0064_20181022211649912.jpg 0065_20181022211650060.jpg 0066_20181022211652876.jpg 0067_20181022211653739.jpg 0068_20181022211655c5c.jpg 0069_2018102221165681e.jpg 0070_20181022211658f87.jpg 0071_2018102221165996b.jpg伸二は徐々に本性を表し始めます。最初のころこそ、私に遠慮していたものの、そのうち金髪でピアスやタトゥを入れた、いかにも不良な連中を家に連れ込むようになりました。本人の見た目が、不良然としていないため気がつかなったのですが、伸二は筋金入りのワルだったのです。家族全体から笑顔が消え、とりわけ実の娘・久美の様子がおかしくなりました。目が虚ろで学校も休みがちです。何があったのでしょうか。
「久美、なんでもいいから言うてみ。絶対にびっくりせんから」
「…アタシ、おかされたんや」
「し、誰に」
「伸二君と友達に!」
漠然と怖れていた不安が、現実になっていたのです。実はその2〜3週前、久美のパンツが紛失する事件が度々起きていました。私は一度、その犯行現場を見てもいます。伸二でした。が、情けないことに注意できませんでした。足蹴にされたあのときの恐怖で口が開かなかったのです。しかし、今度ばかりは許せない。思うが早いが、伸二の部屋に駆け込んでおりました。
「お前、久美に何したんや!」
「おっさん、ワレ、誰に口利いとんじゃ。そんなこと知るかい、あの女、頭おかしいんじゃ!」
「オマエ、ええかげんにせんと、警察に突き出すぞ!」
「おう、やれるもんなら、やってみい!」勇気を出して殴りかかりました。が、伸二に勝てるハズもなく、再び、ボコボコ叩きのめされるだけ。悔しくて、情けなくて、涙すら落ちませんでした。
「ごめんなさい。私が身代わりになりますから、あの子を警察に突き出すのだけは、お願いだから堪忍して」
彩子のことばを聞きながら、私は、拳に力を入れることしかできなかったのです。彩子の連れ子、康介の異常に気付いたのは、それから間もなくのことです。毎日のように大きなゴミ袋を学校に持っていく様子が気になり、ある日、勉強机の引き出しを開けたところ、外科用メスや薬品など、大量の医療用器具が並んでいました。彩子に事情を尋ねても、顔を暗くするばかり。イヤな予感は増し、そして的中しました。真夜中、康介の部屋を覗き、私は信じられない光景を目にしました。部屋の中心に、猫がいました。生きているのか。死んでいるのか。グッタリしていていました。と、康介が机の中から例の医療セットを取り出して…。(ま、まさか)身構えたときにはザクリという静かな音が室内に響き渡っていました。猫の喉元を真横に切り裂き、素手で腹を撫でたかと思えば、今度はその中心にスッとメスをあてがい、ズブブブブブ。決壊したダムのように、傷口から内臓がドロリと溢れ出ています。背筋が凍てつき、身体の自由が奪われました。こんなことがあっていいのか…。私は真剣に己の運命を呪いました。しかし、事態はさらに悪化していきます。杏奈ばかりか久美まで帰りが遅くなり、そのうち朝帰りが当たり前のようになっていったのです。むろん、注意はしましたが、相手にされません。すでに私の威厳は地に落ちていました。それこれも、すべては伸二のせいです。
「おっさん、ビール買うてこい!」
たとえ晩御飯中でも、髪の毛を引っ張られ蹴りを入れられました。
「おい、ジャンプも一緒に買うてこいや。ヤンジャンと間違えたらシバくぞ!」
毎日、ボロポロに殴られ、そのうち彩子にまで見限られました。あまりにも情けないと、寝室を追い出されたのです。今、思えば、どんな手段を使っても、伸二を叩きのめしておくべきでした。すっかり笑顔の消えた私は、最後の砦だった仕事にも見放されました。得意先に切られ、従業員も去っていく。そんなとき、地元の駅前でスーツ姿の男性に声をかけられたのです。
「あなた、悩みがありますね?」
「は?」
