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ラブレターを風船にくくりつけて大空に放ったときは、白鵬なみのデブ女と友達になった。あれ、たまたま拾った人が悪かっただけだと思う。風の向きが少し違えば、めちゃ美人とはいわないまでも、せめて関脇クラスの子とは出会えたはずだ。で、今回はロマンチックな秋の海を舞台に、ラブレター拾わせちゃおう作戦を敢行したい。海が舞台、とまで書けばもはや説明は不要だろう。ガラスの小ビンに手紙を入れて、太平洋に流すのだ。今回の文面はヒジョーに重要だ。風船のときは面白半分なノ
リでも良かったけれど、小ビンの中の手紙が『運命的な出会いを信じたくて』ではなんだかキモイ。32才の男が何やってんの?とその場で魚のエサにされてしまうだろう。やはり今回は、海に流さざる
を得なかった設定を文面に書き記しておきたい。ネットや合コンとは無縁で、古典的な方法で恋人を探すしかない、そんな状況だ。幽閉されてる? ないない。無人島に漂着? ないない。山深い村に住んでる? 海がないない。消去法でつぶしていくと、最後に残るのはこれだけだ。
「海沿いの病院に長期入院している」
外出できないので出会いはない。携帯はあっても出会い系は恐い。会話相手は、医者と看護婦とときどき見舞いに来る家族だけ。さみしい。ふと病室の窓をあければすぐそこにいつもの青い海が。そうだ、手紙を海に流そう。誰かが拾ってくれるかもしれない。どうですか、この設定ならキモくないでしょ。ただ、闘病中ってことにすると連絡が来ても会いに行けないので、そろそろ退院できるぐらいにしておいたほうがいいかも。用意した小ビンは50個。さあ、海へ出発だ。東京の海辺はどこもかしこもコンクリで固められてるので、東京湾でバラまいたところで、小ビンが拾われる可能性はなきに等しい。せいぜい漁船の網に引っかかるぐらいだろう。
だから俺は砂浜のビーチへ向かった。湘南だ。海水浴シーズンは終わってるけど、雰囲気のいい場所なので散歩する人はちらほらいるはず。波打ち際にビンが漂着すれば、女の子に拾われる確率大だ。週末の午後。湘南のメイン地帯に到着した俺は、ズボンの裾をまくりあげて海へ入っていった。カバンから40個の小ビンを取り出し一気にぶちまける。波よ、ビッグウェイブよ、美女の元へ運んでくれ!って、うわぁ! なんじゃこれ。全部まとめて押し返されてきちゃったよ。あららら、同じところに漂着するんだ。これじゃ、作戦バレバレだね。ならば浜から沖に向かって1個ずつ投げることにしよう。ほらよっと。あらよっと。ほらもう一発。はいこれで20個目!ビンはそのまま沖へどんどん流れていった。もしかして、もう戻ってこないとか? 波の仕組みって難しいんだな。わかった、こうしよう。残り30個は海には流さない。砂浜に置いていこう。どうせわかりっこないんだから。砂浜を歩きながら、100メートル以上の間隔を空け、波打ち際にビンを転がしていく。ときには海草を絡めたりもしてリアルさを狙って。 
 向こうから美人さんが一人で歩いてきた。なんとか拾わせたい。このまま来たら、そこを通るな。先回りしてビンを置いといてやれ。よし、立ち止まったぞ。拾え拾え拾え…ダメじゃん。ゴミと思われたか?すべてのビンを巻き終えるのにたっぷり2時間もかかってしまった。なんかだいぶん潮が満ちてきたな。あわわわ、まさかぜんぶ海に持ってかれないよな?メールは都合5通届いた(直接電話はなし)。では精査していこう。1は男なのでパス。4も中2だから泣く泣くパス。残る235にとりあえず同じ内容のメールを送ってみる。特に女が確定してる2には好リアクションを期待したい。朝から海岸にいるなんて、余裕のある鎌倉のお嬢っぽいし。
〈こんにちわ、マサノリです。体調を気遣って頂き、ありがとうございます。おかげさまで退院しました。今は都内の自宅で療養中です。あのビン、鎌倉に流れて行ったんですね。僕は鎌倉に行ったことないけど、どんなとこだろう。お住まいはそちらの方ですか?〉
いつでもメール交換できるはずの2番、アケミちゃんからは返事がなかった。退院してしまった男には興味がないんだろうか。逆に5番からはキャッチボールにならない一方的なメールがばんばんやってきた。
〈どこの病院ですか?〉
〈なんでも相談に乗ります〉
〈お元気ですか? メール&電話、返事下さい〉
〈いつ出した手紙なのですか?これ僕の電話番号です。返信下さい!〉
…男だった。留守電にまで「連絡が欲しいです」と、若い男のメッセージが吹き込まれてる。体調を心配してくれるのはありがたいけど、この喰い付きぶりは何だろう。まさかホモ!?そして残る3番。これがなんだか感じのいい返事なんです。なので鎌倉に行くことにした。川上さんがビンを拾ってくれた由比ヶ浜に。連絡くださいって言うんだから、連絡しちゃおうじゃないの。鎌倉までの電車のなか、どう病気のウソをつこうかと悩む一方で、またブーちゃんが来るかもと恐れたりもした。最近ブーオチで終わることが多いからな。でも、あんな上品なメールを打つブーはいないよね。由比ヶ浜に立ち、生まれて始めて鎌倉の海に来て感動してますってな内容のメールを川上さんに送ってみる。最後に電話番号も付けて。するとどうだろう。間髪入れずに電話がかかってきたじゃないか。
「あ、川上です。はじめまして。あの川上です。メールもらった川上です」
落ち着きなく何度も名乗る川上さんは、こうして文字だけで見ると、ちょっとおっちょこちょいな可愛い女性なんだけど、その声は明らかにオバチャンのそれだった。オフクロとしゃべってる気分になるほどの。「ああ、あの、鎌倉に来たんですよ。あの、励ましのメールありがとうございました。ほんとに感謝してます」
「いえいえ、もうお元気になられたんですか」
「はい、もうすっかり」
もう会うつもりはなかった。オフクロの同級生みたいな人に会ったって、恋なんて生まれっこない。なのに俺が攻めに出たのは、ただどんなオチがつくのか見てみたかったからだ。お礼を言いたいのでもし良ければと誘うと、川上さんはちょうど友達と海のほうへ向かうつもりだったと大声で笑う。
およそ1時間後、俺の目の前に現われたのは、60才はラクショーで越えているだろう2人組の女性だった。
「私が川上です」
「友人の佐伯です」
もうどっちがどっちでもいいです。