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  • 2019/01/14お金の話

            居酒屋の大手チェーン『和民』が話題になった。26才の女性社員が100時間近い残業を強いられた挙げ句、入社2カ月で自殺したという〝事件〞が報道されたのだ。当然のようにネット上では、『ブラック企業』との批判が相次いだ。が、こうした会社は決して珍しい存在ではない。山田泰介氏(仮名、20代)は、全国に500店舗以上を展開する、大手の激安中華料理レストランチェーン...

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  • 2018/08/21突撃リポート

             11年前、35才の夏、運送会社を辞めたばかりのオレは、地元からほど近い冷凍倉庫でバイトすることにした。この冷凍倉庫は物流会社が持っているもので、アイスや冷凍食品、加工食品などを一挙に集めてそこから各店舗に配送するためのいわば中継地点のような場所だ。面接後すぐに採用になった。仕事内容は、冷凍倉庫のなかでの商品仕分けだ。初日朝、現場に到着したら社員さん...

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激務の飲食店・ブラック企業入社体験記

0220_2019011412293095d.jpg 0221_201901141229313d5.jpg 0222_20190114122932695.jpg 0223_20190114122934d5c.jpg 0224_201901141229354e4.jpg 0225_20190114122937772.jpg 0226_2019011412293884d.jpg 0227_20190114122940019.jpg 0228_20190114122941d2f.jpg居酒屋の大手チェーン『和民』が話題になった。26才の女性社員が100時間近い残業を強いられた挙げ句、入社2カ月で自殺したという〝事件〞が報道されたのだ。当然のようにネット上では、『ブラック企業』との批判が相次いだ。が、こうした会社は決して珍しい存在ではない。山田泰介氏(仮名、20代)は、全国に500店舗以上を展開する、大手の激安中華料理レストランチェーン「O」で働き、あまりの激務のため1年間で退社した人物だ。和民よりもはるかにハードかも知れぬ中華料理店での、真っ黒な日々を語ってもらおう。 2年前、高校3年のとき。就職を考えていた僕が、進路相談の際、学校の先生からすすめられたのが激安中華料理チェーンOだった。
どんな会社なのかはよくわからなかった。全国的には有名みたいだけど、僕が住む九州の県には一軒も店舗がなかったのだ。先生はこれから伸びていく会社だという。仕事内容は厨房のスタッフ。要はチャーハンやラーメンを作るってことか。
「条件はどんな感じなんですか」
「こんなかな」
差し出された求人票によれば、給料は額面が16万円(ボーナスは年2回)。高卒ならこの程度か。
勤務時間は、10時〜23時くらいと、やや長かったようなイメージがある。休みは週2回。まあ普通だろう。残業代についても、支給されると明記されている。
「料理なんてしたことないんだけど、僕にできますかね」
「成せばなるだよ。飲食は不景気にも強いからね、いいと思うよ」
やってみるか。他にやりたいことがあるわけでもなし、こうして福岡・天神の貸事務所のようなところで入社試験(三桁の暗算と英語のヒヤリングのみ)を受け、同じ日に面接を済ませると、後日、自宅に合格通知が届いた。カンタンなものだ。
「よかったな」
「ホントだよ〜」
両親が満面の笑みを見せる。ほいほい。立派なコックになって、オイシイ中華料理をいつか喰わせてやるからな。その後、福岡で合格者の合同説明会が行われ、関東の某店舗に配属が決定した。住まいは会社の寮(家賃は自己負担)に入ればいいとのことだ。ギョウザ、焼きまくるぞ!
会場の親たちはみなドン引きしていた
4月、京都の体育館のような会場で入社式が行われた。いよいよ今日から社会人か。不安と希望がないまぜになった妙な気分だ。会場には、全国からおよそ100人の新入社員が参加していた。僕と同じ高卒がメインなのか、とにかく若い。男女の比率は6対4ってとこか。片隅には、新入社員の父兄も来ていて(僕の両親もいた)、さながら高校の入学式みたいな雰囲気だ。偉いさんが壇上でスピーチを始めた。
「初めまして。私は…」
退屈なしゃべりが終わり、続けて一社員が壇上に上った。
「飲食の仕事にとって一番大事なのは返事です。いまから事前に練習するから、私が『社員起立』と言ったら、全員で大きな声で『はい』と答えて、席を立つように」
先までダラけていた会場の雰囲気が一変した。「社員起立!」「はい!」
全員が大きな声で立ち上がるや、社員からゲキが飛ぶ。
「声が小さい! もう一度!」
「は、はい!」
席についたところで、
「社員起立!」
「はい!」
続いて、全員一斉ではなく、新入社員個人個人の名が読み上げられ、大声で立ち上がる儀式がスタートした。
「山田太郎!」
「はい!」
「声が小さい! もう一度!」
「はい!」
こんなのを100人分もやるのかよ。どんだけ時間かかるんだ。何回もやり直しさせられてるヤツもいるし…。いよいよ僕の番だ。緊張するなあ。
「山田泰介!」
「はい!」
「声が小さい! もう一度」
「はい!」
2回で着席を許された。あ〜助かった。にしても、なんでこんなことをやらせるんだろう。軍隊にしか思えないんだけど。見ると、会場の親たちはみなドン引きしていた。母ちゃん、父ちゃん、そんな顔せんとって!
