0020_2018061416103763e_201908162256080b5.jpg0021_20180614161038376_2019081622560930a.jpg0022_20180614161039095_20190816225611818.jpg0023_201806141610418fa_20190816225612fc8.jpg0024_20180614161042f51_2019081622561488e.jpg0025_20180614161044324_201908162256157f3.jpg0026_201806141610456c8_20190816225617ab9.jpg0027_201806141610479b7_20190816225618aca.jpg会社に一本の電話がかかってきた。
「セントウさん、お電話です」
バイトちゃんから受け継ぎ、受話器を取る。
「もしもし」
「仙頭さんですか」
「はい、そうですけど、どちらさまですか?」
「読者の山崎といいます」
「情報提供ですか?」
「いや、仙頭さんに確かめてほしいことを連絡しろって書いてあったんで」
そうだ。情報募集のページにそんなこと載ってたっけ。弱ったな。面倒くさそ〜。
「確かめてほしいことってのは?」
「いや、僕の子供のことなんですけど…」
彼、山崎クンはつらつら説明し始めた。
11年前、21才のとき、彼は当時付き合っていた女性と別れることになった。原因は簡単に言えばケンカだ。 しかし彼女はそのとき妊娠していた。
「別れて1週間後くらいに、突然、彼女の親が押し掛けてきたんです。どうしてくれるんだ、娘が妊娠してるって」
ナマで中出しは何度もやってきた。しかも別れて間もない。自分の子供に間違いなかろう。でも彼女との関係を修復するのは難しい。結婚して育てていけるだろうか。が、先方の要求はそんな前向きな
ものではなかった。
「娘には産ませるから、この場で今すぐ認知しろと迫られまして。言われるまま書類を書いちゃったんです」
「養育費とかは?」
「それは言われませんでした。その代わり、今後一切、娘にも孫にも近付くな。全部忘れてくれって」
こうして彼は、戸籍上だけの父親になった。先方の一家は、お金目的ではなく、産まれてくる子供が父なし子になることを危惧したのだろう。
その一件から11年、山崎クンは平平凡々と暮らしてきた。普通に恋愛なんぞもしつつ。
「でも去年ぐらいから気になってきたんですよ。あのときの子供ってどうなってんのかなって」
順調に産まれて育っていれば小学校5年生、ナマイキな盛りだ。たぶんその彼女さんも誰かと結婚して、親子仲良く暮らしてんじゃないの?
「居場所はわかってんの?」「実家は知ってます。いつも送ってたんで」
「じゃあ見に行けばいいじゃない」
「いや、向こうの家族に見つかるとヤバイんで…」
要するに山崎クンの要望は、自分では見に行けないので、代わってオレに子供の様子をうかがってきてくれないかというワガママ極まりないもののようだ。
なぜオレがそんなことを?
と言い返そうとしたが、ぐっと飲み込んだ。たまには人助けしてみるのも悪くないかも。 
2日後の早朝。都内からレンタカーで千葉方面に向かった。小1時間ほど車を走らせ、目的の住所に辿り着いたのは、午前7時過ぎだ。山崎クンから聞いた通り、元カノの実家は一軒家だった。玄関が見渡せる路上に車を停める。もし元カノが結婚せず自宅住まいのままだったら、子供もこの家から通学するはずだ。母子二人きりで独立して暮らす理由はどこにもない。逆に旦那さんが見つかっていれば、まず子供はここにいない。元カノさんは現在32才、その可能性は十分にある。
8時前、玄関が開いた。出てきたのはランドセルを背負った女の子だ。おいおい、あの子でビンゴなんじゃねーの?顔は山崎クンに似てるとは思えないが、体格から見て、小学校高学年なのは間違いない。たぶん合ってる。 歩く姿を車内からビデオで撮影し、任務は終了。オッケーオッケー。この映像を見れば彼も安心するっしょ。
「もしもし山崎クン?  撮影してきたよ」
「あ、そうですか! 男の子ですか?」
「女の子だね」
「へぇ〜」
「んじゃ、千葉駅前で待ち合わせよっか」
「はい」
駅前にやってきた山崎クンは長髪にヒゲ面の、いかにもナマ中出しばっかりしてそうな男だった。喫茶店に入り、ビデオを再生する。「……この子ですか…」
「たぶんそうでしょ」
「…へぇ、大きいですね」
認知だけして、いっさい顔も知らなかった我が娘が、しっかり成長している。いったいどんな気分なんだろう。山崎クンは動画を繰り返し再生したあと、オレの顔を見た。
「しゃべったりできませんかね」 
そりゃそうなるよな。娘なんだもん。でも自分が父親だなんて告げるのは絶対いかん。彼女の将来のためにも。どっかで待ち伏せして道でも尋ねてみるしかないんじゃ?
「いや、そういうのじゃなくて、もっと普通に会話したいというか…」
30代のヒゲのおっさんが、女の子と普通に会話するなんてまずムリだ。不審者扱いされるっ
て。乗りかけた船という言葉がある。時間もあることだし、彼のためにさらに一肌脱いでやろうとオレは考えた。
でもどうやって?
