0192_20190428132543e9b.jpg 0193_20190428132545c8e.jpg 0194_20190428132742004.jpg  0195_201904281325475b9.jpg自転車を店の前に止めると、かがんで鍵をはずし、シャッターをガラガラと上げた。男は足音を忍ばせて女に近づく。
「声を出すんやないで」
包丁を見せるや、女はぎょっとしたように全身を堅くした。
「ドアを開けんかい」
女はドアの鍵を探そうと慌ててバッグの中をひっかきまわす。が、パークってるせいか、なかなか鍵が出てこない。
「ちよ、ちょっと待ってください」
男は焦った。《タタキ(強盗)》はスピードや。モタモタしてれば捕まってまうl
「待てるかい!はよせんとぶつ殺すで!」
男がすごむと、「ひつ」と女は両手を萎縮させた。その瞬間、バッグが地面に落ちた。それを見て男は気持ちを変え、バッグをつかみ走り出した。サイフの現金でとりあえずはいいわ
予想外だったのは、女が追いかけてきたことだ。「泥棒!誰か助けて」と叫びながら男の後を走ってきたのだ。激情が男の体を走り抜けた。そんな声で叫んだら、人に聞こえてまうやないけ。何を考えてんのや、このおばはん。
足を止め、振り向いた。殴ってやろうと身構える男に、女は予想以上の力でバッグを奪い返そうする。もみあいになり、思わず持ってた包丁で刺してしまった。
「ぐっ」というようなうめき声が女の口から漏れたかと思うと、「キャーッ」と悲鳴が上がった。男は我を失い、ありったけの力を振り絞って包丁を振り回した。包丁を握っていた右手に激痛が走ったのは覚えている。人差し指の先に刃が触れたらしい。電気が走ったような痛みに思わず包丁を落とした。ふと足下に目をやると、女が倒れている。男は包丁を拾うのも忘れ、車に戻るや急発進で逃げ出した。遺体に残された刺し傷は十数か所に及び、文字通り血まみれの状態である。殺しに慣れているはずの捜査員が思わず目をそむけるほどであった。
「ひどいもんやなあ。ホトケさんはこのコンビニの店員か?」
「ええ、そうです。森下恵子(仮名)このコンビニでパートをしてはるそうですわ」
「家族はいるんか?」
「旦那と娘はん2人の4人家族ですわ。旦那さんの話ですと、家を出るときホトケさんはいつもセカンドバッグを持って行くんだそうですが、それが見当たりません」
「ほうか。強盗崩れの殺しかい」
「流しの犯行やったら、難儀ですなあ」
捜査員たちが初動捜査の報告をしているところ、遺体の周辺をしらみ潰しに調べていた鑑識課員がすっとんきょうな声を上げた。
「うわ、これ何ですのん?」
「なんやねん、いったい」
鑑識課員が指差した遺体下腹部の先には、肉片のような赤黒いものが転がっていた。
「ホトケさんの一部か?」
「指や!これ、指先の表皮やないか?」
鑑識課から科学捜査研究所に持ち込まれた
肉片は、DNA鑑定に必要な血液採取後、幅1.2センチ、長さ2.5センチ、厚さ0.3センチの人間の指先と断定された。
調べてみると被害者の指が傷ついている様子はなく、捜査本部は犯人のものとみた。包丁で被害者を刺しているうち、誤って自分の指先をえぐってしまったのだろう、と。そのころ男は激痛にのたうち回っていた。奪ったバッグの中のサイフには、1万円札が7枚。現金を抜き出し、サイフやバッグを車から投げ捨てる。
とにかく、指の痛みをなんとかせねば。保険証のない男は病院にも行けず、通りがかりのコンビニで包帯を買い、ぐるぐる巻きにした。が、痛みは一向に収まらない。男はクラクラする頭で、あてもなく車を走らせ、適当な場所に止めると失神するように眠った。
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