外部と連絡できるツールはすべて没収
入社式が終わったら、新入社員は全員そのままバスに乗り、神奈川県へ移動した。2泊3日の新人研修のためだ。到着したのは、足柄山の中にある合宿施設だった。ロビーに全員が集合したところで、5人の社員が登場した。彼らが僕らの指導に当たるようだ(講師という)。
「今日からここでキミたちに研修してもらう。厳しいかもしれんが、耐えるように」
「……」
「今から外部との情報を遮断する。テレビや新聞などの娯楽も一切ないからそのつもりで」
「……」
「では、携帯やパソコンなどの私物はすべてこちらで預かる。全部、出すように」
呆然とする皆を尻目に、私物チェックが始まった。講師がカバンをあさり、外部と連絡できるツールはすべて没収だ。中には、もってきたお菓子を取り上げられたヤツまでいる。講師が続ける。
「これから各部屋の部屋長を決める」
研修では一部屋に一班(5〜6人)が泊まり、行動もすべて班単位で行う。そのリーダー決めだ。幸い、僕は選ばれずに済んだが、ほっとするのも束の間、すぐに部屋の掃除をやらされた。
「これからお世話になるんだから、ピカピカに磨き上げろ!」
へいへい、わかりましたよ。翌日は朝6時にたたき起こされた。眠い目を擦りながら、グランドに集合すると、すでに5、6人の講師が勢揃いしていた。まずは合図に従って、社員全員で会社オリジナルの「O体操」開始。音楽のないラジオ体操みたいなものだ。体が暖まったら朝食を挟み、2〜3の班単位で会議室のようなところに集合だ。渡されたのはこんなことが書かれたテキストだ。
●O5訓=接客の心構えを説いた
5つの社訓
●O10訓=経営の心がまえを説いた10の社訓
●接客7大用語=接客の際に使われる重要な7つのことば。
つまり全部で22。最終的にはこれを一語一句、正確に覚えるらしい。かなりの文章量だけど大丈夫だろうか。まずは講師と一緒にO5訓を唱和だ。
「一つ! Oは常に味に挑戦しよう!」
講師が大声を上げたら、新入社員たちも声を張り上げる。
「一つ! Oは常に味に挑戦しよう!」
「一つ! Oは常に真心でお客様をもてなそう」
「一つ! Oは常に真心でお客様をもてなそう」
こんな調子で5訓、10訓、7大用語をすべて読み終えたら、続いては個人一人ずつ順番に発声だ。
ほどなく、番が回ってきた。
「山田泰介!」
「はい!」
サッと立ち上がる。目の前には新入社員が20人。う〜緊張するなあ。僕はテキストを見ながら、大きな声を張り上げた。5訓の制限時間は8秒。オーバーするとやり直しだ。
「一つ! Oは●▲□×●▲□〜」
早口を通り越して、自分でも何を言ってるのかわからない。それでもどうにかすべてを言い切ったところで、ゲキが飛ぶ。
「9秒もかかってる! もう一度!」
「はい!」
こうして丸一日がこの調子で進んだ。最初はテキストを見ながらそして徐々に暗記。最終試験では、22のフレーズをすべてソラで読み上げられた者だけが合格だ。失格者は何度もやり直しだ。僕はなんとかクリアしたが、やり直しの連続で泣き出す者までいた。
でも講師は容赦しない。
「合宿中に覚えられなかったら、本社に親を呼んで一緒に覚えさせるぞ!」
客の食べてる前で皿が飛ぶ
バカみたいな研修が終わり、僕は関東の店へ配属された。さあ、いよいよ本番だ。店は郊外型の大型店舗で、従業員は店長の他、チーフが1人、僕ら新人3人を含めた社員が5人、パートとバイトが交代で10人ほど。なかなかの大所帯だ。
「初めまして。これからよろしくお願いします」
「よろしく」
挨拶が済み、チーフから業務の説明があった。営業時間は朝の11時30分から深夜2時までで、新人のうちは朝11時に来ればいいらしい。マニュアルがないので、仕事はすべて上の人間が実地で教えていくとのことだ。最初の持ち場は洗い場だった。ただひたすら皿を洗い、空いてる時間にメニューを見て料理の名前と値段を覚えていく。
