201502207.jpg 201502208.jpg 201502209.jpg 201502210.jpg 201502211.jpg 201502212.jpg 201502213.jpg 201502214.jpg 201502215.jpg「安定してる公務員になってくれ」と親にせがまれ、特に将来の目標などなかったオレは、初級公務員試験を受けた。郵便外務(配達員)になるためのものだ。その簡単な試験をパスし、晴れてカブバイクに乗って街を駆けまわる、誰もが知ってるあの職業に就いたわけだ。以来、今から3年前に退職するまで、地元の寂れた田舎町で主に配達のみをやってきた。郵便局員なんてものは世間的にはおそらく、真面目でコツコツやってる人種と思われているだろう。というかあたりまえに街を走り回るオレたちについて何かを想像することすらないのではないか。
このたび、オレが実際に見聞きし、経験してきた郵便配達員の現実を話したいと思う。ショッキングな印象を受けるかもしれないが、ひとつお読みいただければ幸いだ。配達員の一日の流れを軽く説明しておこう。
朝8時に出社し、まずは前夜のうちに届いた郵便物を配達エリアごとに仕分けする。そしてハガキ、封書などなどをバイクに積み、1日かけて担当地域への配達だ。オレが入ったころは、配達先での郵貯や保険の営業も業務に含まれていた(郵政民営化以降は完全に配達のみになる)。その後、夕方4時ごろには局に戻り、事務処理なんかを済ませて5時前には退社となる。そんな平々凡々な毎日に慣れてきたある日、朝の仕分け途中に先輩配達員が近づいてきた。
「駒田、オマエもオレたちの仲間に入ってくれない?」
「仲間?」
「そう。金儲け仲間。まあ悪い話じゃねーからさ、決まりな?」
20才も年上のその先輩は詳しいことを話さないまま配達に向かった。彼はいつも仕事が終わってから配達員を引き連れてパチンコに行っている。そんな仲間なんかに入りたくないんだが…。
〝仲間〞の意味がわかったのは数日後のことだ。
その夕方、配達から戻ったオレたちに課長から質問が飛んだ。
「○○番地の××さんの家に普通郵便を届けた者はいるか?」
この郵便局には15人の配達員がいて、誰がどこの家(地域)を受け持つかは日によって変わり、上司は管理していない。とある配達員が手をあげた。
「あ、今日のボクの担当地域です」
「そこに普通郵便を送った人からクレームが来てるんだが、投函した覚えあるか?」
「えっと…たぶんしてないですね」
「現金を入れてたらしいのだが…」
「そんなのなかったですよ。そちらのお宅には届けてないですね」
こんなやりとりでその場はお開きになった後、例の先輩が近づいてくる。
「あれな、カネはオレがもらったんだよ」
「え?」
「オレがパクったの。ほら」見せられた財布には2万円が入っていた。パクった?でも先輩の担当地域じゃなかったんじゃ?実は今回の現金入り郵便を配達するはずだったのはカレだそうだ。
「現金書留じゃなくて普通の封筒にカネを入れてくるヤツって多いんだよ。そういうのを見つけたらガメちまえばイイんだ」
現金は本来、現金書留で郵送しなければならない決まりだ。だけど面倒なのかなんなのか、普通に封筒に入れてくる人がけっこういる。そいつをネコババしたわけだ。ならばなぜ別の配達員が手を挙げたのだろう。
「金がなくなったときの担当者がいつも一緒だとバレるだろ?だから当番制にしてんの。今回はアイツが担当になってたわけ」
このネコババ仲間は10人ほどのグループらしく、それぞれの配達物に現金が入ってることがわかったら担当者がそれをパクる。連続でパクることももちろんある。しかし配達されてないことが発覚して課長に問い詰められたときは、輪番制で挙手をする。犯行者の特定を防ぐためだ。
では送り主に対する説明はどうするか。これはものすごく簡単だ。
