1_20191124103615607.jpg2_20191124103617ada.jpg3_201911241036188d0.jpg4_201911241036208da.jpg5_20191124103621c3c.jpg6_201911241036234bc.jpg7_20191124103624046.jpg8_20191124103626116.jpg9_20191124103627414.jpg10_20191124103629332.jpg11_201911241036305d8.jpg12_20191124103632bfc.jpg13_201911241036338bc.jpg14_20191124103635e75.jpg主人の会社の社宅から広い3LDKのマンションに引っ越した。社宅は家賃が安いが、周りが全部、会社関係。何か監視されているようで気疲れするのだ。
その点、今のマンションには夜遊びして帰ってきても口うるさくウワサする奥さん連中もおらず勝
手気まま。自由を手に入れたのである。
しかし、そんな暮らしも1カ月もすれば飽きてしまう。夫のために家事をこなすのは当然としても、絵画や陶芸などの趣味に興じる柄でもなりかといって、パートに出るほどの働き者じゃないし、子供を作るのもまだ早い。いずれ私似の女の子を生む予定だが、もうしばらくは遊びたい。そこで室内犬でも飼おうかと思いついた。
小型犬ならどんなものでもよかったが、たまたまテレビで見た顔が長く耳が垂れ下がったヌイグル
ミのような犬がミニチュアダックスフンドという種類だったので、それを買うことにした。多少は吠
えたりするらしいが、成長してもたいして大きくならないのがいい。
だが、ペットショップに出かけビックリ。なんと、血統書付きのダックスフンドには15万円もの値
段が付いていたのである。おまけに犬を飼うには、狂犬病の予防接種をして保健所に登録しなければならず、その費用として4,5千円。加え、生後3カ月を過ぎたら2回(ないし3回)に分けて伝染病(ジステンパーやインフルエンザなどの混合ワクチン)の予防接種を行い、その都度1万〜1万5千円が必要。さらに避妊・去勢手術を施すのが常識で、それに2〜4万もかかるというのだ。
残飯でもやればエサ代もそれほど要らないだろうと皮算用していたのに、いったいどこを探せば出てくるんだ。と、一度は憤慨して犬を飼うのをあきらめた私であったが、その1週間後、ポストに入っていた無料のエリア情報誌を見て考えを改めた。
なんでも世の中には捨て犬や猫の里親を探すペットボランティアなる方々がいて、飼ってくれる人がいれば予防接種代などの費用を負担しているらしいのだ。
これってつまり、私が里親を希望すればお金がもらえ、もし仮りにその犬が散歩の途中、どこかの犬に吠えられでもして、いなくなってしまっても、その費用は丸々私の手元に残るってこと?
ウマクすれば、1匹の犬で4,5万円が手に入るのだから、こんな楽チンなバイトは他にない。ただ問題は、本当に費用を負担してくれるかどうかだ。とりあえずメッセージを出していたボランティアに電話で問い合わせてみることにした。「お電話ありがとうございます。こちら「里親ネットワーク」(仮)です」
コール3回で出たのは20代と思しき女性で、親切にいろいろ教えてくれた。
会のおもな活動は捨て犬や猫を保護して飼い主を見つけること。
それ以外にも、野良犬・猫を増やさないために不妊・去勢手術を積極的に行うようキャンペーンなど
を展開しているらしい。
彼女は専業主婦で、別に会から日当をもらっているわけではなく、ヒマなときに手弁当で事務所の電
話番をしているのだという。
「こういうボランティアって全国にたくさんあるんだけど、どこも運営が大変なのよ。活動資金は賛
同者のカンパとボランティアの持ち出しだから、結構、お金もかかるしね」
犬が好きなのでボランティアに参加したいという私のことばを信じ、自分と同じ境遇と思ったのかすっかりうち解けた口調になってきた。
「でも情報誌には手術やワクチンの費用が払えない人に援助をしてるって書いてあったじゃないです
か。あれ、本当なんですか」
肝心なことに切り込むと、相手は困ったような口調になった。
「いちばんの問題はそれなのよ」
ペットブームだなんだと騒がれているが、人気があるのは血統書付きだけ。ブリーダーからそういう犬や猫を買って飼い始めるのはいいが、飽きると簡単に捨ててしまう人が多く、結果、街に雑種の野良が増えるというわけだ。
「ポメラニアンだパグだっていうと引き取り手はあるんだけど、雑種はね。飼うからには責任を持っ
てほしいから不妊・去勢手術をしてくれってお願いするんだけど、家計が苦しいって言われればいく
らでも用立てるしかないのよ」
社会のため、ペットのために運動をしている人たちには申し訳ないが、やっぱり私の読みはあたつていた・里親になりたいがお金がないと言えば費用を援助してくれるのだ。