実の父親として登場するわけにもいかず、かといって身なりを整えたところで不審なオッサンは不審なオッサンだ。どうすれば、小5の少女は32才の男と会話してくれるのか。 ビデオを見ながら悩んでいたところ、あるモノに目が留まった。彼女のランドセルに付けられたキーホルダーだ。これ、嵐だな…。嵐のファンなんだ。ふーん。へえ、ほう…。こういう作戦はどうだろう。オレが嵐のメンバー、たとえば松ジュンに似た青年に仮装し、彼女の前を歩く。当然、少女の心はときめくことだろう。「あ、松ジュンっぽい!」と。たぶん照れながら近づいてくる。そこにオレの友人として山崎クンが現われる。
「お嬢ちゃん、オレ、こいつの友達なんだ。みんなでしゃべろっか」
かくして3人は嵐談議に花を咲かせるのだ。
「この作戦、どうでしょうか?」
「…え、まあ、そうですね」 
いまいちノリ気じゃない彼だが、これ、絶対成功するぞ!その日、カツラと化粧で松ジュンになったオレと、友人役の山崎クンは、夕方の下校時を狙い、再び彼女の地元に出向いた。
「じゃ、山崎クンはそっちの公園で待っててよ。オレが引き寄せて行くから」
「ごめん、ダメだったわ」
「…ですよね」
公園で待っていた山崎クン、落胆というよりは見下したような表情だ。こんなヤツに相談しなきゃ良かったってか?はまだ走っている。もはやオレは降りることを許されない乗組員だ。松ジュンは失敗した。たぶんあの子は櫻井くんのファンなのだろう。だから次はパンダにする。パンダの気ぐるみを着たオレが、上野から逃げて来たかのように彼女の前を横切るのだ。パンダ嫌いのわけがない。
「山崎クンは飼育員のふりをして公園で待ってて、オレがそこまで引っ張ってくることにしよう。じゃあ、明日また!」
「ごめん、ダメだったわ」
「……」
山崎クンの顔は、この前よりも険しくなっていた。ちょっとフザけすぎたかもしれない。今度の今度こそマトモな手法でいこう。名付けて 「鶴瓶の家族に乾杯」作戦である。
NHKのこの番組、鶴瓶とゲストが田舎町をブラブラしながら住人と交流を深めるもので、後半はゲストが一人きりで町を歩く。そのゲスト役を山崎クンが演じるのだ。芸能人ではなく、子供が知らな
くてもおかしくない、世界的な画家や指揮者のフリをして。  これなら自然と話しかけられるし、テレビ相手なら子供も喜んでしゃべるだろう。
「これはイケるかもしれないですね」
初めて山崎クンが前向きなセリフを口にした。うん、オレも今回はイケそうな気がするよ。いざ当日、大型のテレビカメラをかついだカメラマンのオレと、世界的な画家に扮した(といっても私服)山崎クンは、娘さんの下校を待った。無関係なガキどものちょっかいを何度もかわすうち、ようやく彼女がやってきた。
「あの子です、行きましょう」
「はい」
二人で立ち上がる。
「さあ、ではあのお嬢ちゃんにお話を聞いてみましょうか」
大げさな大声を出して、山崎クンがグングン近付いていく。
「こんにちは、お嬢ちゃん、このへんの子かな?」
彼女は恥ずかしそうにコクリとうなずいた。
「何年生ですか?」
「5年です」
「学校帰りですか?」
「はい」
「お名前は何ていうのかな?」
「カトウマイコ」
「マイコちゃん。どんな字を書くんですか」
歩きながらのインタビューが続いた。いいぞ、いいぞ。どうだ、山崎クン、もう満足しただろ!しかし彼はまだ会話をやめようとしなかった。ガキどもがまとわりついてくるのもお構いなく、公園のベ
ンチに彼女を誘い、一緒に並んで座る。大丈夫か。近所の騒ぎになったらボロが出るぞ。そんな心配も知らず、山崎クンは女をそばから離さない。
「友達はたくさんいる?」
「はい」
「おうちではお手伝いとかしてるのかな」
「はい、ときどき」 
あの家に住んでるんだから、たぶんお父さんはいない。母親に負担をかけまいと、お手伝いだって
頑張らなきゃいけないだろう。
「お母さんとは仲良くしてる?」
「はい。でもケンカもするときある、ときどき」
「うん、そうか…」
言葉が詰まった。目がうるんでいる。思うところはいろいろあるはずだ。若かったとはいえ、あのころの彼はやっぱり無責任だった。先方の言いなりにならず、結婚してこの子を育てていく道だってあったのだから。周りのガキがはしゃぐ。
「俺んとこ、犬いるよ!」
「おじちゃん、有名人!?」
「なんの番組?」
こら、クソガキ、お前らはあっち行け。邪魔だっての!周囲のママさん連中まで遠巻きに眺めだし、だんだん収拾がつかなくなってきた。山崎クンがなにかを吹っ切ったように立ち上がる。
「うん、マイコちゃん、どうもありがとう」
「はい」
「家族と仲良くね」
「はい」
ダメだ、カメラマンのおじちゃんも涙が出てきた。
すべては大人の都合だ。11年前の出来事も、今になってこうして会いたがることも。部外者ながらにオレは願う。マイコちゃんがこれからも元気に育ってくれることを。
カテゴリ