昼になり、まかないが出てきた。チャーハンと餃子だ。遅まきながら、これが僕の初めてのO体験だ。うん、うまい。これで600円ちょっとなら、客も押し寄せるよなあ。なんて呑気にしてられたのも最初だけだった。新入社員が慣れてきたと見るや、厨房のあちこちで怒号が飛び交い出したのだ。「テメー、キャベツ切ってねえじゃねえかよ!」
「す、すいません!」
ピリピリした空気が漂う中、僕にも叱咤が飛んできた。
「おい、この皿、ちゃんと洗ったのか!汚れてんじゃねえかよ、バカ野郎!」
放り投げた皿が体にぶつかる。何もそこまでしなくても…。
「なんだ、文句あんのか!」
「いえ、申し訳ありません!」個人経営の店ならまだしも、天下の大企業でこんな仕打ちを受けるなんて。しかも厨房は、客から丸見えなわけだし、食欲を無くすんじゃ?
残業100時間越えで残業代ゼロ?
3カ月が過ぎ、僕は焼き台とフライヤーの担当になった。餃子を焼いたり、春巻きや唐揚げを揚げる役目だ。一見、難しそうだが、タイマーで決められた時間に具材を引き上げるだけなので、コツさえわかれば、誰にでもできる仕事だ。むしろキツいのは勤務時間の増加だった。店長やチーフが当然のように残業、早出を言いつけるようになってきたのだ。
「明日、仕込みのパートが休みだから、早出してくれ」「はい」
「それと今日、店が閉まった後の掃除もやっとけよ。隅々までキレイにな」
「わかりました」
新入社員の立場では断ることもできず、いつのまにか朝9時から深夜2時までのフル稼働になっていた。休憩の1時間を除き、実働16時間だ。 たまの休日も油断ならなかった。しばしば店長から電話がかかってくるのだ。
「忙しいから、すぐ来い」
「でも、僕、いま友達と遊んでるんですけど…」「あ〜、口答えすんのか? とにかく来い!」
こうして週2の休みは1日、また1日と減らされ、月に3日休めればいい方になった。
それだけ働けば、残業代がとんでもない額になるのでは?
との期待はまったくの的外れだ。残業時間が月100時間を軽く超えても、一切残業代などつかないのだ。先輩社員に聞いたことがある。
「あの、残業代ついてないんだけど、これってどういうことなんですか?」
「はあ? 飲食店にそんなもんあるわけないだろ」
あるわけないって、高校の求人票には『支給』と書いてあったのに。
「お前だけじゃなくてみんなそうなんだよ、下らないこと考えてないで、頑張って上にあがれ。そしたら給料があがるから」
上にあがるまで、手取り13万円の安月給で我慢しろってか。ていうか、上に上がるのっていつのことなんだよ。

ブラック企業の現場ルポ・冷凍倉庫での商品仕分けと言う仕事

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初日朝、現場に到着したら社員さんから大げさな服を渡された。
「じゃあこれ作業着ね」
 雪山で使えそうなフードつきのコートとモコモコのズボン、そしてスキー仕様の手袋だ。まあ冷凍倉庫って言うぐらいだしこれぐらい厚着したほうがいいんだろう。Tシャツ短パンの上からそれらを着込み、倉庫に入る。衝撃はいきなりやってきた。鼻先に激痛が走り、少し遅れて全身に寒気が襲ってくる。思わず「うわっ!」と声をあげてしまった。マジかよ、こんなに寒いの?社員さんについていく形で歩き出すも、前方から寒気がぶつかってくるせいで、一気に下っ腹が痛くなってきた。
「じゃあまずは仕分けね。ここの段ボールの中身を出してチェックしてくれる?」
指示に従って段ボールに手を伸ばし、箱一杯に詰められたアイスクリームをいくつかのカゴに入れていく。単純作業のせいか、それともやっぱり異常な寒さのせいなのかわからないが、だんだんと目が開かなくなってくる。1時間もしないうちに休憩時間がやってきた。倉庫を出た瞬間に今度は異常な暑さを感じる。社員さんに尋ねてみた。
「あの部屋って何度ぐらいなんですか?」「マイナス25度」
と聞いてもピンとこなかった。後で調べれば、自宅の冷凍庫がだいたいマイナス15度〜20度ぐらい。日本国内の自然界でその気温を体感することはまずなく、冬の札幌の夜の気温でだいたいマイナス10度前後らしい。
