0199_201905071350358e0.jpg 0198_20190507135033db2.jpg 0200_201905071350361f9.jpg 0201_20190507135038b29.jpg 0202_20190507135041205.jpg 0203_2019050713504765b.jpg 0204_20190507135053d8d.jpg 0205_201905071350581a1.jpg 0206_201905071351085cf.jpg 0207_20190507135107c72.jpg「東南アジアで面白い仕事があるんだ。一緒にやらないか」
同時に除隊したドイツ人、ハインリッビが私のホテルの部屋を訪ねてきたのは、その1カ月後のこ
とだ(行くアテのなかった私はパリ市内の安宿に投宿していた)。
彼とは、Gでも任務を共にした仲。最も信頼のおける友人である。いったいどんな仕事なのだろうか。
「M国の反政府軍に肩入れしている華僑の暗殺だよ」
こともなげに彼は言った。1週間の仕事でギャラは50万らしい。私に特別な驚きはなかった。外人部隊出身者が、ヒットマンにスカウトされることが多いとは、以前から聞いている。殺人に慣れているし、技術も高く、ギャラも安い(傭兵は金が欲しくて戦争に参加するワケではない)。ヒットの依頼があるのは当然だろう。それより私が気になったのは、ハインリッヒがなぜ私を誘ったの
かということだ。他にも戦争経験を持つベテラン傭兵が腐るほどいるだろうに。
「オマエがアジア人だからだよ。現地人と見分げがつかないから仕事がやりやすいのさ」
なるほど。納得のいく説明だ。
「オーケー。行くよ」
3年間、外人部隊にいても戦争に参加できなかったのだ。非合法な殺人とはいえ、こんなチャンス、そうそうあるもんじゃない。
3日後、私と彼はフランスを出発。他にルードがないため陸路を使い、1週間かけてMに入国した。
現地のゴーゴーバー(売春宿を兼ねたスナック)で接触したクライアントは、太った中国系の人物だった。恐らく、チャイニーズマフィアだろう。が、相手の素性は詮索しないのが暗黙のルールだ。
「コイッを消してもらいたい」
依頼人がプロファイルと写真を差し出す。ターゲットは痩せた初老の男。中国系のようだ。プロファイルと写真は、その場で記憶して返却しなければならないため、必死で頭にたたき込んだ。
銃口には、サイレンサーをセット。こうすれば発射音が、スッと小さな音になるし、発射時の火花(銃口からは火花が散る)も隠れる。
段取りとしては、まず私がターゲットを狙撃。もしも外した場合は、ハインリッヒが二の矢を放つ。
ミスはしないと思うが、万が一ということもある。
私と彼はそれぞれ別の窓の隙間から軒先に狙いをつけた。
「来たぞ」
不思議と、実に穏やがな気分だった。もっと緊張したり興奮するかと思ったが、実際は違った。銃と一体化したような感じとでもいえばいいだろうか。スコープの中に再びターゲットが現れた。いつものクセでレストランをふり返る。与えられた時間は5秒間。涛踏しているヒマはない。私は、引き金を引いた。
断末魔の叫びと共にターゲットが倒れた。頭から血が吹き出ている。なぜか私の脳裏にはスイカ割りの風景がよぎった。と、その直後、激しい疲れが体を襲った。ビクッビクッと筋肉が動く。何なんだよ、これは。強烈な咽吐感も押し寄せてくる。たまらなく気持ちが悪い。頭では平気でも、肉体が拒否反応を起こしているのかもしれない。
「3分間で気持ちを鎮めろ」
ハインリッヒが言う。仕事の後は、3分間その場にとどまることになっている。警察の到着までにはタイムラグがあるし、撃った場所などすぐにはわからない。慌てて逃走するよりも、落ち着いてから堂々と逃げた方がつかまる確率はずっと低いのだ。外のざわめきが耳に届く。見なくともその風景は想像がついた。みんな往来から逃げ出しているのだろう。
頭の中は真っ白だった。ポーッとして思考能力はゼロ。ただ、
「人を殺したんだな」ということばだけがボンヤリと浮かんだ。
「そろそろ時間だ、行こうか」
銃などはその場に放置し、逃走用のバンに乗り込む。私は抜け殻のようになっていた。
その夜、宿泊先のモーテルの部屋で1人切りになると、なぜかへラヘラ笑いがこみ上げてきた。こらえても顔が笑ってし蛍う。頬の筋肉が言うことを聞かないのだ。ガタガタと体も震える。震えながら笑う私。まるで竹中直人のギャグのようだと、フト思う。結局その晩は一睡もできなかった。
「これからどうする?」
翌朝、ハインリッヒ
「お互い別行動を取る。正直、ホトホト疲れた。1人きりになってゆっくり休みたい。」
フランスに帰るというハインリッヒの連絡先を聞いた私は、日本に帰ろうと考えた。日本が恋しい。自分でも信じられないが、ホームシックにかかっていたのだ。
成田空港に降り立つと山谷へ向かった。故郷には戻れない。今さらどのツラ下げて親に会えばいいというのか。山谷では、一泊1千円の安宿に宿泊。昼は上野あたりをフラフラし夜は浴びるほど酒を飲むという日々を送った。自衛隊時代の友達に会おうかとも思ったが、やはり止めておいた。
会ったところで、何をしゃべればいいのかわからないがらだ。
悪夢をよく見た。寝ると必ず、頭から血が飛び散る映像が出てきて、叫びながら目を覚ます。あまりの恐怖に、眠らないようガムテープを険に貼り付けたことまであった。
まさに気が狂いそうだった。いや、そうなってくれればどんなに楽だったろう。が、人間、簡単に気など狂うものじゃない。
それから私は日本にいた。その間、ハインリッヒから2回のオファーを受けたが、いずれも断った。理由は単純ギャラが100万円を超えていたからだ。報酬はヒットマンの生命のようなもの。ギャラとリスクの高きは正比例する。引き受ければ生きて帰れないだろう。それが私の考えだった。さて、帰国して4カ月ほどたったある日のことだ。たまたま入ったスナックで、そこのママがこんなことばを口にした。
「殺し屋ってホントにいるのかしらねえ。仕事を頼んでみたいわ」
カウンターだけの店に他の客はいない。苦笑しつつも、事情を聞いてみると、彼女のダンナがかなりヒドイ男らしい、仕事はしない、店の金は勝手に持ち出すへ愛人は作る、暴力は振る
「かわいそうだね。何だったら紹介してあげようか」
どうしてそんなことを言ったのかは自分でもよくわからない。フトした気まぐれか。酔ってガードが甘くなっていたのか。
「え?オニーサン、スジ関係の人なの」
「いや、違うよ」
「じゃあ、なんでそんな入知ってるの」
「海外にちょっとしたツテがあるんだよ。ま、そのダンナが国外に出ないとムリなんだけどさ」
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