0030_2018122212274508e_20191019222204fde.jpg0031_20181222122746406_20191019222205edc.jpg0032_20181222122747a9a_20191019222207dc8.jpg0033_20181222122749d8c_201910192222093f0.jpg0034_20181222122751390_20191019222210bc8.jpg0035_201812221227526d0_201910192222114d6.jpg0036_20181222122754e57_20191019222213e82.jpg0037_20181222122755bb8_20191019222214843.jpg
0150_20190324220018cb2_201910261305040ac.jpg0151_20190324220039e18_201910261305074aa.jpg0114_201901011923574aa_20191026130513d71.jpg0115_20190101192358d67_201910261305108a4.jpg時は6年ほど前に遡る。小さな町に住むぼくは、弁護士の使い走りという風変わりなバイトをしていた。書類の整理だの裁判の準備だのといった小難しいことではない。文字どおり、弁護士先生のパシリだ。たとえば町で怪しげなマルチまがい商法が広まり始めたとする。と、先生はぼくをその商法に参加させ、内部情報を探ってこいと命令。そして、ネズミ講の証拠となるシステムやローン会社との癒着を発見した段階で、先生が弁護士の肩書きを持って乗り込んで行く。お金を出さなければ裁判ですよと脅せば、弱みを握られている先方は泣く泣く言いなりに、という寸法だ。
こういう人を悪徳弁護士と呼ぶのかどうかはわからないが、本人は悪ぴれることもなかったし、それなりの報酬をもらっていたぼくにも不満はなかった。さて、その仕事の中で、とある託児所の女性所長がターゲットになったことがある。彼女は託児所以外に小規模な自己啓発セミナーらしきものを主催していて、二束三文のネックレスを数十万円で入会者に買わせているとの噂がたっていたのだ。
ネックレスの出元を探ってこいとの命を受けたぼくは、いつものように一般人を装ってセミナーに
参加。詐欺の一端をつかむべく、所長への接近を画策した。しかし敵もさるもの、そう簡単に尻尾などつかめるものではない。というよりもむしろ、ぼくは所長の手腕に感心すらしてしまう。彼女は市の養護施設に収益の一部を寄付して名を売る一方で、その施設に子供を通わせる親を自ら経営するセミナーに勧誘していたのだ。なるほど、障害を持つ子供を抱えて人知れず悩む親は少なくないだろう。そこに自己啓発という受け皿を差し出すとは考えたものだ。
経営手法にほれぼれしたぼくは、いつしか当初の目的も忘れて金魚のフンのように所長に付きまとう
ようになっていた。と、ここまでは、ぼくがあるビジネスを考え出すまでの前ふりに過ぎない。本題は、彼女に連れられて件の養護施設の文化祭に行ったことから始まる。 その施設は子供の数が30人程度しかおらず、こじんまりとしたものだった。ミスコンもライブもなく、あるのは焼きそばの売店や作品展示ぐらい。ぼくが見て習いようなものはどこにもない。
ところがそんなつまらない文化祭に、唯一ぼくの目を引くものがあった。展示場に飾られていた1枚の絵が、妙な力を発していたのだ。画用紙いつぱいにクレヨンと鳶絵の具で撒かれたその花の絵は、色使いが独特で、構図もへったくれもないのだが、軽やかな空気感を漂わせている。それは他の絵が、単にアニメキャラクターなどを模したありがちなものだったからなのかもしれない。しかし、別段美術に興味があるわけでもないぼくですら目を奪われたのだから、やはりそこには何かがあったのだろう。
「この絵、もらえませんか?」施設の職員に尋ねてみたところ、たぶん大丈夫だけど一応は描いた本人に聞いてくれとのこと。こんな申し出は初めてなのか、驚いた様子だ。夕方に文化祭が終わった後、職員に伴われて本人が現れた。施設では最年長のノリコちゃんという。彼女は知的障害者なのだという。
「あ、この絵、気に入ったんでぼくにくれませんか」
カタコトしか話せない彼女に職員を通して意図を伝えると、ノリコちゃんは恥ずかしそうな顔をしながらも快く譲ってくれた。この絵は施設の庭を見てかいたのだそうだ。
絵画のオーナーを餌にカモを騙す還付金商法
現金でお支払いというのは法律上できないんですが、特別な救済返金制度として、レンタル・オーナー・システムを立ち上げましてね。美術品、特に絵画のオーナーになって頂こうという制度なんですよ
つまり、絵画をホテル・喫茶店などに貸し出し、レンタル料を稼がせてあげようというワケですが、もちろん、ぜんぶウソ。そんなウマイ話がこの世の中にあるわけありません。
でも、一度、勧誘にダマされた人間というのは、どこまでも目出度いもの。「詳しくお話したい」と誘えば、1人はホイホイと乗ってくるのです。

