0186_201905111414591b6.jpg0187_20190511141501894.jpg ﹇前回までのあらすじ﹈
笹川家の奥さんにちょっかいを出すも、嫁にチクられ怒られる。
 1月3日。
オレは真由美と娘を連れて実家に顔を出した。いたのは母と妹・美幸だ。弟2人は仕事やデートにでかけているらしい。着いて早々に、全員で近所の神社へ初詣に出かけた。みんなで鐘を鳴らし、賽銭を投げて手を合わせる。母が微笑む。
「何を祈ったの?」
「オレは家族全員が無事に一年を過ごせるようにって」
「アタシはね、家族の健康と、宝くじの当選と、素敵な人があらわれますようにってお祈りしたから。そろそろ帰っておせち食べましょ」
100円しか入れてないのに、ずいぶん欲張りなお願いですなぁ。その夜は実家でのんびりと過ごすことにした。たまにはこういうのもいいもんだ。どうか今年こそは建部家がこんな平和な日々を送れますように。
「なんでお正月からこうなのよ!」
翌朝、8時ごろに目を覚まして居間でダラダラしていたところ、妹の美幸がやってきた。
「お母さんは?」
「まだ寝てるんじゃないの?」
「ううん、部屋にいないよ」
はて、雑煮のモチでも買いに行ったのか?
母はなかなか帰ってこなかった。携帯を鳴らしても圏外だ。ったく、どこまでモチ買いに行ってんだよ。ようやく玄関のドアが開いたのは、お昼を過ぎたころだった。
「はぁー、疲れたー」
「どこ行ってたんだよ?」母はそれに答えず、ゆっくりとお茶を入れ、イスに座っている。なんだよ、もったいぶるなよ。
「もう、イヤ。なんでお正月からこうなのよ!」
とつとつと母が語った内容は以下のとおりだ。
 本日午前7時ごろ、社用車を運転して営業に向かう途中の健輔は、さいたま市内の路上で、スピード違反の疑いで警察官に止められた。警察官が免許証の提示を求めたところ、過去に交通事故を起こして以来、免許取り消し中だった健輔は「持ってない」と返答。容疑は無免許運転に切りかえられ、本人は警察署に連行され、保護者である母が呼び出された。
なんだそりゃ。免許もってないくせに社用車を転がしてたのかよ。バカか、あいつは。
「…で、健輔はどこにいんの?」
「まだ警察署よ。帰ってきたら怒ってやらなきゃ」
 そりゃそうだ。兄貴として、オレも一緒に怒ってやらないと。
無免許の次は車検切れ
 しばらくプンプンと怒っていた母が、雑煮を食ってようやく落ちついたころ、家電が鳴った。
「もしもし、はい、はい…え?え、ああ、ハイハイ…」
母は声をひそめるようにして子機を抱え、自分の部屋に入っていった。聞かれちゃマズイ電話なのだろうか。数分後に出てきた彼女は、なぜかコートを着ていた。
「どっか出かけるの?」
「うん。ちょっと遅くなるかもしれないけど、適当にしてて」
息子夫婦が孫をつれて遊びに来てるのに、適当にしててとはどういうことだ。みんなでもっと正月らしいことすりゃいいのに。
…母が帰ってきたのは夜の8時前だった。相当疲れきった顔をしている。
「おかえり。何かあったの?」
「……」
「なんだったの?」
「うん…今度は雄介だよ」
はぁ?本日午後2時半ごろ、埼玉県大里郡の路上で、カノジョとドライブ中の雄介が、前方の車に追突した。ケガ人もない軽い事故だったが、警察の調べで、雄介の車が車検切れだったことが判明し、
そのまま警察署に連行。保護者である母が呼び出された。
無免許の次は車検切れか。つくづくあの弟たちはバカ丸出しだ。
「今回こそは信じてたのにぃ…」
 波乱はまだ終わっていなかった。
 遅い夕飯を終えてもまだあのバカ2人が帰ってこないので、説教はまた今度にするかと、そろそろ家に帰ろうとしていたとき、聞いたことのない叫び声が家中に響いた。
「キイー!!」
 声の震源であるリビングには泣き喚く母がいた。
「どうした、落ちつけって」
「もうイヤー!!」
パソコンを叩いて涙する母。まるで赤ちゃんみたいな姿に衝撃を受けつつなだめること30分、やっと落ちつきが戻ってきた。
「なにがあったの」
「もうイヤ。こんなお正月なんてイヤ」
「今度はなによ」
「また騙されたのよ…」母は昨年末、「フェイスブック」で知り合ったアメリカ人男性とメール交換を開始。男性はすぐに「キミのことが気にいった」と好意を伝えてきた。まんざらでない母に対して男は「来年、日本に行く。そのときに会おう」と誘ってきた。
ところが、来日の近づいた本日4日午後9時に、このようなメールが。
『飛行機代とホテル代を出してくれないか』
なんだか前にもまったく同じような話を聞いたんだけど。前回もアメリカ人にゲーム機を買わされそうになってたよな…。母親よ、あんた、そんなに出会いに飢えてんのかよ。
「ヒロシ君、どうしたらいいの?今回こそは信じてたのにぃ…」