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こういうバカバカしい話はまったく信じないおれだが、もしものときのために友人の三島クンを連れて、現場へ向かった。都心からクルマで走ること約1時間、狭山自然公園に到着した。西武ドーム10個分の敷地を誇るこの広大な園内に、目指すたっちゃん池はある。
公園自体は、実にのどかなものだった。ジョギングコースとしても人気があるようで、ひっきりなしに短パン姿の高齢ランナーとすれ違う。とても心霊スポットの噂など立ちそうにない印象だ。公園の中央部、うっそうと茂る木々に覆われた舗装路を進むうち、ようやく目の前に池が広がった。目測での大きさは周囲300メートルほどで、緑色ににごった水面には木の葉やゴミのようなものがあちこちに浮いている。どうやらこいつが、たっちゃん池のようだ。張り巡らされた柵の前には、警告板が立てかけられている。
【あぶない!!  この池は深くて危険です。柵の中へ入らないでください】
あらためて池を見渡してみる。三方が雑木林に囲まれ、残り一方はコンクリの岸辺になっている。上空をカラスが飛び交う様はそれなりの雰囲気はあるものの、どっからどう見てもフツーの池だ。時折、水面にぽちゃんと音がするのは魚の仕業だろう。外はまだ明るい。ひとまず池を離れて、誰かに話を聞いてみるとしよう。お、ちょうどランニングコースに犬を散歩中のジーサンがいるぞ。
「そこの池、ユーレイが出るって聞いたんですけど」「なんかそうらしいね」 
ほう、噂は知ってるんだ。なんか怖いことありました?
「俺が子供のころは、プール代わりによく泳いだけど、特に変わったことはなかったなぁ」
たっちゃんが溺死したのは大正時代なので、ジーサンが池で泳いでいたころ(おそらく昭和20年代あたり)ならすでに霊が出没していて不思議はない。でも、さすがに昼間にユーレイは出ないか。 今度はジョギング中のジーサンに声をかけてみた。
「すいません。たっちゃん池が心霊スポットだって聞いたんですが」
言うと、ジーサンはあっさり「そんなのただの作り話でしょ」と一笑に付してから、ふと思い出したように声をひそめた。「そういや息子(現在40才)が子供のころ、肝試しに行って、泣いて帰ってきたことがあったな。池をのぞき込んだら人間の顔があってニラまれたとか言って。まあ、どうせ錯覚でしょうけどね」いったん駐車場付近で時間をつぶし、深夜0時ごろ、再び公園に戻った。さすがにこの時間帯になると人影はぱったりと途絶え、園内は静寂と暗闇に包まれている。まっすぐ池へ。水辺からぼう、ぼう、ぼう、と奇妙な音が聞こえてくる。ウシガエルが大量に生息しているようだ。注意書きを無視し、柵の中へ入り、そのまま池のほとりを歩く。てくてくてく。時折、魚の跳ねる音はするが、水面から白い手など伸びてきやしない。当たり前といえば当たり前なのだが。「んじゃ、これ、もう準備しちゃう?」「そうだな」 取り出したのは3人乗り用のゴムボートだ。水面から出てくる手を見つけるには、ほとりを歩くより、池に浮かんだ方がいいだろう。ボートを水に浮かべ、2人同時に乗り込む。まずは池の周辺をギーコギーコ。真っ黒な水面は、不気味なほど穏やかだ。やがて水辺に迫った雑木林に近づくと、ひんやりとした冷気が漂ってきた。そして、どこからともなく奇妙な金属音が。カツーン「なんの音だろ、あれ」「鉄パイプで叩いたみたいな音だな。……あ、また鳴った」カツーン音は一定の間隔で規則正しく鳴っている。どうやら公園のどこかに、シシオドシのような装置があるようだ。続いて岸辺を離れ、ボートを池の中央へ進める。特に何も起きやしないのに、無性に落ち着かない気分になるのは、周囲が真っ暗闇だからだろう。夜の大海原に小舟を浮かべた心細さというか。「ひぃっ」 
ふいに上がった三島の悲鳴に、心臓がドキリとした。
「どうした?」「下に何かいる…。いまケツに触れた」
「魚じゃねーの?」「ボートの底だって空気入ってるじゃん。魚くらいじゃ感じないっしょ」
「じゃあ、何だよ」「知るかよ。こえー」 
結局、原因はブラックバスとの結論に落ち着いた。あいつら、結構デカイからな。ここでいったん岸に戻って、園内を探索することにした。 たっちゃん霊は池のみならず、園内にある神社の境内や公衆電話ボックスにも出没すると言われているからだ。夜中、それらの場所へ出向くと、少年のすすり泣く声が聞こえるとかなんとか。まずは神社から。狭い境内に足を踏み入れると、縦に3つ並んだ朱色の鳥居が目に入った。その隣にはお堂があるだけで、あとはこれといって気になるものはない。
