0163_2019042712574704d.jpg 0164_20190427125748191.jpg 0165_20190427125750095.jpg 0166_2019042712575157b.jpg 0167_2019042712575363f.jpg 0168_2019042712575709f.jpg 0169_20190427125758808.jpg 0170_201904271258002e1.jpg 0171_201904271258010b9.jpg白菊に囲まれライトァップされた祭壇。額に収まった故人の写真。参列者はみながみな、神妙な顔で件んでいる。
「最後のお別れです」
1時間弱の本葬を締めくくろうとする司会者の声が響く。親族や関係者が祭壇の花を枢に手向けはじめた。遺体に声をかけながら泣き崩れる者、静かにすすり泣く者。
「故人と、これが本当に最後のお別れです」
涙を誘う、語りかけるような声色は、いかにも数をこなしたプロフェッショナルのそれ。他人事ながら思わずもらい泣きしかけた私は、足早にホールを退散した。
昔から弱い者いじめが好きだった。自分が強くなれば、周りのみんなは全部弱くなる。そういうことでもあるんだけど。元々悪かったから、中学時分から地元のヤクザに可愛がってもらう、っていうお決まりのパターンでね。そこから、脇目も振らずに一直線よ・地元の工業高校を出て、債権回収が得意な組織に入ったんだ。いいときで、400万くらいあったのかな。年収じゃなくて、月の収入がさ◎でも、だんだん当局の締め付けが厳しくなって、やっていけなくなった。ただ、他のシノギに鞍替えするつたって、結局オレたちの場合は、縁故を頼るしかないじゃない。
で、兄貴分のお兄さんが経営してる廃品回収業者に口利いてもらって、世話になることにしたのよ。母体は大手の葬儀社で、そこは遣品整理を専門にやってると。聞いてたのはそんだけだった。正直、
がっくりきたけど、食うためには仕方ないよな。
仕事は、死んだ奴の家に行って、片付と分別、搬出をするっていうね。ちょっと前に流行ったゴミ屋敷のゴミを撤去する番組あっただろ。あれを想像してもらえばいい。単純作業で頭使わなくていいんだけど、たまに1人住まいで長い間死んでることがわからなかった仏さんの部屋なんてのに当たってさ。あれは勘弁してほしかった。体に臭いが染みつくし、なにしろ、ゴキブリと虫のオンパレードだもん。業務用の超強力消臭剤のスプレー持参で、まるで戦場に乗り込むみたいな気分だったな。
料金は、部屋の状態にもよるけど1LDKで、消臭作業含んで、日に何軒かこなすと結構会社は潤うんだよ。
仕事始めて半月ほどたったころだったかな。夏の猛暑の中、汗だくで作業してると、親会社の葬儀社の営業マンがそそっと近づいてきてオレに封筒を渡すんだ。「家の方からです」って。そう《寸志》
ってやつ。中見たら3千円入ってた。少ないけど、有り難いよな。
チリも積もれば山だし、この商売も悪くないなって、素直にそう思ってた。
ところが、ある日、その葬儀社の専務が来てさ、オレに5千円の寸志をくれるわけよ。単純にエラい人だからポケットマネーで弾んでくれたのかと思ったら、そうじゃない。
「おまえがもらってる寸志は、営業の奴が抜いてるんだぞ」
って、こう言うんだ。ほう、そういうことか。そういう仕組みになってるのかって、始めて知った。で、同時に頭にきたね。たった2千円とはいえ、あの野郎ピンハネしやがって、って。
このとき出会った専務に、多冊はなぜか気に入られ、その後、カバン持ちの真似事を始める。世の中の仕組み、処世術。闇金時代には知ることのなかった多くのことを、多田は学ぶ。
そして1年が過ぎた頃、専務から、知り合いの葬儀社『花清』への就職を勧められる。多田の過去をすべて承知した上での話だった。
憶えることが山ほどあったね。葬儀の作法や手順、それぞれの宗派(仏式、神式、キリスト教)の違い。他にも、祭壇設営での搬入作業や、葬祭ホールの関係者や同業者に顔も憶えてもらわなきゃいけ
