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エウリアン。街頭に立つ女性が気の弱そうな男に声をかけ、高額な絵を売りつけるおなじみの悪徳商法だ。彼女たち、「この配色が素晴らしいでしょ」「こんな色づかいの作品はなかなかナイですよ」「絵の価値がわからないのは人生損してる」などなどなどの言葉を並べ立ててくるのが常套手段だ。
ならば彼女ら、色盲の客に対してはどんなアピールをしてくるのだろう。たとえばすべてがモノク
ロに見える男に対して、色づかいがどうのこうのは通用しない。さあ、どう攻めてくる?
都内某所、さっそく絵葉書を持って男たちに声をかけまくってる女性を発見した。観察していたら、話を聞いて店内に誘導されてる人もいる。連れ込まれてるのはいかにもオタクっぽい風体の男が多いか。ったくエウリアンのヤツら、よーやるわ。まあ今日はその是非を問うべくやってきたわけじゃない。いざ勧誘されましょう。キャッチ女性のそばを通りかかったところ、ハキハキした声で近づいてきた。
「すみません、こちらの絵画を見るだけ見ていきませんか?」
「え、はあ…」
「どうぞどうぞ、こちらです」
店内にはイルカでおなじみラッセンの絵がたくさん飾られている。どーでもいいけどエウリアンって
なんでラッセンばっかり売ってるんだろうな。
「どうですか? このへんはどれも人気のある作品なんですよ」
「うーん、そうなんですか」
「こちらなんか素敵ですよね。青色のいろんなコントラストが魅力的というか」
さっそく色について触れてきたぞ。チャンスだ。
「あの、ボク生まれつき色盲なんでよくわからないんですよ」
「シキモウ?」
お姉さんの顔色がほんのり赤色から白っぽくすっと変わる。なんだか気まずそうだ。
「そうなんですか。へー」
「全部モノクロにしか見えないんですよね」
「あー、あーそうなんですかー」
あからさまに困っている様子だが、彼女は咳払いを挟んで再び声にハリを取り戻した。
「なるほどですね!でもどうでしょう。色のコントラスト、つまりメリハリなどの素晴らしさはわかってもらえるはずです。良かったら別室で少しお話しさせてください。さあどうぞ!」
なるほど、個別の色がわからなくても濃淡の良さはわかるでしょってか。付き合ってあげましょう。奥のテーブルに誘導され、絵のカタログを見せられながら会話スタートだ。
「その…コントラストっていうのはわかりますよね?」
「うーん、わかるようなわからないようなって感じですねぇ」
「なるほど。でも絵って素晴らしいですよね。飾っておくだけで価値があるものですから」
「はあ」「たとえばこの(カタログの)中だったらどの絵が一番イイと思います?」
「いや色がわかんないんで」
「でもパッと見どれがいいとかあると思うんですよ。線の流れ方とかあるじゃないですか。強いて言
えば、で選んでみてくださいよ」
線の流れってなんだよ。じゃあラッセンのこれ。
「お目が高いですね。これは繊細な色調…とか、線の濃淡に定評があるんです。これを部屋に飾ったときのことを想像してみてください。優雅な気分になりますよね」
色調のくだりで色盲を思いだして、一瞬詰まったな。ていうか60万円もするじゃん。色がわからんヤツが買うわけないし。しばらくして男性スタッフがあらわれた。二人がかりの説得が始まるようだ。
「タテベさん、絵の価値っていうのは理屈じゃないんです。たとえ色がわからなくても、躍動的なイ
ルカとか、波の躍動感が素晴らしいと思ったら、もうそれは価値があるってことなんですよ」
男性スタッフはとにかく「躍動感」を押してくる。まあ確かにそこは色に関係ない部分だけどさ。
「でも絵なんか買っても色がわかんないので意味ないですよ」
「……もうぶっちゃけちゃいますけど、絵柄うんぬんと言うよりは『絵を所持している』っていう事
実にこそ価値があるんですよ」
「じゃあ色がわからなくても買ったほうがいいってことですか?」
「もちろんです。タテベさんにとってイルカはモノクロかもしれませんが、この絵を所持するタテベ
さんは、周囲から見れば金色のオーラを発して見えるはずですよ」
…ドヤ顔の男性。なんかウマイこと言ったみたいな雰囲気だけど、それで買うバカはいませんよ。
続いて別の業者の前をウロウロしていたら声をかけられた。店内には5、6人の女性スタッフがおりそれぞれが男性に絵を勧めている。活況ですな。オレを担当する女性は猫なで声がウリみたいだ。
「あのぉ、この中でどの絵が一番いいなって思います?」
「えっと…実はボク、色盲ってやつで全部シロクロにしか見えない病気なんですよ」
「ええ? そうなんですかぁ? そういう人に初めて会いましたぁ。でもでも、その上でどれが一番イイと思いますかぁ?」
色盲をさらっと流すあたり、なかなかの難敵と見た。これは戦い甲斐がありそうだ。
「いや、どれも一緒ですね。色がわかんないんで」
「でもその中でもこれっていうのはあると思うんです。強いて言えば、ってぐらいでいいんで」 
どこの業者も同じ文言で攻めてくるんだな。
「強いて言えば」「特にないです」の攻防が続き、「じゃあこれがオススメです」と強制的に決められてしまった。そのまま奥のパーテーションで区切られた部屋へ。お茶を持って戻ってきた彼女は、
10 秒ほどオレの目を見つめたのちにクチを開いた。
「あの、白黒に見えるってすごいですね」
「そうですか?」
「すごいと思う。だってそれ、素晴らしい個性じゃないですか」
「いやぁ…」
「私はそう思う。絵も同じですよ。たとえ色の違いがわからなくても、それぞれに個性があるんです」「…たとえばどんな個性ですか?」
「たぶん細かい色の違いはおわかりにならないと思うけど、それぞれの絵が醸しだす色の温度、みた
いなのは伝わってるでしょ?」
温度だぁ? また妙なアピールがはじまったぞ。壁にかけられた絵を指差しながら彼女のマシンガントークは止まらない。
「たとえばアレ(イルカが夜の海を泳ぐ絵)。あれは何度ぐらいだと思います?」
「温度ですか?」
「そう。あれは夜の月とイルカを描いた作品です」
「いやー。10℃くらいかな」
「そう! ほら、わかってる!」
なんだそれ。オレが何を言っても賛同するつもりだったろうに。その後も立て続けに2枚の絵の温度を言わされる。両方とも正解だったようで、彼女は満足げだ。しばらく無言でいたところ、これまた一度奥に引っ込んで男性スタッフを連れてきた。メガネ姿の不動産営業マンみたいなヤツだ。
「タテベさん。この子から聞いたんですけど、色の温度を理解していらっしゃるらしいですね」
「……でもキレイだな、とか思わないんですよ。白黒なんで」
「白黒ですか? ほう。だったら元々が白黒の絵だと考えたらどうですかね?」
コイツは何を言いだすんだ。
「我々が見てるこの絵は青や白、黄色が使われてるように『見える』だけなんですよ」
「え?」
「本当のところは誰にもわかりません。タテベさんが白黒に見えるのなら、それが真実なんです」
「でも青とかなんでしょ?」「それは真実ではないのかもしれないです。タテベさんの部屋に飾ってあれば、それはもう白黒の素敵な絵ですから。その観点から見て、やはり絵を所持していただきたいです」あー言えばこう言うとはこのことだ。最終的に「このイルカの形状を決め手と考えられませんか?」とゴリ押しされたが、イルカ嫌いなのでと言い残して店を後にした。