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アルコール依存やギャンブル依存ならわからないでもないが、セックス依存とはなんぞや?セックスが好きでたまらない、毎日でもしたくてしょうがない、そんな人間は腐るほどいると思うのだが。これって病気なのか。どうにも違和感ありまくりだが、自らをセックス依存症と認識する人たちはそれぞれ深刻なようで、彼ら彼女らが依存を克服するために集う自助グループも存在する。同じ悩みを抱えた者同士が痛みを分かち合い、助け合っていこうと結成されたんだそうな。そこで気になるのはセックス依存に悩む女性たちだ。とにかくセックスしたくてウズウズしてるんだから、すぐにヤラせてくれるはずだと思うのだが。ネットで調べると、セックス依存の自助グループは全国にいくつも出てくる。
5月の週末の午後、都内で行われる集会へ訪れることにした。場所は某公共施設だ。会議室に数人の参加者が会議テーブルを囲むように座っていた。
「今日、初めての者なんですが」
「ここは匿名のミーティングですので、ご自分の呼び名を決めてもらってもよろしいですか?」
「ではコバヤシでお願いします」
「コバヤシさん。ミーティングは言いっぱなし、聞きっぱなしが基本です。〝分かち合い〞と言って、自分のお話をして、相手の話を聞くだけ。討論などは避けてください」
性に関する悩みだけに、いいだの悪いだの言い合いになると収拾がつかないうえ恥ずかしいのだろう。あくまで話すだけ、聞くだけ。それで心を軽くするのが目的みたいだ。改めて場内を見渡す。女性は一人だけだ。40代前半らしきショートカット。平野レミ似だ。真面目そうな雰囲気に見 えるが、この女性がやりまくりなのだろうか?男性陣は、坊主頭の若者からスーツ姿のリーマン風、白髪まじりの初老まで、20代から50代までの7人。特にギラギラしたものは感じられない。
「では時間になりましたので、始めたいと思います」
リーダー格の男性が口を開いた。本日の司会役らしい。
「私はセックス依存のアキラです」
「アキラ」(全員が名前を復唱する決まり)
「ここはクローズドミーティングですので、ご自身の性的ソブラエティを望む方だけが参加できます」 聞き慣れぬカタカナ用語が出てきた。手元の冊子によれば、性的ソブラエティとは性的な行為をいっさい辞めた期間のことをいうらしい。つまり一度でもオナニーすれば「ソブラエティが破られた」ことになる。
「今日は初めていらっしゃった方がいますので、ワンデイメダルをさし上げます」
司会者が私の元に近づき、銀色の小さなメダルをくれた。参加者全員からパチパチと拍手が沸き起こる。このメダルは性的な行為をどれだけ遠ざけることができたかを示すもので、日数が増えるごとに色違いのメダルを頂戴できるそうな。続いて、「分かち合い」と呼ばれるフリートークに移った。しばらくの沈黙ののち、1人の男性が口を開いた。
「性依存症者のノブです」
「ハイ、ノブ!」(全員で)
「性的ソブラエティは3週間です。インターネットなどでの画像閲覧、マスターベーション、風俗店への通いなどをしていません。えー、今週は会社でイライラすることが多くて、ストレスを発散したいと何度も思ったんですが…」本人は深刻な様子で告白しているが、エロ画像を見ながらオナニーぐらいしたって何の問題もないと思うが。
続いて、何度逮捕されても行為がやめられない男、同じくノゾキがやめられない男、買春
で掴まった男などが次々と発言していく。こういうのもセックス依存の一種だとは。ただのエロ犯罪者だろうに。ようやくここで本命の女性参加者が口を開いた。
「話します。性依存症者のナオミです」
「ナオミ」(全員で)
「ソブラエティは1ヶ月です。前にも話したかもしれませんけど、小さいときにずーっとAVを見さ
せられて、色んなエロい言葉が頭の中にインプットされてしまって、それで人を見るとエッチな言葉が出てくるんですね。それから色んな人の声が聞こえてくるようになって…」
なかなか興味深い症状に悩んでいるようだ。エロい言葉が頭を離れないなんて。マンコとかペニス
とかがうずまいてんのかな。と、興味津々で耳をすませるオレだったが、告白は徐々に重苦しい方向に。彼女は小さいころから虐められっ子で、大学時代にシャブと売春を始めたが、出会った相手の顔どころか売春したことすらも忘れてしまうほどの記憶障害も出るようになってしまったらしい。
「メールして会った人がいて、本当は前にも会ったことがあるのに、まったく覚えてなくて、でもメールにはちゃんと会った証拠が残ってるんですね」なんだそりゃ。シャブの後遺症じゃないのか。
「以上です。ありがとうございました」
まだ話してないのはオレだけだ。一人だけダンマリも心苦しいので語っておくか。
「性依存症者のコバヤシです」「ハイ、コバヤシ」(全員で)
「僕の場合は風俗通いがやめられなくて。ときにソープ、ときにデリヘル、ときにピンサロとはしご
してしまいます」
