0163_20181120142338e60_20191006202751b75.jpg0164_201811201423408a9_20191006202753e89.jpg0165_201811201423415b3_201910062027545d2.jpg0166_201811201423437e5_20191006202756c67.jpg0167_20181120142344c74_20191006202757b45.jpg0168_201811201423463f6_201910062027595b2.jpg0169_20181120142347631_20191006202800b1d.jpg0170_2018112014234903b_20191006202802695.jpg0171_2018112014235071f_20191006202803485.jpg仕事も家族との会話もせず、何年も自分の部屋にこもり続けるドロップアウトたち…。新聞やテレビでお馴染みの引きこもりは、集団自殺や少年犯罪と並ぶ現代の深刻な社会問題だ。日本心理学会の調査では、現在、国内に存在する引きこもりの数は約120万超。そのうちの成人男子が家庭内暴力を引き起こし、全国の保健所や精神保健福祉センターには毎年6千件以上もの相談が寄せられている。事態を重く見た厚生省は、一昨年引きこもりとは6カ月以上自宅にこもった状態を指すと基準を定め、本格的な対策に乗り出したが、いまだ明確な方針は打ち出せないままだ。こんな状況下、新種のニッチビジネスとして脚光を浴びつつあるのが、ここで取り上げる引きこもり救出業である。文字どおり、家族からの依頼を受けて引きこもりたちの救出と社会更正を手伝う、いま注目の介護産業だ。
本稿の主役である花田和弘(仮名)は、本業として興信所の社長を勤めるかたわら、4年にわたり200人以上の引きこもりたちを救ってきた。
「そんな大層なことをしてるつもりはないよ。さんざん失敗もしてるしな。偉そうなこと言ってたら恨まれちまう」現在、非常勤スタッフを抱え、月に5〜8件の依頼をこなす花田。彼はいかにしてこの風変わりなビジネスを思いつき、成功に導いたのだろう。花田が、長く勤めた都内の無線機業者を辞め、自己資金で興信所を立ち上げた。客からの依頼は、主に浮気調査と盗聴電波の探査。前職で学んだ技術を活かし、3年で1千人の顧客を抱えるまでに成長した。営業成績は順調、スタッフも優秀。もはや食うには困らないと悟った花田を中年の危機が震った。
「興信所ってのは恨まれ仕事だからさ。どんなに仕事をこなしても俺を憎むヤツはいるわけよ。そしたら急にうつになってね。人の役に立つような仕事がしてえなって。この気持ち、若い人にはわかんないだろうね」
そのとき頭に浮かんできたのが8才離れた兄の記憶だった。小学校の頃から肥満でいじめられていた兄は、進級と共に登校拒否にかかり、中学に上がった際には、自室で時計の秒針を眺めて暮らすようになっていた。
「引きこもりの走りだよね。でも、それだけならいいんだけど、中学を出たら家庭内暴力が始まっちゃって」自分をあざ笑ったと言っては母親を殴り、食事が遅いと言っては暴れ出す。父親はただ恐れるばかりで対策を打とうともしない。家庭は瞬く間に崩壊した。
「みんなノイローゼになってさ。親父は愛人作って逃げちゃうし、妹もうつ病にかかってモノ言わなくなったし」その後、花田と妹は母方の親戚の家へ移転。兄は母と2人で生活保護を受けながら暮し始めた。過食と運動不足が原因の糖尿病で、兄がこの世を去ったのは、まだ四十前だった。
「で、思ったんだ。兄貴みたいな人間を助けてやったらどうかなと。興信所の情報と経験を活かせば、何とかなるんじゃねえかって」
試しにインターネットを調べてるみると、数百以上の支援組織がリストアップされた。大半は個人の運営によるボランティア団体である。
「そのうち適当なのを選んで、集会に参加してみたんだよ。そしたらさあ…」結果は惨惜たるものだった。当事者の家族が意見を交わすのはいいが、大半は互いの状況がいかにひどいかを確認しあうだけで、一向に対策を練ろうとしない。
「酷な言い方だけど、要は傷の祇め合いなんだよ。わんわん泣いてるだけで、なんの解決にもなりやしない」さらに酷かったのが医学界の対応である。ツテをたどって幾人かの精神科医に会ってみたものの、大半が「引きこもりは生活態度の問題」との見解で、結局、親次第だと言い放った。
「つまり、引きこもりの原因は誰もわかってないんだよ。例えば、「思春期の挫折や親子関係が原因」なんて話をよく聞くだろう。でも、あれだって1人の精神科医が仮説として雑誌に発表したのを、マスコミが大げさに広めただけ。公式な見解はないんだな」
実際、現代の精神医学は、引きこもりに対して冷淡な面が大きい。明確な心身障害の特徴が現れないため、家族が診察にやっても「異常ナシ」として追い返されるか、鎮静剤を打たれて終わりというケースがほとんどだという。原因がわからず、治療法も確立していない社会病理…。この難題を解決すべく、花田はある女性にアドバイスを求めた。関西の説教オバサンこと、D氏。5年前から個人で引
きこもりの救出活動を始め、支援組織の間でも第一人者として名の知れた人物だった。
「テレビで見たことない?強引に引きこもりの部屋に入って、子供を怒鳴りつけるオバチャン。で、彼女の技術を盗もうと思って、実際に会いに行ったんだ」
期待はまたも空振りに終わる。確かに、幾人かの引きこもりはD氏の前で言葉を語り、ときに涙まで流しもしていた。が、その後数週間と経たずに、大半が元の状態に戻っていたのだ。
「それで気が付いた。引きこもりっていってもいろんな種類があるわけよ。ガンガン怒るだけじゃ、一部にしか通じないんだな」花田は考えた。D氏の手法に科学的な改良を加えてはどうか。
「要するに、Dさんのテクニックは、経験だけ豊富で理論がないわけ。だったら、それを補ってやればいいんじやねえかって」
知り合いの医療関係者に相談を持ちかけ、3人の非常勤スタッフを選抜した。いずれも都内の大学病院に勤める現役カウンセラーばかりである。
「これはラッキーだった。大学病院ってのは、唯一、引きこもりを科学的に調べてる機関だから」
彼らの意見を採り入れ、花田は引きこもりの症状別に3種類のコースを設定した。最も対処が簡単なのが、コースAのプシコ系。分裂病、諺病、人格障害など、本来はただの精神病に過ぎないのに、親が勝手に引きこもりと思い込んでしまうパターンだ。「原因がハッキリしてるから、対処は簡単だよ。ムリヤリ室内に入って、後は病院に連れていくだけ。バールでドアをこじあけたこともあったな」一方、コースBは、家庭内暴力は起こさないが、誰も異常の理由を指摘できないという「アパシー系」だ。目立った精神病の兆候もなく、内向的な性格の持ち主に起きやすいという。
「これは、ひたすら話を聞いて原因を探っていくしかない。平均で3週間以上はかけるかな。でも、いったん外に出れば聞き分けはいいからね。社会復帰も早いよ」
最後が一番難易度の高いコースC・暴力行為や自殺衝動など、緊急を要する引きこもりを対象に、外出の説得はもちろん、身柄の強制移送から社会更正のヘルプまでを行う。