ない。スロープ飾りなんかを手伝うようになってからは、オアシス(剣山代わりのスポンジ)に花を生ける勉強も始めた。フラワーアレンジメントの資格まで取ったんだぜ、元取り立て屋の、このオレがさ(笑)。
で、そのうち商売のこともわかってきた。重要なのは、まず病院へのフォローね。どこそこの誰が死んだって情報をいち早く取って、家族に営業かけなきゃいけないから、どこの葬儀屋も必死だよ。
もっとも、何となくテリトリーがあってさ、A病院なら葬儀屋B、とかつて決まってる。もっと細かく、一つの病院が病棟ごとに振り分けられてるなんてこともあるね。
だからって、指をくわえて待つてりゃ病院から情報が入るなんて甘いもんじゃない・そこは日頃から医事課長やら事務長と良い関係を結んでなきやいけない。早い話、袖の下が力を持つわけよ。
ウチが指定受けた総合病院の場合は、看護婦長が力を持ってるから、しょちゅう商品券やら海外旅行やらでご機嫌を取る。他の葬儀屋なんて外車を贈ったこともあるって話だな。
なぜそこまでって思うかもしんないけど、やっぱり情報命だからさ。死んだって連絡が入ったら、それこそ病院にすっ飛んでって、家族にセールストークかますから。相手には、弁がたつ奴が勝つからね。息子や娘に「最後の親孝行ですから」なんて言って、とにかく葬儀をもぎ取るのよ・葬儀ってのは、一生懸命生きてきた人間の最後の催し物だから、親族は派手にしてやろうと思うもんなんだよ。通夜と本葬で200万なんてザラだし、ウチは香典返しのギフト、仏壇や墓石までサポートするから、400万からの金が平気で動く。で、ここからが重要なんだけど、オレたちが病院に貢ぎ物を贈るように、そうした業者からも袖の下が来るわけだ。
当然だよ、仕事を回してほしけりや、誠意を見せろってのが道理だろ。オレの教育係をやってた伏
見さんって、この道⑭年のベテランがギフト屋からリベート受け取ってたときに封筒を見せてくれたんだけど、もう札の束だからね。軽く50、60入ってたんじゃないか。しかも非課税の領収書のいらない金だからな。
「あの人、前の店潰したときもそうなんです。初めっから、商才なんてないのに」
「そうなんですか…大変ですね」
「借金が800万もあって、返す気なんてさらさらないんです。毎日飲みに行っちゃって、仕込とか、配達とかも私とお義母さんの2人で…。それも過保護なんです、あんな歳まで甘やかして。子供ができないのも、あの子があんな風になったのもあなたが悪いって毎日責められて…」
いやぁ願ってもない展開だよ。カミさん、離婚も考えてるっていうし、こっち側に引きずり込めるなと。で、この後、居酒屋に移動して、さらに愚痴を吐かせて、締めはラブホ。ちょっと抵抗してたけど、部屋入ったら、自分でガンガン腰振ってやがった。アソコの具合がまたいいんだ。
相当怨んでたんだろうな・簡単に乗ってきたよ。だったら、あとは手口を教えるだけだわな。
ほとんどの飲食店にいえることだけど、《食品衛生管理者》の賞状なんて一つあれば十分だよな。調理してる人間はたいていズブの素人で、衛生管理なんかできやしない。
特に伊藤のところは、目の悪い年老いた母親とカミさんだけで、いつ食中毒菌が出てもおかしくないわけだ。で、もっとも培養しやすく、効果的なのが、サルモネラ菌、人間も保菌してるくらいのメジャーなパイ菌ね。これを繁殖させて、カミさんに料理に混入させてやったんだ。
具体的には、養鶏場で直接販売してある鶏卵を割って、殻を浮かべて放置しとくんだ。8℃以上の常温で1日待つと爆発的に増える。ただ、卵焼きとか過熱する料理に使ったら菌が死滅しちゃう。狙い目はマヨネーズ・火を入れなくても大丈夫だし、酢が使ってあるから、多少味の変化があっても、まずバレないね。このときは、マカロニサラダやポテトサラダに使うクリームマヨネーズの中に卵黄を落としたんだけど、きっちり1週間で効果が出たね。新聞に店名と代表者名が出て、目立たし目立たしってワケだ。