0056_20181217100348b7a.jpg 0057_20181217100349e35.jpg 0058_201812171003509f4.jpg 0059_2018121710035240d.jpg 0060_20181217100353cca.jpg 0061_20181217100355541.jpg思い返したくもないが、語らずにはいれらない…。今は四六時中好きなクルマと接し、幸せな日々を送っている僕にも、そんな話がひとつだけある。2カ月間だけ働いていたアノ店のことだ。当時、僕は食うや食わずの日々を送っていた。自然、バイト情報誌にも頻繁に目を通す。が、マトモな仕事は給料も安い。多少ヤバくても金のいいところで働きたいのが本音だ。
『新宿・喫茶店明るく楽しいお店です』
この求人広告が目にとまったのも、時給の高さゆえ。どうせポーカーゲーム屋か雀ピューター屋だろうが、モノは試しと電話をかけてみるとくわしいことは後で話すから、今すぐ来てくれ」とのこと。
さっそく電車に乗り、店の事務所のある歌舞伎町へと向かう。時間は夜6時ごろだったろうか。
事務所は、歌舞伎町の雑居ビルの中にあった。
「あのぅバイトの」
「まあ入って。キタネーけど」
アンちゃんは、いかにもヤル気のなさそうな口調でこう切り出してきた。
「ウチはね、ポーカーゲームやっ
てんの。わかるだろ?1円とかのカンバンがそこら中にいっぱいあるじゃん。ま、稼げるのは間違いないから」ほらね。やっぱりこういう店しかあの時給は成立しないのだ。
「だけどね-、今ポーカーの方はいっぱいだから、バーの方をやってくれよ。飲み屋のウエイタ-な。キミ、認だつけ?若いからダイジョブでしよ」
条件は悪くない。夕方5時から朝4時まで、時給1200円で10時間働くとして、日給約1万2千
円。それに、ポーカー喫茶よりアブなくなさそうだ。
「オシッ、じゃあ明日店に来てくれ。店長が待ってるから」
僕の返事を待たず、採用は決まった。
「Tビル」という雑居ビルが見えてきた。
エレベータで×階まで上がると、
そこはまさに飲み屋街。廊下にはスナックのネオンがずらりと並び、かすかにカラオケが聞こえてくる。その中のひとつに、僕の職場となる「S」があった。ドアを開けると、店長と主任がソファでタバコを吸っている。
「すいません。西といいますぅ、今日からお世話になり…」「ああ、わかってるって。最初に仕込みやっちゃってくれ」「ハ?仕込みって」
「聞いてないのぉ?ったく、教えてねえのか、あのタコスケが。ちょっとオレに付いてきな」
店長に連れられていった先は、Tビルの地下。ここに、共同の倉庫があるという。なるほど、ここに買い付けした分を貯めておくんだな…と思ったところが。
「いいか。このウイスキーを空ビンにつめて客に出すんだ」僕は自分の目を疑った。店長がそう説明しながら、指さした先は大きなポリバケツだったのだ。
「ウチだけじゃなくて、他の店でも客が残した分は全部ここに貯めてるんだよ。なんでも再利用しなきゃもつたいねえだろ?」
「…マジすか」
呆然とする僕に当たり前だろという顔で指図する店長。どうなっているんだよ、この店は。驚いたのは、バケツのウイスキーだけじゃない。店には一応、VSOPやレミーマルタンなどの高級酒などもあるのだが、その中身もすべてレッドなどの最低ランクの酒と入れ替えられている。ミネラルウォーターだって水道水だし、ツマミのポテトチップスや柿ピーも食い残しで湿気っていて、食えたモンじゃない。唯一、本物はビールだけだ。「おはよ-ございます」そのうち女が出勤してきた。見たところ、ニキビ面で歯の汚れたヤンキー風のネーチャン。ロクに準備もしていないクセに
「あ-疲れた-」などと言いつつ、ソファにゴロつと倒れ込む。店長も主任もお構いナシ。こんなヤル気のない店に誰が飲みに来るっていうんだろうか。