課長が発送者に対して「ウチではその封書を取り扱っておりません。そもそも現金を普通郵便で発送するのは違法なので何の保証もできません」と伝えるのみ。そう、普通郵便は郵便局が紛失したとしても保証する義務はないのだ。このシステムを聞いたオレは完全にヤル気になっていた。生活には不自由していないが、やっぱりカネは欲しい。ただそれにしても、どうすれば封筒の中身が現金だとわかるのだろうか? 硬貨なら振ればいいだけだけど…。
先輩は、親指と人差し指で封筒を挟んだときの、札ならではの感触を見極めろと言う。封筒の中身が手紙(普通の紙)のときと札のときでは、指に伝わるはね返りがほんのわずかに違うというのだ。
もちろん1、2万程度よりは5万、10万の束になるほど判断はつきやすく、手紙の間に札が挟まれている場合も、長年の勘でわかるそうだ。というわけでオレは、翌日から普通郵便の封筒をこまめにチェックするようになった。それらしい封筒に出会ったのは数日後のことだ。明らかにただの紙ではない反発力と重さ。この分厚さからして10万くらいあるかも?開封してみれば、中には手紙とともに3万円が入っていた。そいつを財布にしまい、手紙入りの封筒を胸ポケットに入れて(自宅に持ち帰り処分する)配達再開だ。こんな大胆な悪さをしたことがないので心臓がバクバクする。すぐ先輩に報告しなきゃ。
「あの、入ってました」
「おっ、おめでとう!ちゃんと盗ったか?いくらだった?」
 ちゃんとってそんな…。先輩の指示により、別の配達員がこの件の担当者という設定になり、案の定、後日クレームが入ったが、その人の「そんな封筒は無かった」の一言で一件は終了した。
以降もオレは退職するまで、数え切れないほど現金をパクった。およそ平均して月に3万程度はいただいてきただろうか。
あまり事故件数が増えるのもよろしくないので、1万円以下の小額ならカネは盗らず、持参したセロテープで再び封をして投函する。受取人は送り主がどうやって封したかなんて把握してないのでこれで充分なのだ。入局して数年が過ぎたころ、配達途中でスーツ姿の男二人組に声をかけられた。
「お兄さんちょっといいかね?」
露骨に怪しげな風貌。マトモな人間じゃないのは明らかだ。
「△△さんって知ってるだろ?」
「はい? えっと…」
「農家の△△だよ。3丁目の」
ああ、あそこか。田舎町だけあって住人の大半は把握している。
「あそこに40才のおっさんいるだろ?」
「…はい」
「まだあそこに住んでるかわかる? 教えてくれたらお礼するからさ、ね、教えてくださいよぉ」
お礼と聞いて心が動いた。別にオレが何か教えたところで特に問題はないはずだ。男たちは△△さんが家にいる時間や家族構成を聞き、1万円のお礼を渡して去っていった。この出来事を先輩に話したところ、あの男たちは闇金業者だと教えられた。債務者が捕まらないとき、地域の郵便配達員に声をかけることがけっこうあるそうな。配達中に声をかけてくるのは彼らだけではない。これも何度か経験があるのだが、探偵の名刺を見せながら近づいてくる奴もいる。
「あそこの奥さん、昼間ダンナさん以外とクルマに乗ってますよね?」といった浮気調査らしき質問から、「このアパート201号室の電気が点いたら連絡ください」など意図のわからない依頼まで。だいたい謝礼は1、2万程度だ。退職直前のころは、謎の連中にもよく遭遇した。
「郵便屋さん、ジャニーズのグッズを買いまくってる女性とか知らない?」
そのへんの大学生みたいな男がこう尋ねてくるのだ。アイドルグッズばかり買ってる人はわからないでもない。伝票に「うちわ」とか「カード」など書いてあるのがそうだ。狭い田舎のことなので、誰宛の郵便物かなどおおよそわかる。若い男性ならAKB、女ならジャニーズというのも、この業界では常識だ。
「えっと、いるにはいますけど、どうして知りたいのですか?」
「まあ、調査です。細かいことは言えないんだけど、これで教えてくれない?」
謝礼は5万円。一瞬だけ迷ったが、このパターンで3軒の女性宅を教えた。彼らの正体は、購入した覚えのないアイドルグッズを代金引き換えで送りつける詐欺師だ。3年ほど前から増えているので、現在も同様のケースはあるかもしれない。
