてきた。
「そのモミアゲって、衣笠じゃろ?」
「似てるとは言われるけど」
「コスプレですかぁ?でも衣笠って古いじゃろ」
嬉々として取り囲んでくるニーちゃんたち。レジェンドに対して、古いってのは失礼なやつらだな。
そうこうしているうちに、ユニフォームちゃんが行ってしまった。ちっ、邪魔されちゃったよ。しかし、そのあと次の女に声をかけているときも、また同じように周りの連中が「衣笠じゃろ〜」と横入りしてきた。さらにその後ももう一回。これは参ったな。さすが鉄人、浮かれた連中に声をかけられやすいわけね。もうちょっと人通りの少ないところに移動しますか。ハイタッチ商店街を後にして歩いていると、つけ麺屋の店内の一人メシ女に目が留まった。赤いカーディガンを着ているってことは…。通りから声をかけられる席に座っているので、聞いてみることに。
「おめでとうございます」
「おめでとー」
「どこで見てました?」
「向こうのバーで」
ま、カープ女子と捉えていいだろう。ロックオンだ。急いで隣に座り、ひとまずラーメンを注文する。「自分、東京から来たんですけど」
「東京からですか?ドームに行けば良かったのに」
「それはまぁ、やっぱ広島に来たくって」
「へー。すごいですね!ヘルメットもかぶってるし」
「まぁ自分、カープがマジで好きなんで。にしても、今日はほんと勝ってくれてよかったですよ」
「やっぱりセイヤがよかったですよね? (注:鈴木誠也選手のこと)」
セイヤ?
「…とにかく優勝してくれてよかったですよ」
「この優勝って、スカウトの力もあると思いません? カープってそんなにお金がないわけだし」
「…そうですね」
何だかいろいろ詳しそうなネーさんだな…。
「どの選手のときに一番目利きがいいと思いました?」
「……それは」
言葉に詰まっていると、もうおしゃべりはオシマイにしましょうかという雰囲気で箸を動かし始める彼女。ダメだこりゃ。退散です。夜23時を回った。まだ町のフィーバーは続いているが、ちょっと疲れてきた。ハイタッチ商店街なんかは、騒がし過ぎてナンパがしづらい。やっとこさしゃべれる相手を見つけても、こちらにカープ知識がないせいか、会話が空回りになってしまう。何だか八方ふさがりというか。今日はわざわざ旅費をかけてきているのだ。オレのナンパは、泥仕合からの逆転ホームランってパターンがよくあるし。もう一踏ん張りするか。アーケードのほうへ向かって歩き出したとき、地元新聞の号外を見せびらかすように持って歩いている女の子がいた。
「おねーさん、いいの持ってますね?どこでもらったんですか?」
「向こう。ドンキの前で配ってますよ」
「自分、東京からきたんで、ちょっと道がわかんなくて。よかったら案内してもらえませんか?」
「いいですよ〜」
食い付いてくれた。よし、逆転ホームランを打ってやるからな。彼女はとことこと先導して歩いて
いく。「おねーさん、今日は、どこで観戦してたんですか?」
「本通りのシダックスのとこ。店の前にテレビが置いてあったんで」
パブリックビューイングをしてたらしい。試合後はハイタッチをし、号外をもらって何となく歩いていたようだ。
「ごめんね。案内してもらっちゃって」
「いえいえ。帰ろうかどうしようか迷ってて、一人でふらふらしてただけなんで」
どうしようか迷ってたんですか。何だか引き止めてほしそうな言い方じゃないの。よくぞ他の男にナンパされずに残っていてくれたもんだ。
「おねーさん、名前は?」
「あゆみです」あゆみさん、何とかしとめてやるからな。ドンキで号外をもらったところで、誘ってみることに。「じゃあ、軽く飲みに行かない?」
「うーん」
「せっかくだし、こんな日じゃない。飲もうよ」
「じゃあ、終電まででいいですか。あ、知ってる店があるんで」
 知ってる店かぁ。…知り合いの客がいっぱいいたりしたらまずいんだけど。あゆみに連れていかれたのは、繁華街からだいぶ離れた、3階建ての飲み屋だった。
「店長がイケメンなんで、たまに来るんですよね」
知り合いの客が集まっているようなノリを心配したが、通された3階は、オレたち以外に客はいなかった。壁に取り付けられたテレビでは、ちょうどビールかけの中継が流れている。
「おっ、やってるねぇ。ぼくらもビール飲みますか」
「そうですね」
「では乾杯」
「おめでとー。このビール会場って東京のどこですかね?」
「うーん、どこだろ。ちなみにもし地元で優勝した場合は、どこでビールかけだったの?」
「えー、どこでしょ。わたし、あんまりわかんない」
なるほど、詳しい子ではないんだな。こりゃあ好都合だ。話はビールかけの話題から、今日の試合をなぞるようなカタチで進んだ。彼女は本当にあまり詳しくないようだった。
「あゆみちゃんは、やっぱり昔からカープファンなの?」
「一応まぁ。でも、よく応援しだしたのは、堂林とかイケメン選手からかな」
「そうなんだー」
イケメンねぇ。オレの顔のことはどう思ってるのかな。もちろん、衣笠ってことでテンションは上がってくれてると思うけど。しかし、飲み始めて30分ほどしたところで、彼女がスマホを取り出した。
「じゃあ私、0時8分の電車に乗るんで、そろそろ」
「えっ?」
 いやいやちょっと待てよ。
「もうちょっと飲もうよ。せっかくこんな日なんだし」
「でも」
「それにほら、こんな衣笠みたいな男と飲めるなんてそうないよ」「…」
 彼女はキョトンとした表情だ。
「衣笠って誰ですか?」
 マジで? オレのことわからずに付いてきたの。
「…じゃあ、よくこんなモミアゲ野郎についてきたね」
「それはまぁ。…店長に号外を渡したかったのもあったんで…」
恥ずかしそうにそう言うと、そそくさと帰り支度を始める彼女。そしてイケメンの店長に号外を渡し、本当に帰って行ってしまった。オレ、照れ隠しに付き合わされただけかよ。店を出たあとは、もう本当に心が折れてしまった。知らず知らずのうちに気分は風俗街のほうへ。と、カープの看板を模した箱ヘル店の客引きが声をかけてきた。
「衣笠!うちで遊んでいってくれんじゃろか」
 バカ野郎、鉄人は落ち込んでるんだよ。