0030_2018122212274508e.jpg 0031_20181222122746406.jpg 0032_20181222122747a9a.jpg 0033_20181222122749d8c.jpg 0034_20181222122751390.jpg 0035_201812221227526d0.jpg 0036_20181222122754e57.jpg 0037_20181222122755bb8.jpg時は6年ほど前に遡る。小さな町に住むぼくは、弁護士の使い走りという風変わりなバイトをしていた。書類の整理だの裁判の準備だのといった小難しいことではない。文字どおり、弁護士先生のパシリだ。たとえば町で怪しげなマルチまがい商法が広まり始めたとする。と、先生はぼくをその商法に参加させ、内部情報を探ってこいと命令。そして、ネズミ講の証拠となるシステムやローン会社との癒着を発見した段階で、先生が弁護士の肩書きを持って乗り込んで行く。お金を出さなければ裁判ですよと脅せば、弱みを握られている先方は泣く泣く言いなりに、という寸法だ。
こういう人を悪徳弁護士と呼ぶのかどうかはわからないが、本人は悪ぴれることもなかったし、それなりの報酬をもらっていたぼくにも不満はなかった。さて、その仕事の中で、とある託児所の女性所長がターゲットになったことがある。彼女は託児所以外に小規模な自己啓発セミナーらしきものを主催していて、二束三文のネックレスを数十万円で入会者に買わせているとの噂がたっていたのだ。
ネックレスの出元を探ってこいとの命を受けたぼくは、いつものように一般人を装ってセミナーに
参加。詐欺の一端をつかむべく、所長への接近を画策した。しかし敵もさるもの、そう簡単に尻尾などつかめるものではない。というよりもむしろ、ぼくは所長の手腕に感心すらしてしまう。彼女は市の養護施設に収益の一部を寄付して名を売る一方で、その施設に子供を通わせる親を自ら経営するセミナーに勧誘していたのだ。なるほど、障害を持つ子供を抱えて人知れず悩む親は少なくないだろう。そこに自己啓発という受け皿を差し出すとは考えたものだ。
経営手法にほれぼれしたぼくは、いつしか当初の目的も忘れて金魚のフンのように所長に付きまとう
ようになっていた。と、ここまでは、ぼくがあるビジネスを考え出すまでの前ふりに過ぎない。本題は、彼女に連れられて件の養護施設の文化祭に行ったことから始まる。 その施設は子供の数が30人程度しかおらず、こじんまりとしたものだった。ミスコンもライブもなく、あるのは焼きそばの売店や作品展示ぐらい。ぼくが見て習いようなものはどこにもない。
ところがそんなつまらない文化祭に、唯一ぼくの目を引くものがあった。展示場に飾られていた1枚の絵が、妙な力を発していたのだ。画用紙いつぱいにクレヨンと鳶絵の具で撒かれたその花の絵は、色使いが独特で、構図もへったくれもないのだが、軽やかな空気感を漂わせている。それは他の絵が、単にアニメキャラクターなどを模したありがちなものだったからなのかもしれない。しかし、別段美術に興味があるわけでもないぼくですら目を奪われたのだから、やはりそこには何かがあったのだろう。
「この絵、もらえませんか?」施設の職員に尋ねてみたところ、たぶん大丈夫だけど一応は描いた本人に聞いてくれとのこと。こんな申し出は初めてなのか、驚いた様子だ。夕方に文化祭が終わった後、職員に伴われて本人が現れた。施設では最年長のノリコちゃんという。彼女は知的障害者なのだという。
「あ、この絵、気に入ったんでぼくにくれませんか」
カタコトしか話せない彼女に職員を通して意図を伝えると、ノリコちゃんは恥ずかしそうな顔をしながらも快く譲ってくれた。この絵は施設の庭を見てかいたのだそうだ。