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「今までヤッた女の大学名を挙げてみよっか」
編集部6人が順々に名を挙げていく。早稲田、慶応、青山、立教、明治、法政といった有名どころから、富士短大、東京家政などの無名大まで。みんな、なかなか頑張ってらっしゃる。
しかし大事な名前がなかなか出てこない。
「東大って誰もいないの?」
みな、無言になった。日本中の秀才が集う東大生には、かつて誰もお相手してもらっていないのだ。俺は桜美林大学という、名だけはあるが実のない学校を卒業している。偏差値だと50とか。在学中も卒業後も、東大生との接点などまったくなかった。今後もないと思う。学歴コンプレックスの裏返しか、はたまたさらにその裏返しか、東大の女子をヒーヒー言わせたい願望は、確かになくはない。でもどうすれば?じっくり考えた。じっくり。さらにじっくり。そうだ、こっちも東大生になればいいのでは?桜美林みたいな顔して生きてりゃ相手してくれないけど、東大生なら東大の女子も安心すんじゃん。といっても今や偏差値40くらいになった俺では、ヤフー知恵袋でカンニングしても合格はかなわない。だからこうする。東大の合格発表会場でガッツポーズして大げさに喜び、合格したことを周囲にアピールし、同じく合格して舞い上がってる女の子に声をかけるってのはどうだ。同じ難関を突破した者同士、意気投合するのはカンタンな気がするのだが。祝杯でも上げれば、そのバージン(たぶんね)をいただけるのでは。我ながらナイスアイデアだと思ったのだが、まわりに意見をうかがったところ、全員が全員にこう言われた。
鏡を見ろ。そして、目の前のバカ面のオッサンが、東大に合格しそうか考えてみろ。受かったなんて言われても、誰も信用するわけないだろうと。失礼極まりない話だが、一理ある。身なりは整えたほうがいいかもしれない。ならば学ランはどうだ。合格発表の場に学ランがいれば、どこから見ても現役合格生、超秀才クンだ。さっそく学ランをレンタルし、さらに秀才っぽくズボンの丈を短く修正。白いスニーカーに白靴下、100均のメガネ、制帽をかぶればできあがりだ鏡の前に立ってみた。うん、いるいる、秀才ってこんな感じだよ。
3月10日。東大合格発表の日がやってきた。発表の昼1時を待ちきれず、赤門あたりをうろちょろする。と、周りから妙な声が聞こえてきた。
「あの人、希少種だよね」
「キテレツ大百科のべんぞうサンみたい」
「てか、何であんなにズボン短いの」
ったく、秀才センスについていけない偏差値30の通行人が好き勝手ほざきやがって。お前たち、オレが大臣になったらすぐに仕分けしてやる。キャンパス内はすごい賑わいだった。応援団やブラスバンドが会場を盛り上げ、食いモンや東大グッズ、試験問題を売る露店まで出ている。まるでお祭りだ。さすが東大というか、特に理系の発表掲示板の前には、見るからに頭の良さそうな男子連中がウヨウヨいた。文系のほうは、女子もパラパラいる。狙うならこっちか。化粧っ気がなく、ぶっちゃけカワイクないけど、東大生はこの段階で青田買いしておかないとな。よーし、じゃあ行くぜ!掲示板の前に突進だ!
「あぁぁぁ、あったあった!よっしゃー!受かったーー!」
思い切りガッツポーズを決めて、そのままジャンプ。おりゃー!次の瞬間、大男たちに取り囲まれた。アメフトサークルの連中だ。
「合格おめでとう!わっしょい、わっしょい」うわわわ、いらんことすんな。オレは女を探しに来たんだから。下ろせ、下ろせ。はぁ、まったく迷惑な連中だぜ。おっと、そこにいるのは合格女子ちゃんじゃないか?