「霊がついてますよ。除霊しないとマズイですよ」
抜群のタイミングでした。最近のどん底ぶりは、何か理由を付けないと、到底理解できるものではありません。藁にもすがる思いで、私はすべてを打ち明けました。すると、その霊能者とやらは言うのです。
「邪念がついてますね。私でよければ、おはらいいたしますが…」
すぐさま彼を自宅へ招きいれれば、ピタリピタリと過去を当てられました。「昔、飼っていたハムスターの供養が不十分です」「に、庭の端に埋めたのがマズかつたのですか」
「ええ。近所の浮遊霊を呼び集めて大変なことになってます」
除霊代は3日で200万かかりました。冷静な今なら、べらぼうな金額です。が、御札や水晶、結界を張る作業を含めての金額と言われ、そのときの私は素直に金を支払ってしまったのです。
大事件が起きたのは、それからわずか3日後のことでした。
「もしもし安藤さんでっか?お宅の娘さんで杏奈さんと久美さんていてます?」
「はぁ。なにか?」
「おたくのお子さんが援助交際してはりましてね」
ドスの利いた男の声でした。学校の先生とも警察とも思えません。
「ワシがシャワー浴びてる間に、財布持って逃げたんですわ。今から来れますか?それとも警察行きましょうか?」
「ちよ、ちょっと待ってください」
取るものもとりあえず約束の喫茶店へ急ぐと、娘2人がションボリと傭いておりました。正面にはヤクザらしき大男。どう考えてもダダでは済みそうにありません。
「どないするんじや誠意みせんかい」
「す、すいません。今から銀行へ行ってきます…」
結局100万を払って2人を解放しました。
「援助交際をしてバッグを買うぐらいならワシに言え」
落ち込む2人の娘に私は優しく諭しました。100万は大金ですが、これで父親としての威厳を取り戻せれば安いものです。が、しかし、その魂胆は完全に裏目に出ました。威勢のいいことを言ったんばかりに、子供たちはチャンスとばかりに金をせぴってきました。娘たちのバッグや洋服代にくわえて、伸二のバイク代に改造費。ジャブジャブと金は流れ、2千万の貯金が底をつくのも、あっという問でした。皆さんは、今までの話を聞いて、首をかしげるかもしれません。どうして、絵に描いたような不幸が次から次に舞い込むのか。おもしろくするために、適当な話をでっちあげているんじゃないか。そう思われても仕方ありません。いや、これが適当なホラ話なら、どんなにかいいでしょう。私には、さらなる悲劇が待ち受けていたのです。息子の浩史と、嫁の彩子の様子が何か妙だ。ふと、そんな疑念にかられたのは、今年の冬のことでした。食事のときや、居間でくつろいでいると、2人が仲良く話し込んでいます。母親と息子。別におかしくはありません。当時私は、彼女の寝室を追い出されたまま隣の書斎で寝泊りしてたのですが、夜になると人の気配を感じるのです。しかし、まさか。浩史は、家族の中で唯一、私に優しいことばをかけてくれる子供です。その浩史が…。悩んだ末、私は浩史にさりげなく聞いてみました。
「おまえ、最近、母さんと仲いいなぁ?」
「うっさいなぁ。付き合うてる彼女のことで相談に乗ってもらってるだけやんか」
そのことばを、いったんは信用した私でした。が、いざ、寝室に聞き耳を立てると、やはり怪しいのです。端ぎ声は聞こえてないのですが…。翌日、彩子の寝室に忍び入った瞬間、確信しました。部屋中に男の匂いが蔓延しているのです。もはや、疑いようがありません。
「おまえ、何やっとんのや彩子と…おまえ」
その晩、玄関先で問いつめる私に浩史は冷たく言い放ちました。
「うっさいわ!」
もはや私に家族などいない。このまま失院するか、命を絶つか。そこまで追いつめられた私に、悪魔のような音が聞こえてきました。
「だ、ダメ〜ヒロちゃん、私、もうイッてまうよ〜」
「アカンよ抜いてまうで」
「あ、ああああん」
関係がバレた以上、遠慮はいらないと思ったのか。浩史と彩子が毎晩のように身体を貧りあっているのです。一度は包丁を手にし、寝室の前に立ちました。しかし、できません。私には殺す勇気も死ぬ勇気もないのです。