「だから45分やったら15分休憩入れる決まりなんだよ。そうしないと凍えちゃうでしょ?アハハ」
…たしかに。よくわかんないけど顔の筋肉が動かしづらくて口を開けるのもぎこちないし、指もカチコチのままで感覚がない。この作業を8回繰り返し、日当9千円。割がいいのか悪いのか…。
倉庫は24時間稼働してるが我々の仕事は、日勤・夕勤・夜勤の三交代制だ。それぞれ7、8名ずつで対応し、オレは朝9時から夕方6時までの日勤に入ることになった。数日間働き、おおよその流れがわかってきた。この会社にある倉庫は2つ。〝チルド〞と呼ばれるマイナス5℃程度のものと、オレが働く〝フローズン〞だ。フローズンの中にもランクがあり、この会社にはマイナス25度のF1級しかないが、よそにはさらに低温のF2F3などもあるらしい。
出勤すればタイムカードを押し、着替えて入室。するとすぐに顔に痛みが訪れる。防寒服を着てフードを被ってるが顔はモロ出しだからだ。遅れること数十秒で全身に寒気がやってくる。ちょっと手を動かすだけで冷たい針が刺さるような感覚がずっと続く。仕事内容は、かいつまんで言えば、手作
業による段ボール箱の荷下ろしにすぎないのだが、入室まもなくで、物を持つことが困難になってくる。5キロほどの段ボール箱が何倍もの重さに感じられるのだ。寒さで筋肉がヘンになってるんだろう。
20分ほど経つとどういうわけか異常な眠気が襲ってくる。そして作業中に一応は汗をかいてるらしく、それが冷えてさらに寒気が止まらなくなる悪循環。本当に気を失いそうになる。吐き気がやってくるのもこのころだ。理屈はわからないけど腹の底から上ってきてゲーっと吐いてしまう。そのため現場にはそれ用のゴミ箱が用意されている。入室して30分で、まぶたの動きが鈍くなる。目から涙が止まらず、それが凍って氷柱状になったりもする。
 カラダが硬直してきたところで例の15分休憩がやってくる。休憩室ではすぐにカラダに熱を帯びてきて、汗をかくほどだ。こんなことを1日8回(昼休憩を抜いて)やって終了。たまたま夏に仕事を開始したこともあり、外気は夜でも30℃近く。倉庫との差は60℃になる。おかげで体調はむちゃくちゃになった。すぐに風邪をひき、鼻水が倉庫内でカチコチになって息苦しくなる。それをはがそうとすると皮が剥けて血が出てくるし、唇もカサカサして少し触るだけで血が流れてくる。オレだけの話じゃなく、一緒に働く作業員みんながそうだ。誰もが唇カサカサ、鼻の穴は切り傷だらけの痛々しい顔になっている。こんな現場なのに作業員には女子も数人いるのだからタフというかなんというか。春になり正社員採用されることになった。なぜか。理由は単純に「続いてる」からだろう。
 この仕事を始めてから、逃げ出した人間を何人見てきたことか。バイト初日のヤツが冷凍倉庫に入って10分後に消えているなんてことはザラだ。バックレるのはなにもバイトだけではない。その春、新卒入社組の5人が研修にやってきた。最初は現場(冷凍倉庫)で仕事を覚え、後に管理業務にまわるらしい。彼らにとっての初日。いきなり冷凍倉庫に投入され、全員が大きな声をあげた。
「サムっ!!」
「正気かよ!」
「キャー!!」
初日の午後、昼飯中に現場リーダーが声をあげた。
「あれ、○○と××は?」
新卒2名の姿が見えない。慌てて電話したようだが結局連絡はつかなかった。なんと、研修初日の午前で逃げ出したのだ。残った3人のうち、さらに2人が1週間以内に退職希望の旨を伝えて去っていき、最後の1人も1カ月続かずにやめていった。最後の彼は休憩中にこんなことを言っていた。
「人間の働くとこじゃないっすよね。病気とか大丈夫っすか? マジで検査してもらったほうがいいですよ。池田さん、なんか顔コケてません?」
…たしかに、頬に黒ずんでる部分がある。安田大サーカスのヒロみたいな感じだ。入社前はなかったものだけど…。こんな調子だからウチの会社は年中、求人募集をかけている。入ってくる人間で半年続くのは1人、2人ぐらいの世界だ。冷凍作業員になって1年ほどが経ったころ、久々に高校時代の友人と飲みにいくことになった。待ち合わせの駅前で友人が口を大きく開けて固まっている。
