201510_000121.jpg 201510_000120.jpg出会ったのは、異業種交流パーティでした。ここには、営業相手を探すために目をギラつかせている女性たちがたくさん転がっています。今回狙ったのは少し風変わりな女性でした。背丈が150センチもない彼女は、自己紹介用に胸に貼られたプレートに「食品メーカーでトップセールスの営業ウーマン」と堂々と書いていました。小動物のように目がクリっとしていてかわいらしく、とても営業トップには見えない彼女。20代後半くらいでしょうか。パーティでの注目度は抜群で、男たちが次々と声をかけていきます。
「おねえちゃん、かわいいね! お互い営業同士で仲良くしてよ!」と話しかける胡散臭いコンサル風オヤジ。
「都内で3軒バーをやってるから今度遊びに来なよ」
 とナンパする茶髪ロン毛の若者社長。みな、その肉体を狙っていることは明らかですが、驚いたのは彼女の態度です。LINEや名刺の交換を提案してくる男たちを次々とかわしていくのです。
「きっと相思相愛ならまた会えるから、連絡先は交換しないでおきます。会社から取引先にしか名刺を渡しちゃダメって言われてて…」
すぐに彼女の性格が垣間見えました。営業トップの彼女はとてもプライドが高く、男たちが口説けば口説くほどそれをあしらうドSの女の子。こういうコの攻略法は一つ。こちらがよりSな態度を示せばよいのです。群がる男たちの中に僕も入っていきます。
「お姉さん、男の子たちから大人気だね。普段どんな仕事してるの?」
「家庭用レトルト商品の通販や、飲食店への加工食材の営業をやってます。お兄さん、一人暮らしですよね?料理の時間ってなかなか取れなくないですか? レトルト食品を定期的にお届けする便もやってるんですけど、どうですか?」
さっそく営業トークを始める彼女。僕を単なる客としか思ってないようです。
「一般家庭の人を相手にするのは大変でしょ? ちゃんと休めてるんですか?」
「ううん、大変なのが仕事ですから。休みはとれてないですけど」
「じゃあ、彼氏もいないんだ?」
「うん、いないよ。モテるけど」
「そうみたいだね、じゃあオレのセフレ3号にしてあげるよ」
「えっ? なにどういうこと? 私が3番ってこと?」
急に動揺する彼女。ほかの男たちからはちやほやされていたのに、いくらセフレと言えども、ナンバー3という評価に納得がいかない表情です。
「うん、他に1番も2番もいるからね。キミは3番目に入るか入らないか、かな」
「1番と2番ってどういう人なんですか?」
負けず嫌いの彼女が食いついてきます。
「それはまた今度ね。実はオレも営業成績トップでね、いま忙しいの。次のアポがあるから帰るね」
その場を立ち去ろうとする僕を彼女が追いかけてきます。
「ちょっと待ってください! 連絡先だけ教えてもらってもいいですか? まだそのセフレの話、聞いてないですよ」
「なに? 聞きたいの? 聞いてもナンバー1にはなれないよ?」
「いいから早く教えてください!」
負けず嫌いの彼女に向けた戦略がバッチリ決まりました。こうしてLINEの連絡先を交換し、メッセージのやりとりがスタートしたのです。その後、事態は思いがけない方向へ転がっていきました。「営業成績トップ」と言った僕のことがよほど気になるのか、仕事についての悩み相談を次々と持ちかけてくるのです。
〈お客さんから「冷たいね」ってよく言われるの、なんでだろう?〉
〈私が女だから契約したって目の前で言われたことがあって…〉
すべての悩みに対しての僕の答えは一つ。「そういうこともまだ乗り越えられてないなら、本当の営業ウーマンにはなれないよ」。
気づけば、彼女は僕を先生のように頼るようになっていました。そして──。
〈今度、私の営業見てくれない? 取引先のところに行くから、知り合いってことで隣で見ていてほしいの〉なんと、僕を営業するのではなく、自分が営業しているところを見てほしいというのです。
平日の夜18時。都内某所の某飲食店。本当に彼女の営業先に足を運んでしまいました。
「どうでした? 私の営業」
「ちょっとガツガツしすぎかな。大変そうで余裕がないカンジが出ちゃってるよ」
しばし無言になる彼女。いくら成績トップと言えど、いくらでもダメ出しなどできるものです。
「彼氏なんでいないの?」
「私、社会人なりたてのころに大失恋をして、それから仕事しかしない! って決めたの。でも、ギスギスしてるって最近言われてて…」
「うん、そういうところが『セフレ3号』なんだよね。こっちの言うことを素直に聞かないコはずっとそのまんまだよ?」
「…それはわかってるんです。でもきっかけもないし。こうやって今日初めて営業見てもらって本当によかったです。でも、一つだけ聞いていいですか? どうしたら1番になれるんですか? 1位の人ってどういう人なんですか?」
なんでも1番でいないと気が済まない彼女。作戦の効果が出ています。
「そんなの口で言ってもわかんないよ。近くにホテルあるから行く?」
少し真顔で答える僕。反応は…。
「えっ…。それはちょっと…」
会計を済ませて店を出る僕。わざと少し急ぎ足で歩きます。
「待ってください、どこ行くんですか?」
「帰るんだよ? ホテル行かないんでしょ?」
「待ってください、待ってください! 行きます行きます!」
こちらが右と言うと左と答えてしまう彼女の性格を利用したこの作戦。見事に成功してしまいました。