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1コ下の弟から相談電話がかかってきた。
「兄ちゃん、このまえ、大学時代の先輩から数年ぶりに電話があって、飲みにいったんだけどさ」
弟を飲みに誘い出した先輩は、その席で唐突に質問を始めたそうだ。もし10万あったらどうする?
ふーん、じゃあ100万なら? 1千万なら? あれをしますね、これをしますねと弟が妄想を語ったところで、先輩は言ったらしい。いまお前が語ったような夢が実現する話があるんだよ、と。
「鍋とか浄水機のいい商品を、人に勧める仕事なんだって。その商品は普通には売ってないから、み
んな欲しがってるんだって」
アホか、この弟は。それマルチじゃん。いい歳して何に興味持ってんだよ。
「それ、ララウェイ(仮名)とかって言ってなかったか?」
「うん、それそれ」
「バカ。そんなもんに手出すなよ。借金抱えるぞ」
「だけど、その先輩が言うんだよ。実際に成功した人のパーティがあるから見に来たらいいって」
 ふーん、成功した人ねぇ。そりゃまあ、一部にはいるのかもな。で、そのパーティでわざとらしく金満ぶりを見せつけて勧誘しようって魂胆か。なんだか下劣そうで楽しそうじゃないの。
「わかった。兄ちゃんが代わりに見てきてやる。お前は行くな。誘惑に弱いからな」
会場ではララウェイの話はしないで
「兄が興味を持ってる」と弟から連絡を入れさせると、すんなり代打参加が認めてもらえた。成功者の集いは月に何度も行われているそうで、オレが潜入するのは次の会だ。当日の夜9時半、まずはその先輩と某駅前の喫茶店で待ち合わせした。
「はじめまして。小田(仮名)です」どこにでもいそうな青年だが、やけに明るい。週末にフットサルをやってそうな雰囲気というか。生活充実してますよ感、いわゆる〝リア充〞臭がプンプンだ。小田は会社員で、ララウェイ歴は約2年という。
「会場は近くのマンションなんすけど、行く前にちょっと説明していいすか」
彼はララウェイの仕組みについて説明を始めた。ノートに「権利収入」や「マージン」といった単語を書き並べていく。オレは適当にウンウン相づちを打つだけだった。
「お兄さん理解早いすね。そういう人が伸びるんですよ」
伸びねーよ。てか入んないし。
「あ、もうこんな時間か」
小田が大げさな素振りで腕時計を見た。あらあら、ロレックスじゃないの。ララウェイやればこんなの買えるってアピールか。
「今日は時間がないから説明はここまでね。日を改めて話をさせて下さいよ」
「…わかりました」「じゃあ、会場行こうか」
立ち上がろうとした小田が、何かを思い出したように再びケツを降ろす。
「そうそう、一つ約束なんだけど、会場ではララウェイの話をしないでほしいんだよ」
「は?」
「……この集まりってララウェイの本部とは関係ないもんなの。主催の人が個人的にやってるパーティだから…」
なんだか奥歯にモノの挟まった言い方だな。
喫茶店から歩くこと数分、目的のマンションに到着した。何とかタワーなんて名のついた高層マンションだ。エレベータで二十ウン階へ。部屋のドアを開けると、賑やかな声が聞こえてきた。すでに始まっているようだ。オレたちを見て、カツマーを一回り小さくしたような40絡みの女が近づいてきた。サングラスを頭に乗せ、シャツの襟を立てている。なんだかなぁ。
「会費2千円です」
 会費取るんだ。ふーん、金あり余ってるわけじゃないのね。会場には若い連中がいっぱい集まっていた。リビングルームは座る場所がないほど混雑してる。男女およそ40人。うち、女が7割か。
 一面ガラス張りの向こうには夜景が映え、ソファやラグもセンスがいい。テーブルのパスタも旨そうだし。ん?何だあの子!? 上はビキニ下は短パンの格好をした女たちがいた。シャンパンやワインをお盆に乗せ、みんなに配っている。エロい。いかにも豪奢なパーティって感じだ。
 小田が知り合いを見つけてどこかへ行ってしまったので、オレは一人取り残されてしまった。
 そこへカツマーが寄ってくる。
「どうですか? けっこう楽しいでしょ?」
「…そうですね」
「うちはああいうイベントもやってるんですよ」
指さしたテレビ画面にはクラブイベントの映像が流れていた。私たち、こんなに充実した暮らししてんのよ、と言いたいのか。
「あ、そうだ」
彼女が何かを思い出したように、おいでおいでと手招きした。連れて行かれたのはキッチンだ。男女
がせっせと煮炊きしている。
「あ、まだか。パスタが茹であがるころだと思ったんだけど」