田舎で10年勤務を終え、上司の勧めで隣町の郵便局に異動した。配達員の数が30 人を超えているいわゆる中型の郵便局だ。異動後すぐに、毎年恒例年賀状の時期が来た。
この時期には学生アルバイトが入ってくる。男は主に元旦以降チャリで配達にまわり、女の子は局内で年賀状の仕分けだ。前の局でも同じようにやってきたのだが、さすがにここはバイトの数が多い。大晦日が近づいてきたら我々正規の配達員も局内にこもって膨大な量の年賀ハガキを仕分けることに。若いバイトの女の子たちに挟まれながらの仕事もいいものだ。ある日、オレの横で作業する女の子が声をかけてきた。
「ワタシ2年前から毎年来てるんですよ」
「へえ、そうなんだ」
「駒田さんは初めてですよね?」
「今年からここに来たからね」
彼女は大学2年生で、高校生のときから年賀状バイトに来ているらしい。ちょっと鼻の穴が上向きだけど人懐っこい子だ。基本的に持ち場は毎日変わらないため、翌日以降もオレと彼女は隣同士で仕事をした。そんな折、お誘いが。
「駒田さん、良かったらお昼一緒に食べませんか?」
「え、オレ?」「ハンバーガー食べたいです!」
奢ってほしいのか。まあ彼女のいないオレなので女の子とメシが食えるだけでもちょっと嬉しい。マックでたわいもない会話を交わして仕事に戻り、翌日以降もお昼は二人で食べることに。そして彼女のアルバイト最終日。仕事が終わったところで、声をかけた。
「お疲れ。バイト終了の打ち上げしようよ」
オレとしては居酒屋にでも行くつもりだったのだが、彼女は意外すぎる言葉を放った。
「あー、じゃあ、駒田さんのお家でお酒飲みたいなぁ」
マジか。実家だけどいいの?その晩、オレの部屋で飲んでごく自然にそういう仲になった。風俗以外の女は久しぶりだった。この話にはオチがある。同僚に伝えたところ、彼女、オレ以外に3人の配達員とヤッたそうなのだ。しかも去年、その前の年も含めたら他にも数名と関係を持ったらしい。なんだよ…。
「ああいう子ってときどきいるんだよ。だからこのシゴトは辞めらんねーよな」
年賀状バイトと郵便局員のカップルは毎年必ず成立する。彼女みたいな局員マニアはさすがに珍しいが、誰を食った誰に食われたみたいな話は普通にあるのだ。この中型郵便局に移ってからは、このオ
レも30代後半まで毎年のように年賀バイトちゃんとヤレていた。年末年始は我々が一番楽しみにしている季節だ。
年賀状と言えば別の楽しみもある。といっても特定の趣味を持った人間に限った話だが。郵政民営化(2007年)ぐらいのころ、同僚で一番仲のいい伊藤から、「今晩ちょっと付き合ってくれないか?」と誘われた。居酒屋に入り生ビールで乾杯したところで伊藤が目をつむりながら口を開く。
「お前のさ、配達の担当分あるだろ、年賀状」
「え、うん」
「その…いいヤツあったら持って帰りたいんだけどいいかな?」…おっと、そういうことか。ていうかお前ソッチだったんだ。写真付き年賀状は郵便局員、中でもロリコンに大人気なのだ。写真付きを送るのはガキか老人かヤクザしかいないってのがオレたちの間で常識になっているのだが、その中のガキ狙いの配達員がときどきいるのである。
家族写真で可愛い子がいたらそれをオナネタにしたり、あるいは配達せずに持ち帰ってコレクションしたり。このゲスい趣味、郵便屋にとってはあるあるネタだ。伊藤は翌日、オレの担当地域から写真付きの年賀状を物色していった。
「どう、いいのあった?」
「これなんかスゲーだろ。ほぼパンチラだし」
家族と一緒に動物園にいる女の子だ。確かにしゃがんでるけどさぁ…。あるとき、ヤツの家にいったところ、無造作にゴムでまとめられたハガキの束が何個もあった。これまで集めに集めた年賀状は千枚を超えてるそうだ。同じ郵便局にはもう一人年賀状マニアのロリコン配達員がいた。彼は数人の女の子の、毎年の写真付きハガキをストックしていた。それを肴に晩酌するのが楽しいのだそうだ。