嘘ではない。これでオレも皆さんの仲間になれた気分だ。約30分に及ぶ「分かち合い」終了後、全員で目をつぶって黙想し、司会者が全員に起立を求めた。
「Keep coming back! It works, ifyou work it!(ここに来続ければ効果がある!)」
全員が輪になって手を繋ぎ、なぜか英語で叫んで集会は終了した。さあ、ここからが本題だ。あの
エロ言葉が頭にうずまくナオミさんに接近しなければ。男性の1人が声をかけてきた。
「ここが終わったらみんなでカフェに集まるんだけど、一緒にどうですか?」
よかろう。ナオミさんが行くなら行きますとも。しかしカフェに向かう途中も店に入ってからも、常連の男たちが彼女を取り囲んでどうにもならない。こいつら、ひょっとしてオレと同じ目的? あるいはノゾキさせてくれって頼んでるのか。次に向かったのは、教会を会場にしている集会だ。開始時刻ちょうどに到着すると、すでに女性参加者が4人もいた。
1人はNHK小野文惠アナウンサー似の50代、2人目が激ポチャの30代、3人目が顔をマスクで覆った白髪まじりの40代、もう一人はごく普通の主婦としかいいようのない地味目の40代だ。皆さんそれほどエロそうには見えないが、すべては話の内容次第。大いに期待しておこう。
「分かち合い」が始まった。
「性依存症のアカネです」
「ハイ、アカネ」
まずは40代の地味主婦だ。
「ソブラエティは1年です。私は付き合ってる人と共依存関係だったんです。セックスに依存しているという感覚ではなくて、男性というか恋愛に依存しているような感じで…。私の場合、この人が好きとなると、他の選択がありえなくなってしまうぐらい固執するので、セックスしたいと言っても、その人とじゃないと意味がないし…」
どうも、やりまくりではないようだ。好きな男をとことん好きになるだけって、フツーのことじゃん。「今までセックスが好きな人とばかり付き合ってたから、私はしたくなくても、求められると応えちゃって、結局セックスだけの関係になって…」
あくまで好きな人との話でしょ。こりゃナンパのターゲットには向いてなさそうだ。男性は省略し、次はポチャ女。
「性依存のアオイです」
「ハイ、アオイ」
「ソブラエティは半年です。今年に入ってから母親が死んでしまって、お金に困ってて、今また身体
を売りたいと思っています。お金を稼ぐイコール身体を売るという発想になってしまって、売りたい
欲求に負けそうになります。今はギリギリ堪えているけど、どうなるかわからないです。ありがとうございました」 
半年ほど売春をガマンしてるが、今は売りたくて売りたくてたまらない精神状態のようだ。ターゲットとするには金がいるのか…しかもずいぶん太っちょだし。 続いて白髪マスクの40代。
「話します。性依存症者のマリコです」
「ハイ、マリコ」「仕事先に今日みたいなちょっと女の子らしい服を着ていくと、皆が私を舐め回すような、エロイ目で見てくるんですよねー」
 よくもこんな図々しいセリフが吐けるもんだ。自意識過剰なんだろうか。しばらく職場の話題が続き、日々の忙しさをアピールするだけで、性依存の具体的な内容については最後まで語られなかった。最後は小野アナウンサーだ。
「性依存症者のネコです」
「ハイ、ネコ」
「ソブラエティは7年と2カ月です。えーと、最近は仕事にばかり時間を取られていて…」
7年と2カ月もエロから遠ざかってるとは、もはや蜘蛛の巣状態か。こんなとこに来なくていいと思うんだけど。
「ここへ来るのを辞めると、また以前の状態に戻るかもという不安があるので、また参加したいと思っています。ありがとうございました」
以前の状態ってなんだ? 気になるな。そこをしゃべってくれなきゃ。
マクドナルドでの二次会に誘われたので、迷わず参加した。狙いは売春グセが治らない、激ポチャ
のアオイちゃんだ。しかし、マックに彼女の姿はなかった。さっさと帰ってしまったようだ。まっすぐ売春に向かったのか?残る3人はどれも厳しそうだがどうしよう。とりあえず恋愛依存のアカネさんから探りを入れるか。「アカネさんは、なんでこのグループにたどり着いたんですか?」
「ネットで知り合った男の人と不倫してたんだけど、一回しか会ったことがないのに、もう彼のことしか考えられないみたいになってしまって…」
またその男の話かよ。ただ遊ばれてただけだってば。んじゃ次は自意識過剰のマスク40代、マリコさんに。
「なんかねー、ついつい男の人に指図しちゃうんだよねー。でさ、奴隷の1人がさー、私に連絡してきて、元気ですか? って聞いてきて、返事しちゃったんだよね。やっぱさ、昔からさ、いい人たちなんだよね彼らは。なんっでも言うこと聞いてくれるし」
なんの話かと思えば、趣味でSMの女王様をしてるんだと。この人、別に悩んでなんかいないんじ
ゃないの? パス!そしてもう一人、7年以上もエロから遠ざかってるネコさんは、自分のことを話したがらず、ただただ周りの話にうなずくだけだった。蜘蛛の巣ならではの余裕か。ターゲット0。セックス依存なんて言葉に過大な期待をしてはいけないことを学んだだけの二日間だった。