しばし辺りをウロつきながら異変を待った。が、いくら息を潜めても、耳に届くのは虫の鳴き声と風で揺れる葉の音だけだ。「何も起きないな」「多分たっちゃん、いま別の場所にいるんだよ」
実のない会話を交わすうち、体中が猛烈にかゆみだした。「うわ、ヤブ蚊だ」「おれも、めちゃめちゃかまれちゃった」逃げるように神社を離れ、お次は公衆電話へ。暗闇の中で、そこだけボワッと白く浮かび上がって見えるボックスは、ただそれだけで少々薄気味が悪い。情報では、中に入って受話器を耳に当てると、「寒いよ、冷たいよ」という声が聞こえてくるらしいので、おれが試してみることに。しかし、予想通りと言うべきか、手に取った受話器からはノイズさえ聞こえなかった。完全なる無音だ。試しに硬貨を入れて三島のケータイにかけてみたものの、電話は何の支障もなくつながった。ちぇ、ダメだこりゃ。でもまあ、神社も公衆電話も、言ってみれば前菜のようなもので、あくまで心霊スポットのメインディッシュは、たっちゃん池だ。折しも時刻は午前2時半。つまり丑三つ時である。いま一度池に舞い戻って、ボートに乗り込むことにしよう。
今回は、やけに臆病風を吹かしだした三島を撮影係としてコンクリ岸に待機させ、おれ1人だけで出航することにした。オールをゆっくり漕ぐたびにボートは水の上を滑るように進み、三島の姿がどんどん小さくなっていく。やがて完全に暗闇の中へ消えた途端、言いようのない不安が胸にこみ上げてきた。心霊池のまっただ中に1人きり。もし何らかのトラブルが発生しても、助けてくれる者は誰もいない。しばらく水上を右往左往するも、特に何も起きないので、早々に岸へ戻ることにした。こんだけやれば十分っしょ。ようやく三島の顔が確認できる距離に達し、ほっと安堵したそのときだった。「おいっ」耳元で男の声がした。すぐ背後から大人の声で呼び止められたのだ。さらにその直後、今度は岸にいる三島から悲鳴のような声が。「え?ちょ、藤塚、マジやべぇ!」「え、なになに? いま、めっちゃ恐かったんだけど。今の声、聞こえた?」「早く戻ってこいよ。ヤバイって!」 頭が混乱してきた。なんだったんだ、今の声は。で、三島は何をあせってるんだ? とにかく異常事態が起きているらしい。死にものぐるいで岸に上がる。 三島が言う。
「さっきボートの脇をさ、変な白いものがサアって通り過ぎたんだよ。なんだろ?」ヤツが差し出したビデオカメラには、水面に白いヒモ状のモノが映っていた。
「ははは、どう見たってヘビじゃん、これ」
「ヘビってあんなに速く泳ぐっけ?一瞬で消えたんだけど…」「ヘビだってば」「………」
くだらないことでビビりやがって。そんなことより、さっきの声は誰だったんだ?
「あのさ、お前さっき悲鳴上げる前に『おいっ』って言った?」
「は? 言ってないよ。何それ」「おかしいな、後ろから聞こえたんだけど…」
「だって藤塚、こっち向いてたじゃん」「そうだよな…」「なあ、マジで気味が悪いし、このまま帰ろうぜ」三島が手を合わせて懇願してくる。 気味が悪いのはおれも一緒だが、さっきの声の正体をこのまま放っておくわけにもいかない。「おれ、もういっかい一人で乗ってみるわ。おまえ、岸から見ててよ」 内心、恐る恐るボートをこぎ出し、適当なところでオールを上げる。声がしたのは確かこのあたりだったが……。 じっと耳を澄ますが、何も聞こえない。ならば白い手が引きずり込みやすいようにと、水面に片足を突っ込んでみる。パシャパシャ。それ、どうだ。引っ張れるもんなら引っ張ってみろ。パシャパシャ。そうこうするうち、東の空がほんのりと白んできた。 ボートを下りると、待っていた三島が眠たげに目をこすりながら言った。
「思ったんだけどさ、おまえが聞いたのって、大人の声だったんだよな?たっちゃんって子供の霊だろ?霊だったら子供の声じゃなきゃオカシくないか?」あ、それもそうだな。
編集部に戻ってから、あらためてたっちゃん池について調べてみたところ、「多摩湖の歴史」なるHPで、たっちゃん溺死事件の詳細な記述を発見した。
【大正14年7月21日、当時10才だった関田辰夫君(たっちゃんのこと)は、宅部貯水池工事の最中に、妹をつれて遊びにきていました。しばらくして妹は、池のほとりで遊んでいた兄の姿が見えなくなったことに気づき、工事の青年監督官2人に救助を求めました。しかし、池に飛び込んだ2人もそれっきり帰ってくることはなく、やがて水底から関田君と青年監督官3人の水死体が引き上げられたのでした】あの池では、たっちゃんの他に2人の青年まで死んでいたのだ。ふーん、そうだったのか…。
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