あるとき先輩からヤバい小遣い稼ぎを持ちかけられた。なんと、「特殊室」から直接パクっちまおうぜと言うのだ。特殊室とは、現金書留などの「有償郵便物」を保管する郵便局内の部屋だ。普段は施錠されており、内務(窓口業務などの事務職)の人間が鍵を持っている。手口としては内務の誰かのデスクから鍵をとって特殊室に忍び込み、盗む。それだけだ。でもそんなに上手くいくかね。
「いくに決まってんだろ。どこの局でもそんなことやってんだから。だってよ、カメラねーだろ?」
 提案に乗ってみることにした。その日、事務作業をノロノロやって他の配達員が帰ったところで、オレたち二人は内務のスペースに。郵便局によっては夜7時を過ぎると内務一人体制になるところがある。ウチなんかまさにそうなのだが、その一人が買い物に行ったのでその隙を狙ったのだ。片っ端から机を開けていき、鍵を発見。そのまま特殊室に入り、現金書留の封筒を3つほどポケットに入れて退室だ。局を出てチェックしてみればオレのほうが5万円、先輩は4万円だった。これ、当然いずれは送り主からクレームが入る。普通郵便と違い現金書留の紛失(郵便事故)は郵便局が保証しなければならない。けれど、配達中の事故ではないので誰が盗ったかなんてわかりっこないし、オレたちにはなんの火の粉もふりかからない。こんな話はいくらでもあるのに監視カメラはいまだに設置されていないそうだ。民営化したとはいえ、郵便局はやはりどこかのほほんとしている。郵便配達と言えばやはり、あの制服の話をしておかなければならない。なにしろ悪用するヤツが多いのだ。
 制服は個人で管理しており、洗濯するためにちょこちょこ持ち帰っている。そしてこれ、色んな形で悪いことに使われる。たとえば下着泥棒だ。担当する地域に住む女性はなんとなく把握しているので、アパートの敷地内に普通に入り、ベランダから盗んでしまうのである。郵便屋の制服を着ていればブツを見られない限りなんとでも言い訳できるし、そもそも怪しむ人もいない。趣味下着ドロの配達員は知り合いに4人もいた。他にも女子寮、たとえば病院の寮なんかに侵入するヤツも多かった。制服のチカラだけでなく、配達員用にあらかじめ裏口の鍵を預かっているからこそ可能な侵入だ。うちの配達員の間では「病院寮の居住者リスト」なるものが作成されていた。
たとえば『103号室・いつも男を連れ込んでる保田さん』『休日は朝から酔ってる河合さん』などと書かれており、特にオレが楽しませてもらったのが『105号室・けっこう高確率でオナニーしてる笹井さん』だ。初めてそのリストをみて侵入したとき、さりげなくドアに耳をあてたらバッチリ聞こえてきた。
「んんん、んん、ああ、ああ」
さすがにその場でシコれはしなかったが、状況を耳と脳に焼き付けてオカズにするのが最高だった。制服悪用の最たる例はあれしかないだろう。あるとき、例のロリコン伊藤が鼻息を荒くして近づいてきた。
「やべーよ、やっちまった」
「は?」
「友達に制服貸したんだけどさ、それを使ってあいつ…」
なんと伊藤の友人は制服を着込んで女の家に侵入し、そのまましたと言う。それはさすがにヤバくないか…。
「郵便でーすってチャイムを鳴らして押し入ったらしいんだよ。あーあ、オレも女子高生の部屋に忍び込んじゃおうかなぁ」
こいつ、配達中は虫も殺さぬような無表
情な男なのに…。なお、この制服は悪人のあいだで高額で取引されており、盗まれたことにしてインターネットで転売した配達員の話も聞いたことがある。
上司とケンカして退職するまでのオレは、こんなにイカれた職場に30年間もいた。みなさんも、とりあえず郵便屋だからと言って簡単に信じるのだけはやめておいたほうがいいだろう。
※この記事はフィクションです。読み物としてお読みください。
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