0220_2019011412293095d.jpg 0221_201901141229313d5.jpg 0222_20190114122932695.jpg 0223_20190114122934d5c.jpg 0224_201901141229354e4.jpg 0225_20190114122937772.jpg 0226_2019011412293884d.jpg 0227_20190114122940019.jpg 0228_20190114122941d2f.jpg居酒屋の大手チェーン『和民』が話題になった。26才の女性社員が100時間近い残業を強いられた挙げ句、入社2カ月で自殺したという〝事件〞が報道されたのだ。当然のようにネット上では、『ブラック企業』との批判が相次いだ。が、こうした会社は決して珍しい存在ではない。山田泰介氏(仮名、20代)は、全国に500店舗以上を展開する、大手の激安中華料理レストランチェーン「O」で働き、あまりの激務のため1年間で退社した人物だ。和民よりもはるかにハードかも知れぬ中華料理店での、真っ黒な日々を語ってもらおう。 2年前、高校3年のとき。就職を考えていた僕が、進路相談の際、学校の先生からすすめられたのが激安中華料理チェーンOだった。
どんな会社なのかはよくわからなかった。全国的には有名みたいだけど、僕が住む九州の県には一軒も店舗がなかったのだ。先生はこれから伸びていく会社だという。仕事内容は厨房のスタッフ。要はチャーハンやラーメンを作るってことか。
「条件はどんな感じなんですか」
「こんなかな」
差し出された求人票によれば、給料は額面が16万円(ボーナスは年2回)。高卒ならこの程度か。
勤務時間は、10時〜23時くらいと、やや長かったようなイメージがある。休みは週2回。まあ普通だろう。残業代についても、支給されると明記されている。
「料理なんてしたことないんだけど、僕にできますかね」
「成せばなるだよ。飲食は不景気にも強いからね、いいと思うよ」
やってみるか。他にやりたいことがあるわけでもなし、こうして福岡・天神の貸事務所のようなところで入社試験(三桁の暗算と英語のヒヤリングのみ)を受け、同じ日に面接を済ませると、後日、自宅に合格通知が届いた。カンタンなものだ。
「よかったな」
「ホントだよ〜」
両親が満面の笑みを見せる。ほいほい。立派なコックになって、オイシイ中華料理をいつか喰わせてやるからな。その後、福岡で合格者の合同説明会が行われ、関東の某店舗に配属が決定した。住まいは会社の寮(家賃は自己負担)に入ればいいとのことだ。ギョウザ、焼きまくるぞ!
会場の親たちはみなドン引きしていた
4月、京都の体育館のような会場で入社式が行われた。いよいよ今日から社会人か。不安と希望がないまぜになった妙な気分だ。会場には、全国からおよそ100人の新入社員が参加していた。僕と同じ高卒がメインなのか、とにかく若い。男女の比率は6対4ってとこか。片隅には、新入社員の父兄も来ていて(僕の両親もいた)、さながら高校の入学式みたいな雰囲気だ。偉いさんが壇上でスピーチを始めた。
「初めまして。私は…」
退屈なしゃべりが終わり、続けて一社員が壇上に上った。
「飲食の仕事にとって一番大事なのは返事です。いまから事前に練習するから、私が『社員起立』と言ったら、全員で大きな声で『はい』と答えて、席を立つように」
先までダラけていた会場の雰囲気が一変した。「社員起立!」「はい!」
全員が大きな声で立ち上がるや、社員からゲキが飛ぶ。
「声が小さい! もう一度!」
「は、はい!」
席についたところで、
「社員起立!」
「はい!」
続いて、全員一斉ではなく、新入社員個人個人の名が読み上げられ、大声で立ち上がる儀式がスタートした。
「山田太郎!」
「はい!」
「声が小さい! もう一度!」
「はい!」
こんなのを100人分もやるのかよ。どんだけ時間かかるんだ。何回もやり直しさせられてるヤツもいるし…。いよいよ僕の番だ。緊張するなあ。
「山田泰介!」
「はい!」
「声が小さい! もう一度」
「はい!」
2回で着席を許された。あ〜助かった。にしても、なんでこんなことをやらせるんだろう。軍隊にしか思えないんだけど。見ると、会場の親たちはみなドン引きしていた。母ちゃん、父ちゃん、そんな顔せんとって!