「……池田?大丈夫かよ」
「は?なにが?」
「オマエ痩せすぎじゃね?」
たしかに体重はガッツリ落ちていた。入社当時は75キロでぽっちゃりしていたのに、そのころは60キロを切っていた。はたして冷凍倉庫のせいなのか。寒い中で動くためにカラダがカロリーを消費してるってことなのかもしれない。ちなみに現在のオレの体重は42キロしかない。身長は175。やっぱり寒さのせいかも。ツレ全員が揃って居酒屋に入ってからも、話題の中心はオレの容姿についてだ。
「顔の色ヤバくない?」
「なにが?」
「なんか紫色じゃん。その仕事ってなんかマズイんじゃないの?」
「んなことねーだろ。普通にメシとか食ってるし」
強がってみたものの、「顔色が紫」と聞いて内心ドキドキしていた。自分では気づかなかったけどそうなのか?翌日、仕事場で他の作業員の顔を確認してみる。たしかに赤黒いというか紫に近い色だ。
「あの、オレらって顔が紫色になってるんすかね?」
「あ? あー、良く言われるしそうかもな。でもさ、スキー場とか行っても赤くなったりするじゃん。それと一緒なんじゃねーの?」
いや、それは雪ヤケだから違うと思うけど…。オレなりに調べてみたが、紫になるのはおそらく凍傷の症状のひとつと思われる。現場ではマスクなどしていないため、それが顔にあらわれるのだろう。
入社して5年ぐらい経ったある日、大事件が起こった。お盆のある日。この時期ウチの会社では物量がガクンと減り、深夜勤務がなくなる。この日は夜8時ぐらいになってオレを含めた全員が倉庫から出て退勤していった。しかし、誰もいないと思われた倉庫に残っていた人間がいたのだ。閉じ込められることがないよう細心の注意が払われているというのに。
「5人入って、5人出てきた」みたいなチェックこそしていないが、入退出はタイムカードで把握できるようになっている。万が一閉じ込められたとしてもドアは内外どちらからでも開けられるし、壁に設置された自動ロック制御のシステムも双方向から動かせる。さらに警備員が1時間に1回の見回りをする徹底ぶりだ。この日も作業員や事務の人間は帰宅していたが、警備員だけは通常どおり業務を行っていた。でも閉じ込められたのだ。入社したての20代後半の兄ちゃんが。これは非常に偶発的な事故だった。
まず、彼はオレたち作業員が撤収するずいぶん前から倉庫奥の資材置き場で動けなくなっていた。腹痛と手足のしびれにより倒れこんでいたわけだ。場所柄そこに人が来ることは少ないために誰も気づかなかった。だんだん意識が朦朧とする中でいちおう大声を出したらしい。だけどそんなのは聞こえるはずもない。全員フードを被って仕事しているから倉庫内ではなかなか声が届かないのだ。
午後10時ごろ、つまり倉庫内に一人きりで残されて2時間後、彼は見回りの警備員によって発見された。すぐに救急車が呼ばれ、全身が硬直して冷凍マグロのようになった彼は搬送された。こういった事故は5年に1回ぐらいは起こってしまうものらしい。幸い彼は死に至らなかったものの、呼吸器系に障害が残ってしまったそうだ。カラダの変化はみるみる加速していった。その最たるものが指だ。
きっと凍傷なのだろう。毎日指の感覚はなく、仕事が終わって帰りの電車に乗り、40分ほどで地元駅に到着するころ、ようやく治るほどだ。それにくわえて慢性的に動きが鈍くなったように思う。文字を書こうとペンを動かすとき、思ったような運びかたが出来なくなった。字がヘタになったなぁと実感したのはケータイの機種変手続きのときだ。受付のお姉ちゃんが言うのだ。
「すいません、審査が通らない可能性があるので、もう少しキレイに書いてもらえますか?」
自分の名前ですらこうなので他の文字なんてもっとヒドイ。ケータイと言えばメールを打つのもひと