「テレアポのアルバイトかあるんだけど、いっしょにやんない」
友達の塚原からこんな誘いが来たのは、昨年12月のことだった。
「電話で絵を売るだけだから。昔テレアポで教材売ってたじゃん。ラクショーだって」
勤務時間は、平日の10時から6時までの8時間。時給2千円で、プラス歩合まで付くという。単純計算しても、月収は最低25万。一介のフリーターならまず届かない額である。オレは塚原の誘いを快諾した。ただ、電話で絵を売るとはいったいどんな仕事なのか。現物を見ずに買うヤツがどこにいる。詳しく教えてくれないところを見るに、どうせマトモな内容じゃないだろう。翌日の午後、オレはさっそく事務所へ足を運んだ。都内某所にある雑居ビル。ドアを開けると、7、8卓の机が並び、塚原や同年代のアポインター連中が電話をかけていた。
「いえいえ、だから逆に投資と考えていただければいいんです」
調子のいいセールストークをボーッとしながら聞いていると、40才くらいの男が声をかけてきた。社長のようだ。
「君が塚原君の友達か。まあそこに座ってよ。今から説明するから」
仕事の内容はこうだ。まずオレたちアポインターは、名簿を見ながら美術品を扱う輸入業者を名乗って電話をかける。相手はほとんど家庭の主婦だ。普通に考えれば、相手の顔も見ずに絵画を売りつけようなんてあまりにムシの良過ぎる話。そこで、ある相談を持ち掛ける。まず、客には95万の原画を口ーンで購入してもらう代わりに、こっちでそれを元に大量のポスターを印刷し、デパートゃ雑貨屋なとに卸して、月賦とほぼ同額の権利使用料を毎月支払う。そうすれば、購入者はほとんどタダ同然で名画のオーナーになれる上、売ることも可能。早い話、財テクになりますよというわけだ。最初は子供ダマシと思っていたが、説明を聞いているうちにだんだんわかってきた。
要は、相手が絵なんかに興味なくても「金儲け」で釣ってしまえばいいのだ。客に売る原画は、ジャンピェール・ェルマンという聞き慣れない海外の抽象画家の作品らしい。新進気鋭の作家で、これからどんどん価値が出ると、社長は力説した。
「あれがエルマンの作品ね。並の作家じゃなかなかここまで描けないよ」
一瞬、我が耳を疑った。真っ黒い下地に黄色い輪、赤い三角、そして青い曲線が描かれている。オレには美術の知識なんてコレっぽっちもないが、誰が見ても単なる落書きじゃねーか。
次の日からオレは、連日電話をかけまくった。大したマニュアルもないので、他のヤツを首碩ねてしゃべり倒すだけだ。
「奥様、クリスチャン・ラッセンとかヒロ・ヤマガタとかご存知でしょ。私どもはああいう海外の作家サンを扱っている業者でして」
この段階で電話を切る主婦が大半。切らなくても、ほとんどが半信半疑だ。「実はエルマンの絵ってのは最近、賞を取りましてー枚200万くらいの値が付いているんですよ。それを今回は特別価格の95万円で原画を買っていただきます。ただ、お金はウチが出すんです。どういうことかと言いますと・・に原画はあなたの元に送るから、私どもとしてはポスターなどで儲けさせてもらう。もちろん、権利使用料を毎月2万5千円振り込むから、これで口ーンと相殺可能。相手か強引に切るまで、これを何度もしつこく繰り返す。不思議なもんで「絵は財産」とか「価値が動く」といった常套句を織り交ぜるだけで、とたんに興味を示す主婦も少なくなかった。そして、やっとこさOKが取れたら、商品化権許諾契約書と口ーンの申込用紙を郵送。過去にアポインターの経験があったためか、オレはいきなりー日ー本のペースで契約を取っていった。この歩合がまたメチャクチャおいしく、2カ月目かりは本数が増えるごとに給料も30万、40万と右肩上がり。最終的には塚原を抜いて70万にまでアップしたほどだ。ただ、最初のころこそ社長の言葉を信じ切って働いていたオレも日が経つにつれ、会社の裏が見えてきた。まず「大手百貨店との取引きがある」なんて大ウソで、ボスターすら作っていないらしいのだ。原画の絵柄もすべて似たり寄ったり。そもそもンャンピェール・ェルマンなんていかにも取って付けたような名前の画家が実在するのかすら疑わしい。バイト連中の間では「どこかの美大生が描いてるのでは」とのウワサまで広まっていたほどだ。それでも、原画の権利使用料はちゃんと払っていたので訴えられはしなかったが、間題はそんなことじゃない。この会社、明らかに最初から客をダマすつもりだったのだ。からくりはこうだ。まず、客が口ーン契約した時点で、ウチには信販会社から95万円が一括で入る。あとは短期間で売るだけ売ってトロン。これで相当の儲けか見込めるというわけだ。実際、バイト4カ月目にさしかかったところで社長が倒産を口にした。
「会社の経営がヤバイんだ。君たちにはホントにすまんが、明日いっぱいってことでカンベン願えるか」
バイトごときに70万円も払える会社が倒産するワケないだろってな感じだが、従う他はない。
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