ネットが発達していない時代には世の男たちは裏本にお世話になったものも少なくないだろう。これはそんな時代のリポートだ。※平成時代を振り返るルポ・この記事は1999年当時の記事です。当時のものとして読み物としてお読みください。
0204_2019042511572103e.jpg 0205_20190425115724e96.jpg  0206_201904251208302e7.jpg 0207_20190425115727a56.jpg 0208_201904251157288ac.jpg 0209_20190425115730ede.jpg紹介者が相当オレを売り込んでくれたのか、それともネコの手でも必要なほど忙しかったのか、面倒見のよさそうな社長は、オレのことを一目見るなり「明日から来てくれ」と肩を叩いた。翌日、昼過ぎに事務所に出向くと、所狭しとダンボール箱が積み
上げられた中に3人の男がいた。社長と経理の水本さん(仮名)、
そして若いホスト系の井沢(仮名)だ。今日は全員で本の配送をやるのだという。
一般の雑誌は取り次ぎという問屋を通して小売店である書店に配達されるが、当たり前のことながら裏本にはそうしたルートがない。よって、毎月刷り上がった本が印刷所から納品されてくると、それを販売してくれる店や業者の注文に応じ、自分たちで発送しなければならないのだ。S企画は毎月2冊の新刊を定期的に出しているため、両方を併せると1万冊近くの量になる。
オレは、ダンボールから刷り上がったばかりの本を取り出して見
た。表紙は服を着けた若い女性が笑っているが、中を開くとお股全開のオンパレード。しかも、裏ビデオでも見られないドアップばかり。おまけに、一般のグラビア誌に勝るとも劣らない画質の良さで、毛の1本1本、シワのひとつひとつがクッキリ見える。
何でも裏本は、うちのものを含めすべてオールカラー、表と裏表紙合わせてページと体裁が決まっているらしい。
「1冊持って帰るか」
オレがマジマジと見入ってたせいか、社長が声をかけてきた。伝票を水本さんが書き、井沢が本を梱包。送り先は、歌舞伎町などに店舗を群噸えて裏ビデオや裏本を売っている、通称「ビデオ屋」と呼ばれる販売店の他、地方の古本屋や通販屋などだ。各業者には先に印刷した表紙を見本に送ってあり、注文が取ってあるのだそうだ。
「昔は自分たちで本を抱えて店に配達したんだから、それ考えればラクなもんだよ。ダンボール箱に詰めて配達表をペタンと貼れば、裏本だろうが翌日には配送してくれるんだからさ」
皆からオャッサンと呼ばれている社長は、この道の大ベテランだ。裏本屋なんて裏の商売をやってるんだから、てっきりヤクザが入ってるのかと思いきや、カタギの方らしい。それなりの付きあいはあるのだろうが、「それはおいおいわかるよ」と笑っていた。
作業中、みんなが話すエピソードから、だいぶ裏本業界の実態を把握することができた。それによると、この世界はかなり閉塞していて、裏本を買う客は新刊が出れば必ず手に入れる常連ばかり。客の数は減りこそしないが増えてもいないらしい。たまには名前の売れたAV女優がモデルになってバカ売れすることもあるが、それも一時のこと。そのため、本を出す業者はお互いが共存していけるよう、発売日を月初め、半ば、月末などとズラし、発行点数も多くて2点などと決めているという。
「裏本ってのはAVなんか出る前からあって、根強い客がいるんだよ。だから出せば売れるし、そこ
そこ儲かる。こんないい商売は他にないよ」
ハタから見ると警察から逃げ隠れしながら本を発行する、めちゃくちゃリスキーな商売に思えるが、のんびりした世間話を聞いていると、たいしたことないようだ。ただし、それはやることをやっていれぱの話。夕方、フィルムを貼り巡らしたバンに積みこんだ約100個の荷物の持ち込み先は、事務所から小1時間も離れた宅配業者の営業所だった。聞けば、何カ月かごとに業者や取り扱い所を変えて足が付かないようにしてるとのこと。作業中は気づかなかったが、配達伝票の差出人の欄に、受取人と同じという意味の「本人」と書いて送るのも作業を簡略化させるためではなく、万一を考えてという。やっぱりこの仕事、裏商売なのである。
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