さっそく「私も里親になりますよ」と申し出ると、相手は「ぴったりのこがいるよ。生後5カ月で、ワクチンも手術も終わってるから世話ないわよ」って、それじゃ意味がない。
とりあえず「じゃ、また連絡します」と電話を切って、作戦を立て直すことにした。ペット雑誌を購入し、インターネットで関連のサイトを見て回る。すると、あるわあるわ。全国各地で「不幸な犬猫をなくすだのペット里親の会なんてボランティア団体が活動をしていた。
そこで私は気がついた。捨て犬や猫の面倒を見るボランティアが私財を投げ売って里親になってくれる人を探しているなら、ましてや自分ちの可愛がってるペットが産んだ子供たちにはお金を出すのを厭わないのではないかと。
そこで私は、近所の動物病院に連絡し、生まれたばかりの犬を飼いたいので里親を探している人がいたら電話をくださいと頼んだ。前を通ると、よく「仔犬もらってください」などという手書きのポスターが貼ってあるのを思い出したのだ。
待つこと2週間。動物病院から念願の電話が入った。お客の雑種に4匹子供が産まれたので、引き取り手を捜しているという。とりあえず車ですぐにその家に向かう。と、先方は緑豊かな郊外の一戸建てで、生まれたばかりの仔犬たちが庭先の犬小屋で母犬のおっぱいを吸っていた。
玄関のチャイムを鳴らし、動物病院の紹介で訪ねてきたというと、老夫婦が現れた。わざわざすみませんねと頭を下げながら、本当は全部自分たちで飼いたいけど、この歳で5匹の面倒はたいへんでと人の良さそうな顔を見合わせる。
「私も犬が大好きなのでゼヒ飼いたいのですが社宅から引っ越したばかりで家計が苦しいんですよ。
よかったら予防接種代と避妊手術代を負担していただくわけにはいかないでしょうか」
仔犬の頭をなでながら、目いっぱい殊勝な声でお願いする私。こんな厚かましい条件にウンと言うなど考えられなかったが、その夫婦は「いいですよ」と、1匹につき4万5千円を出してくれた。やってみれば、拍子抜けするほど簡単だった。2匹を引き取るという私に、その夫婦は近くの郵便局でお金を引き出して9万円を差し出したのだ。
これって、なんか法律に違反するのかな。もしかして詐欺?でもでも、私が計画的に編してるなんて証明するのは不可能だもんね。ただ、罪悪感ってほどのものじゃないが、いつまでも手を振ってたあの老夫婦の姿を思い出すと、ちょっとだけ心が痛む。な-んて思ったのはその日だけだ。最初の成功に気をよくした私は、この犬猫の里親バイトを本格的に開始。電話帳を引っぱり出し、広告を載つけてる動物病院やペットショップに、犬がほしいので里親を探している人がいたら連絡してほしいと頼み込んだ。もちろん、インターネットでホームページを開設している団体にも同様のお願いメールを送る。
すると翌日から1日に何件か、連絡が入るようになった。が、そうそうウマクはいかない。わざわざ相手の家に行っても、すでに予防接種が済んでいたり、援助を申し出ると「お金を払ってまでは」と断られたりでムダ足の連続。その結果、より多くのお金を引っ張るためには、次の3点を事前に電話して確認しておくべきだと悟った。
①予防接種をしていない生後3ヵ月以内の仔犬かどうか
日本の法律では、生後犬を飼うには狂犬病の予防注射を義務付け、保健所に登録しなくてはならないと決まっている。よって、3カ月以上経った犬は接種済みの場合が多く、代金援助をお願いすることができない。
②メスかどうか
オスの去勢手術は高くても2万なのに対し、メスの不妊手術は約4万。どうせならメスをもらって2万の上乗せを狙いたいところ。
③猫は金にならない
犬は保健所に登録する義務があるのに対し猫の予防接種は一般的ではない。よって、取れても避妊・去勢手術代の1,2万がせいぜい。猫の方が里親を探している人数は多いので、犬がいないときはやるしかないが、やっぱりオィシイのはメス犬なのだ。
こんなことでウマクいくか不思議に思うだろう。いったい、何万かの金を出して犬をもらってほしいという人がどれほどいるかと。私も初めは、ウマクいくかもしれないがそんなには続かないだろうと思った。ところが、やってもやっても成功しちゃうのだから世の中、甘いと言うしかない。
コツは雑種を狙うことだ。血統書付きならいくらでももらい手がいるが、雑種はなかなかいない。
加え、雑種でも小さい室内犬なら引き取り手はあるので、田舎の方の大型雑種を狙う。
都合がいいことに、雑種はボコボコ子供が生まれる。何頭もの仔犬を前に当惑する飼い主の足元を見て、1頭でも2頭でもワクチン代を負担していただけるなら引き取れるんですが、と交渉するのだ。
1頭につきワクチン代の1万だけもらうとしても、数がいれば2万3万引っ張れる。
向こうは自分が動物好きなので、犬猫を好きなヤツに悪人はいないと思うのか、簡単に人を信用して
しまう。例えば、ペットショップで9万のプードルを買ったはいいが、ノイローゼになって手放したいという主婦の場合。