「受かった?」「…あ、はい」
「おめでとう。ぼくもだよ。ピースピース」
「はははっ」 
彼女はニコニコと笑った。が、すぐにくるりときびすを返し、友達のほうに向かう。だよね、友達と喜びあったほうがいいよね。うろちょろするだけでは、ただのべんぞうサンなので、合格者だとは思われない。オレは何度も掲示板前に向かっては、ガッツポーズを繰り返し、近くの女子に声をかけた。しかしこれがなかなか意気投合に至らない。例えば、
「ぼくも文Ⅲ受かったんですよ」
「そうなですか」
「一緒に記念写真撮りませんか」
「…え、そんないいですよ」 
例えば、「おめでとー。握手握手」
「……あ、いやいいですから」どの子もオレと一緒にいるのが恥ずかしそうな感じで立ち去ってしまうのだ。男慣れしてないんですね。恋愛なんてしてこなかったんですね。青春時代、学校と代ゼミとZ会しか知らなきゃこうなるか。
ならば今度は親子連れを狙ってみよう。けっこう多いのだ、母親と一緒に来てる子が。過保護かよ。
もちろん親子丼なんて大それた狙いはない。まずはこの場で母親公認の仲になって、入学後に娘さんのバージンをいただいちゃう作戦だ。狙いを定めた母子の横で、オレは携帯を取り出した。
「受かった受かったよ。そうだよ、お母さん、やったよ!」一芝居打ったあと、母親に会釈する。
「あ、娘さん、合格されたんですか」
「はい、そうですが」
「ぼくも母親がすごく応援してくれたんで、いま電話したとこなんです」
母親はこっちをジーっと見てる。汚らわしいものでも見るような目で。
「春からは、娘さんと同級生になりますので…」
「いいですから!」
娘に近付こうとしたオレを、母親は手で払いのけた。できることは全部やっておこう。今度は、田舎の高校生という設定だ。田舎者ならウサン臭さが薄れるはず!ちょうど女の子がいた。オレの出身、高知の方言で声をかける。
「おまんも、受かったがかえ?」
彼女はぎょっとした顔で振り返った。
「わしも受かったがって」
「…そうなんですか」「ゆーたら、高知から出てきたがやけど」
「そうなんですか」
「せっかくやき、いっしょに学校でも見てまわらんかえ?」
「…いやあ、ちょっと」
「それやったら、茶ぁーでも飲まんかえ?」「…ちょっと、用事が」
彼女はあとずさりしていった。何をビビってんの。田舎の純朴なガリ弁クンに。
目の前に女の子を見つけた。口に手を当て、目を潤ませ、何度もうんうんとうなずいてる。そうか、そうだったのか。最初からこういう子を狙わなきゃダメじゃないか。感激してるんだから誰かと喜びを分かち合いたいに決まってるじゃん。
「合格したの?」
肩に手をのばすと、彼女はコクリとうなずいた。
「そんな感じがしてさ。おめでとう」
「ありがとうございす」「実はぼくも通ったんだ。文Ⅱなんだけどね」
「あ、私もです」大丈夫か? 文Ⅱでボロは出ないか?文Ⅰにしておくべきだったかな。
「いやー、そうなんだ。春から同級生だね」
「はいっ!」
「せっかくだから、ちょっと座ってしゃべろっか」「はい」 
とりあえず赤門の真ん前にある喫茶店に入った。彼女は埼玉の進学校出身の一浪生で、去年、せっかく早稲田に受かったのに浪人したんだと。相当、意志が強いんだろう。手強い秀才だ。
だがオレは逆にチャンスとみた。現役生ならば厳密には3月いっぱいまで高校生なので、うかつに手出しできないが、浪人生なら今晩すぐモノにしちゃってもいいんだもん!受験ネタはボロが出そうなので、地元の高知の話題で夜までの時間を稼ぐとしよう。日が暮れたら祝杯をあげるのだ。
話の途中でツッコミが入った。
「どうして制服なんですか?」
浪人生と現役生。彼女のほうが年上ということで話は進んでいるはずなのに、敬語なのはなぜか。なんか怪しんでるとか?
「うん、ぼくは合格するまでは高校生の気分でいたかったから」
「へえ…」
顔が笑ってる。無事に切り抜けたと思いたい。じゃあ次はオレが核心を突く番だ。
「恋愛とかどうなの?」
彼女があからさまにビックリした。ガリ弁野郎が、恋バナを切り出すとは予想外だったのか。
「カレシはいないですよ」
ほい来た。
「どんなタイプが好きなの」
「オシャレな人が好きかな」
春から東大生なのに、将来は日本を背負って立つ人物だろうに、まったく気遣いのできない子だ。丈の短いズボンをはいたこのオレの前で、「おしゃれ」なんて禁句だろ!