1_20191115192936c7e.jpg2_2019111519293742b.jpg3_201911151929399ce.jpg4_20191115192940196.jpg5_20191115192942bf6.jpg6_2019111519294304c.jpgそれはさておき、私がこの事件で注目したいのは、男が詐欺を持ちかける際に使った「コンピュータの操作で借金を帳消しにできるから」というフレーズである。こんな名目で大量の名義貸しが行われたのは、国内でもおそらく初めてではないだろうか。ただ、当然ながら外部の人間がサラ金のコンピュータを情報操作し、借金を帳消しにすることなど到底不可能だ。
実際、多くのサラ金のコンピュータは個人名ではなく会員番号で個人を識別しているが、そのデータは絶対消せないようにできている。仮に顧客が完済したとしても、顧客データやそれまでの支払履歴
のデータは消えない。あくまで、現在の残高がゼロになるというだけ。たとえ消せたとしても、ちゃ
んとバックアップが取ってあるから無意味だ。もし、これがサラ金内部の人間なら残高をゼロにする操作もできないことはないだろう。が、それも単に「できる」というだけ。一般の小売業などでレジに打ち込んだ売上金額と実際にレジに入っている金額とが合わなければおかしいのと同様、サラ金でも様々な角度から入金額と融資残高のチェックが行われている。〃犯行〃がバレるのは時間の問題だ。
ちなみに、こうしたデータの改ざんは、サラ金内部のコンピュータばかりでなく、信用情報機関のコンピュータにおいても絶対不可能である。個人の借金という重大なプライバシーを保管しているだけあって、その管理は超シビア。もちろん、データはすべて暗号化されている。万が一外部からの潜
入に成功したとしても、暗号化されたデータが解析できなければ、まったく意味がない。
具体的に書くと支障が出るので大雑把に説明するが、例えば某信用情報機関の場合は7ケタのコードと4ケタの暗証番号さえわかれば、それを入力するだけで簡単にアクセスできるが、これはワナ。
データを取得しようとして操作をすると、その操作が終わった後で「エラー」の表示が出る。つまりデータを取れないついでに、相手にはこちらが何をやろうとしたか丸分かりといった具合なのだ。外部の人間がコンピュータを不正操作し借金を帳消しにするなど事実上不可能なことがよくおわか
りいただけただろうか。福井の事件ほど込んだ手口ではないにしろ、「名義貸し」によるトラブルは以前から数多くあった。知らない人のために説明しておくと「名義貸し」とは、読んで字のとおり自分の名義を他人に貸すこと。サラ金などから金を借りて来る行為を指し、実際の業界用語としては「名義貸しによって行われた契約」という広義の意味で捉えられる場合が多い。
「名義貸し」によって借りてきた金は、もちろん名義を貸してくれるように頼んだ人物の手に渡る。
勝手に他人の名義を借用すれば詐欺だが、この場合は本人が名義をかすことに同意しているわけだ
から、返済さえしっかり行なわれていれば詐欺には当たらない。例えば息子が車を購入するのに、年
齢や収入からローンが通らないので親が代わりに口ーン契約するというのはよくあることだ。「名義貸し」による詐欺は、極めて単純な手口だ。自分はブラックリストに載っていて、金を借りられない。そこで友人・知人などに「ちょっと急にお金が必要になったので、サラ金から金を借りてきてほしい。もちろん支払は私が責任持って行うし、お礼として借りてきたお金の中から3万円を差し上げる」などと言い、サラ金に向かわせる。その後は謝礼の手数料こそ払うものの、返済などするはずもない。ただ、いきなり初回から返済がないのは希で、利子は定期的に返しつつ何人もの知人を同じ手口でダマし、ある程度まとまった金が手に入ったところで逃げるのがよくあるパターンだ。
この場合、督促は当然ながら名義を貸した本人のもとへ行くし、借用害にその名前が書かれている以上、返済義務も発生する。いくらダマされたのだ、名義貸しだと言ったところで通らない。
仮にダマした人物を聞き出したとしても、借用書の名義はあくまでダマされた人であり、ダマした人物が契約に関与しているわけでもないため、サラ金がその人物に請求するのは不可能。借用害もないのに債務の返済を迫れば違法行為になってしまう。逆にいえば、名義貸しを行わせた人物は、サラ金に対して債務を返済する責任を負わないのである。ダマされた人が相手に請求することもできるが、得てしてこうした場合は「そんなことは頼んでいない」と言われたらとことんモメるのは必至。そもそも、最初から名義貸しで金をバクるヤツが、金を持っているわけもなく、泣き寝入りになるのがオチだ。
もちろん、被害者が警察に被害届を出せば、それはそれで別問題だが、詐欺というのは「最初からダマす意志があったのかどうか」が争点となる。「ちゃんと返済するつもりだったのだが、いろいろと事情があって」と言い訳を並べられたら、どこまで立件できるのか怪しいものだ。
かくいう私の友人も名義貸しに引っかかり、私が代わりに回収に行ってやったことがある。
正攻法ではまず無理だとわかっていたので、事前に相手のプライバシーを調べ上げ、「お前のオヤ
ジは心臓悪いんだってな、ちょっと行って話を付けて来てやるか!」。相手に名義貸しをさせたことを認めさせ、何とか回収にこぎつけた。もし相手が認めなかったら、こちらが恐喝で訴えられていたかもしれない。このように、とかくトラブルも、サラ金にとってはある意味、有り難い存在ともいえる。受付をしていると「名義貸し」はそれとなくわかる。金に困って借りに来ているという雰囲気が薄いから、なんとなく察しがつくのだ。それでも「名義貸し」を頼まれた人間は、まず信用情報に傷がない。早い話が、貸す側にとって何も問題のない客なので、どんどん融資してしまう。「名義貸し」だろうが、そんなのは関係ない。どうせ返済は、名義を貸した本人にするのだ(ただ、若い女の客の場合は、ヤクザなどの男に言われて借りに来ていることがあるので、その点だけは用心しているが)。そんなわけだから、場合によっちゃ、わざと名義貸しを仕組むこともある。私のいた暴力金融などはそうだった。
まず、借金でそろそろ行き詰まりそうな客のところに「誰かお客さん紹介してくださいよ」と営業の電話をかける。もちろん実際はそんな丁寧な言葉遣いはせず「おう、誰か客を連れて来いよ。紹介があれば融資枠を増やしてやるわ」といった口調だ。