普通に考えればペットショップに売れば、何万かは戻るじゃないかと思う。が、情が移った犬を売るのは忍びないと、3万5千円を出して私に譲ってくれたのだ。当然、私がその足でペットショップに売りに行ったのは言うまでもない。血統書が付いていたので6万5千円で買い取ってくれた。
里親バイトを始めて3ヵ月、ここいらで飼い主と大ゲンカしたなんてエピソードのひとつもほしいところだが、話すべき事はない。最初の問い合わせでお金を出さないと言った人は相手にしないので、トラブルになりようがないのだ。
田舎に泊まろうだと簡単そうなのに難しい無銭で泊まろう
都心から電車に揺られ、午後1時に目的の駅に着いた。駅前にはショッピングセンターの他、飲食店がいくつか並んでいる。どこにでもある郊外の町並みだ。ひとまず駅の周囲をぶらぶら歩いてみたものの、興味を引かれる施設や店は見当たらない。
気がつけばTシャツが汗でグショグショになっている。忘れていた。やけに暑いと思っていたら、この辺りって日本有数の猛暑エリアじゃないか。
急いで目に留まったゲーセンへ避難する。うぶ毛が逆立つほど冷え切った店内を物色していると、奥の方で、ちょっとガラの悪そうな若者2人がパンチングマシーンに興じていた。咥えタバコで何やら談笑している。いっそのこと彼らと仲良くなって一緒に遊ばせてもらうってのはどうだろう。あの手の不良は「仲間は一生の宝だぜ」的な思想を持ってるし、いったん懐に入ってしまえばいろいろと親切にしてくれるのでは。
意を決して、連中の側まで歩み寄る。目があったので愛想笑いを浮かべてみた。にやにや。無視された。2人は何事もなかったかのように会話を再開する。また目があった。今度は目をそらさず、ジッと俺を見ている、いや睨んでいる。眉間にこれでもかとシワを寄せて。
「…何か用?」
連中の1人が口を開いた。
「ねえ、何でさっきからこっち見てんの?」
マズイ、怒ってらっしゃる。誤解をとかなきゃ。
「楽しそうでいいなぁって思って。俺も仲間に入れてくんない?一緒に遊んでよ」
「は?」
若者の表情から敵意が消え、代わりに困惑の色が浮かんだ。どうするどうする、おかしなのに絡まれちまったよ、と言わんばかりだ。若者が、頭をかきながら苦笑いする。
「俺ら忙しいんで。すいません」
連中は逃げるように立ち去った。なんで謝るんだよ。近ごろの不良ってこんな軟弱なの?
沢尻エリカ似OLがお手製サンドイッチを
ふたたび散策をするうちに公園にたどり着いた。ひとまずベンチに横になり空を眺めると、猛烈な手持ちぶさた感に襲われる。ああ、ヒマだなー。
もう夕方の5時。すぐ目の前では、放課後の中坊どもが何やら騒いでいる。手に菓子パンやペットボトルを握って。そういえば寝起きにバナナを食ってから、何も口に入れてない。といって頭を下げて、菓子パンを恵んでもらうのも何だかなぁ。
向こうから女性が歩いてきた。遠目からでもハッキリとわかる美人だ。よし、あのオネエチャンに甘えてみよう。
「あのぉ、すいません。腹が減って倒れそうなんです」
「え…」
女性が怪訝そうに視線を向ける。近くで見るとマジでカワイイ。沢尻エリカそっくりだ。歳は20代半
ばってとこか。
「こんなこと言うのも失礼なんですが、何か食わせてもらえませんか。家の残り物でもいいので」
「どうしたんです?」
「お金が一銭もなくて」
彼女は立ち止まり、ちょっと思案してから言った。
「大変ですね。じゃあ、ちょっとここで待っててください」
そう言い残して、近くのマンションに消えていく彼女。ちょっと待ってろ? もしかして部屋を掃除して俺を迎え入れてくれるとか?マジ? こんな展開あっていいのか!
…そのまま30分、電柱につながれた子犬のように待ってはみたものの、彼女が戻る気配はなかった。ち、ダマされたか(と言える身分じゃないが)と肩を落として歩き始めたとき、背後から女性の声が。
「すいませーん。遅くなって」
彼女だった。手にビニール袋をぶら下げている。
「あんまりおいしくないかもしれないけど」
サンドイッチとミネラルウォーターだ。しかもサンドイッチは手作りで、中にフィレオフィッシュが挟まれている。ハイキングか何かの残り物かな。「ありがとうございます!」
「あり合わせで作ったから自信ないんだけど」
さっき出会って、この短時間で作ってくれただって!?このコ、恋したの? いきなり手作りサンドイッチでハートを射止めにきたの?
感動。それ以外にことばはない。浮浪者もどきの俺に、そっと渡す手作りサンド。映画化決定の名シーンだ。ならばこっちからもにじり寄ってあげねば。
「写真、一緒にいいですか」
「はい…」
横に並ぶといい匂いがする。はい、恋しちゃいました。
「ねえ、そこの公園で一緒に食べようよ。話でもしない?」
「いや、それはちょっと…。じゃ私、用があるので」
「え、あれ、ちょ…」
彼女は足早に去っていった。サンドイッチを手作りしておきながら、和やかな会話は拒否するなんて、どういうこっちゃ。