パスタを茹でてるあの鍋、ネットで見たことがある。ララウェイ製の鍋だ。実力を見よってか。
「おーい、仙頭さん」
小田の声がした。あいつ、オレをほったらかして何してんだよ。見れば、彼は女の子たちに囲まれて座っていた。
「仙頭さん、楽しんでる?」
嫌味な言い方である。オレが一人なのをわかってるくせに。ああ、ララウェイに入ればオレもその輪
に加われるのに…って、ヤバイヤバイ、まんま乗せられてるじゃん。小田とカツマー以外は、誰もし
ゃべりかけてくれない。ビキニのネーちゃんも笑顔を向けてくるだけだし。
 どうやらこのパーティ、がんがん勧誘するための場ではなく、〝成功者〞のゴージャスぶりを頭にインプットさせることが目的と見た。後日そのイメージを武器に誘ってくるのだろう。入会すればあなたもあの一員ですよと。部屋の隅で、一人でポツンとしている男を見つけた。オレと同じ境遇か。
「一人ですか?」
「あ、はい。人に誘われて来たんですけど。ぼく2回目なんですよ」
2回目かよ。引き込まれかけてんじゃん。小田との約束を無視してララウェイの話題を振ってみる。
「入会とか考えてるんですか?」
「いいかもと思ってますね。こんなマンション住めたらいいですよね」
こりゃ、あと一押しで一丁あがりだな。近くにもう一人、ポツン男がいた。ぼけっと場の様子を眺めている。
「一人なの?」
「はい」
「ララウェイやってるの?」
「もうちょっと話を聞いてからやろうかって考えてるんですけどね」
どいつもこいつも揺さぶられてやがるな。宴もたけなわの夜11時ごろ、ポロシャツ姿の男が声をかけてきた。やけに落ち着いた雰囲気を放っている。
「どうもー。うちに興味があるって聞いたから、軽く話しとこうと思って」
 来た。ついに勧誘か。
「例えばあの人、サングラスを頭にしてる女性いるでしょ」
 カツマーのことだ。
「本職も持ってる人なんだけど、うちで月40くらいかな。その横の子はまだ22才だけど、月20くらい稼いでるし」
あいつはこいつはと、順番に数字をあげていく。金額はだいたい20万くらいだ。法外ではないけどサイドビジネスとしてはおいしいと思える、絶妙な数字だ。
「あの向こうの彼なんて、去年まで商社で働いてたんだけど、今はうちだけで食べてる。月30くらい
稼いでるよ」
「…そうなんですか」
「うちはそんな感じで儲かってるから。仙頭さんも絶対稼げると思うし」
上手い話術じゃないが、単純な直球も威力がある。もし退屈な毎日を送り、自由な金もままならず、
仲間とわいわいやる機会もない男なら、コロッといってしまうかもしれない。さっきのポツン君たちのように。時間が遅くなるにつれ、少しづつ人が引いてきた。窓際のイスが空いたので、携帯をイジってる女の隣に座る。
「ここいいすか」
「どうぞ」
同年代っぽいな。連れてこられた人かな?
「よく来るんですか?」
彼女は携帯をイジる手をとめた。
「しょっちゅうですね」
筋金入りのララウェイ会員か。「ぼくは今日初めてきたんですけど、いろいろ雰囲気がわかってよかったです」
ララウェイよりの発言が良かったのか、女の表情が明るくなった。
「それは良かったですね」
「今日ここにいた人で、どれくら
いがやってるんですか?」
「3分の1くらいじゃないですか。
女の子なんかは、近所に住んでる普通の子が多いですよ」
つまりは賑やかしだ。楽しんでます空気を演出するためのお飾りだ。あんな若い子らがみんな〝成功者〞のはずないもんな。ララウェイの話をするなと釘を刺されたのも、彼女らを引かせないためだったのか。
「オネーさん、お仕事は何をしてるんですか?」
「私はまあ、自営業みたいなもん。ギリギリ食べれてるくらいだけど」
「どんな感じの仕事ですか?」
「昼ごろおきて、あとはずっとミクシイやってる感じ。いろんな人の日記にコメント書き込むの。1日中やってるよ」
ミクシィの書き込みなんかがカネを産むわけない。てことは、要するにこの女は…。愛用者ならご存じのように、ミクシィではときどき、妙な女(であることが多い)からメールが届く。サイドビジネスがどうたらこうたらいうやつだ。この女が食えてるってことは引っかかるヤツも多いってことか。会話が途切れるや、彼女はまた携帯をイジり始めた。画面はミクシィだった。お仕事熱心なようで。
「というわけだから、お前なんかが参加したら上手く言いくるめられるよ」
 弟は腑に落ちない様子だ。
「でも成功したら女に囲まれるんだろ。ミクシィだけで食えるんだろ」
こういうバカは失敗者のパーティにでも連れてってやるのが一番か。みんな段ボール箱(在庫)の山を抱えてやってくるぞ。