外部と連絡できるツールはすべて没収
入社式が終わったら、新入社員は全員そのままバスに乗り、神奈川県へ移動した。2泊3日の新人研修のためだ。到着したのは、足柄山の中にある合宿施設だった。ロビーに全員が集合したところで、5人の社員が登場した。彼らが僕らの指導に当たるようだ(講師という)。
「今日からここでキミたちに研修してもらう。厳しいかもしれんが、耐えるように」
「……」
「今から外部との情報を遮断する。テレビや新聞などの娯楽も一切ないからそのつもりで」
「……」
「では、携帯やパソコンなどの私物はすべてこちらで預かる。全部、出すように」
呆然とする皆を尻目に、私物チェックが始まった。講師がカバンをあさり、外部と連絡できるツールはすべて没収だ。中には、もってきたお菓子を取り上げられたヤツまでいる。講師が続ける。
「これから各部屋の部屋長を決める」
研修では一部屋に一班(5〜6人)が泊まり、行動もすべて班単位で行う。そのリーダー決めだ。幸い、僕は選ばれずに済んだが、ほっとするのも束の間、すぐに部屋の掃除をやらされた。
「これからお世話になるんだから、ピカピカに磨き上げろ!」
へいへい、わかりましたよ。翌日は朝6時にたたき起こされた。眠い目を擦りながら、グランドに集合すると、すでに5、6人の講師が勢揃いしていた。まずは合図に従って、社員全員で会社オリジナルの「O体操」開始。音楽のないラジオ体操みたいなものだ。体が暖まったら朝食を挟み、2〜3の班単位で会議室のようなところに集合だ。渡されたのはこんなことが書かれたテキストだ。
●O5訓=接客の心構えを説いた
5つの社訓
●O10訓=経営の心がまえを説いた10の社訓
●接客7大用語=接客の際に使われる重要な7つのことば。
つまり全部で22。最終的にはこれを一語一句、正確に覚えるらしい。かなりの文章量だけど大丈夫だろうか。まずは講師と一緒にO5訓を唱和だ。
「一つ! Oは常に味に挑戦しよう!」
講師が大声を上げたら、新入社員たちも声を張り上げる。
「一つ! Oは常に味に挑戦しよう!」
「一つ! Oは常に真心でお客様をもてなそう」
「一つ! Oは常に真心でお客様をもてなそう」
こんな調子で5訓、10訓、7大用語をすべて読み終えたら、続いては個人一人ずつ順番に発声だ。
ほどなく、番が回ってきた。
「山田泰介!」
「はい!」
サッと立ち上がる。目の前には新入社員が20人。う〜緊張するなあ。僕はテキストを見ながら、大きな声を張り上げた。5訓の制限時間は8秒。オーバーするとやり直しだ。
「一つ! Oは●▲□×●▲□〜」
早口を通り越して、自分でも何を言ってるのかわからない。それでもどうにかすべてを言い切ったところで、ゲキが飛ぶ。
「9秒もかかってる! もう一度!」
「はい!」
こうして丸一日がこの調子で進んだ。最初はテキストを見ながらそして徐々に暗記。最終試験では、22のフレーズをすべてソラで読み上げられた者だけが合格だ。失格者は何度もやり直しだ。僕はなんとかクリアしたが、やり直しの連続で泣き出す者までいた。
でも講師は容赦しない。
「合宿中に覚えられなかったら、本社に親を呼んで一緒に覚えさせるぞ!」
客の食べてる前で皿が飛ぶ
バカみたいな研修が終わり、僕は関東の店へ配属された。さあ、いよいよ本番だ。店は郊外型の大型店舗で、従業員は店長の他、チーフが1人、僕ら新人3人を含めた社員が5人、パートとバイトが交代で10人ほど。なかなかの大所帯だ。
「初めまして。これからよろしくお願いします」
「よろしく」
挨拶が済み、チーフから業務の説明があった。営業時間は朝の11時30分から深夜2時までで、新人のうちは朝11時に来ればいいらしい。マニュアルがないので、仕事はすべて上の人間が実地で教えていくとのことだ。最初の持ち場は洗い場だった。ただひたすら皿を洗い、空いてる時間にメニューを見て料理の名前と値段を覚えていく。
昼になり、まかないが出てきた。チャーハンと餃子だ。遅まきながら、これが僕の初めてのO体験だ。うん、うまい。これで600円ちょっとなら、客も押し寄せるよなあ。なんて呑気にしてられたのも最初だけだった。新入社員が慣れてきたと見るや、厨房のあちこちで怒号が飛び交い出したのだ。「テメー、キャベツ切ってねえじゃねえかよ!」
「す、すいません!」
ピリピリした空気が漂う中、僕にも叱咤が飛んできた。
「おい、この皿、ちゃんと洗ったのか!汚れてんじゃねえかよ、バカ野郎!」
放り投げた皿が体にぶつかる。何もそこまでしなくても…。
「なんだ、文句あんのか!」
「いえ、申し訳ありません!」個人経営の店ならまだしも、天下の大企業でこんな仕打ちを受けるなんて。しかも厨房は、客から丸見えなわけだし、食欲を無くすんじゃ?
残業100時間越えで残業代ゼロ?
3カ月が過ぎ、僕は焼き台とフライヤーの担当になった。餃子を焼いたり、春巻きや唐揚げを揚げる役目だ。一見、難しそうだが、タイマーで決められた時間に具材を引き上げるだけなので、コツさえわかれば、誰にでもできる仕事だ。むしろキツいのは勤務時間の増加だった。店長やチーフが当然のように残業、早出を言いつけるようになってきたのだ。
「明日、仕込みのパートが休みだから、早出してくれ」「はい」
「それと今日、店が閉まった後の掃除もやっとけよ。隅々までキレイにな」
「わかりました」
新入社員の立場では断ることもできず、いつのまにか朝9時から深夜2時までのフル稼働になっていた。休憩の1時間を除き、実働16時間だ。 たまの休日も油断ならなかった。しばしば店長から電話がかかってくるのだ。
「忙しいから、すぐ来い」
「でも、僕、いま友達と遊んでるんですけど…」「あ〜、口答えすんのか? とにかく来い!」
こうして週2の休みは1日、また1日と減らされ、月に3日休めればいい方になった。
それだけ働けば、残業代がとんでもない額になるのでは?
との期待はまったくの的外れだ。残業時間が月100時間を軽く超えても、一切残業代などつかないのだ。先輩社員に聞いたことがある。
「あの、残業代ついてないんだけど、これってどういうことなんですか?」
「はあ? 飲食店にそんなもんあるわけないだろ」
あるわけないって、高校の求人票には『支給』と書いてあったのに。
「お前だけじゃなくてみんなそうなんだよ、下らないこと考えてないで、頑張って上にあがれ。そしたら給料があがるから」
上にあがるまで、手取り13万円の安月給で我慢しろってか。ていうか、上に上がるのっていつのことなんだよ。