苦労だ。「あ」を押すつもりが「ま」になってしまったり、フリック入力(指をなめらかに動かす文字入力方式)なんてとてもじゃないが出来っこない。だけど自分はまだいいほうだ。凍傷になって指を切る人もときどきいるし、バイト初日で手の指すべてが青紫になって凍傷と診断されたヤツだっていた。年を取ったせいもあるだろうが、作業中に膝とヒジが割れるように痛いのもしょっちゅうだ。こんな状況でもときには笑えるようなコトもある。3年ぐらい前、大学生カップル同士で来たバイトがいた。二人はいつも仲良さそうにしていた。休憩中は手を繋いでるし、ときどきチュっとやってるのも見たことがある。「こんなとこでヤルなよ」と呆れていたものだ。そんなある日、倉庫内がいきなりバタバタしはじめた。作業員たちが走って出て行き、しばらくして救急隊員が入ってきたのだ。なんだなんだ?隊員によって担架に乗せられていたのは例のカップルだった。唇がくっついたまま泣きじゃくっている。どうやら冷凍倉庫内でキスしていたところ、瞬間的に凍ってはなれなくなってしまったらしい。この一件をきっかけに『倉庫内キス禁止令』が出されたときは笑ってしまった。それにしても、こんな過酷な現場に女性がいることは、オレにとっては驚きでしかない。
ある女性作業員に相談されたことがある。
「あの、すごく言いづらいんだけど聞いてもらえませんか?」
「どうしたの?」
「この会社に入ってからね、生理がオカシクなったの。今じゃ3カ月も来てなくて…どうしよう」
彼女は24才で結婚している。半年前からウチで働きはじめたのだが、生理不順にはじまり、ついにそれ自体が来なくなったそうだ。「ワタシは絶対ここのせいだと思ってます。だって他に原因は思い当たらないし…」
「病院に行ってみたほうがいいんじゃない?」
「行きました。でもわからないって。ストレスとかそんな可能性もあるとか言われて。でも絶対この仕事のせいです」
そんなのオレに言われてもわからない。だけどきっとそうなのだろうなぁとは思う。あの寒さが女性の体に悪影響を与えないとは思えないのだ。
ウチの倉庫で働く社員は自分を含めて10人程度。それとパートや派遣バイトを合わせて25人ほどが現場作業だ。さらに、事務方も6人働いている。オレが言うのもなんだけど、冷凍作業員は皆、うつろな眼をしている。頭がボーっとするせいか、休憩や昼食時も会話をほとんどしない。食堂なんて静かなもんだ。まあそこが気楽と言えば気楽なのだが、それを事務方が小馬鹿にしてくるのが耐えられない。ある日、伝票通りの仕分けが出来ておらず、当事者のオレは事務のおばちゃんに呼び出された。
「なんで間違えるの。アナタここ長いんでしょ?」
「すいません」
「今まであまり言ってこなかったけど、ちょこちょこあるわよ。どういうつもり?」
ただただ平身低頭謝るオレに、この婆は言った。
「寒いとこにいるから頭ヘンになっちゃったんじゃないの?」
「え?」
「とにかく気をつけてよね。アナタたちの尻拭いをするのはこっちなんだから」
同じ会社に勤める人間なのに……。冷凍作業員は頭がオカシイってか?さすがにこうもはっきり言われることは少ないが、奴らがオレたちを見下してることは明らかだ。たとえば伝票の修正をお願いしに行くと、
「うわ、現場の人はこっち(事務スペース)来ないでよぉ。うちらまで寒くなっちゃうから」
社内ですれ違うときには、
「大丈夫か?生きてるか?凍っちまってないか?」
帰宅時に出口で会ったときなんかも、
「ああ寒いなぁ。あ、キミは暑いか。あんなところにいたらどこ行っても暑くて大変だよな。サウナ要らずってか。ギャハハ」自分らは特権階級とでも思っているのだろうか。オレらが極限状態で働いてるからメシを食えてるんだぞと言ってやりたいところだけど、そんなムダなことをやって何かが変わることもないだろう。なんとか11年続けてきたオレだが、なにか妙な診断をされるのが怖くて病院に行ったことはない。
最近では簡単な計算が出来なくなった気がするし、物覚えも悪くなった。職質されたときに自分の名前が思い出せなくて悩んだこともある。冷凍倉庫のせいだという確証はないけれど、もちろん、そうじゃないとも言い切れない。
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