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茨城県に住む40代の主婦、東海林さん(仮名)は恐怖に震えていた。マグニチュード9・0の地震後、福島の原発が何度も煙を巻き上げ、放射性物質をまき散らしているからだ。
政府の対応は後手後手に回り、官房長官が「大丈夫」と記者会見した翌日には、県内野菜の出荷が
指し止めになる始末。見えない悪魔が忍び寄ってくる。いや、もうすでに被曝してしまったかもしれない。小さい子供もいるのにどうしよう。外出時はどんな格好をすればいいのか。水や野菜は大丈夫なのか。もし口にしてしまったら対策はあるのか……。
 東北や関東地方から疎開する人が続出し、近所の店の棚からはミネラルウォーターが姿を消した。日々のニュースを見ながらパニックに陥り、右往左往するのが関の山だ。
すがる思いでネット上を徘徊していると、気になるページに行き当たった。
〝被曝に効果アリ! 体内に侵入した放射性物質を鉱物が吸着し、約6時間で尿と便に混ぜて排泄します〞「うわ何だろう、これ。プレミアムゼオライト?」
説明によると、天然鉱物「ゼオライト」なる物質を含んだ飲み物の販売らしい。1本30ミリリットルの商品が3本で1万5千円。バカ高い値段だが、きっとそれだけ効果があるのかもしれない。東海林さんは神に救われたような気持ちで、迷いなく購入ボタンをクリックした。
誰が彼女を笑うことができるだろう。有史以来、人類が初めて経験する原発の連鎖的爆発である。建屋が吹っ飛んで鉄骨がひしゃげ、もうもうと白煙や黒煙が沸き上がっているのを見て平然としていられるわけがない。それが隣の県で起こっているのである。
が、せっかくの「特効薬」も効果がなければ無意味だ。実際はどうなのだろう?
ゼオライトは毒素や重金属などの有害物質の吸着作用があるとされる鉱物。「体内の有害物質を排出する」という名目で、健康食品や化粧品に混ぜて売られることもある。脱臭や土壌改良なども期待できるらしい。
「放射性物質については説明が必要です」と話すのは全国紙の科学部記者だ。
「実は日本原子力学会の有志が4月上旬、仙台市青葉区の愛子(あやし)で産出されるゼオライトが、放射性物質を含む水の浄化に効果があるかもしれないとの意見をまとめて発表したんです。天然ゼオライト10 グラムを使い、放射性セシウムを溶かした海水100ミリリットルに入れて混ぜたところ、5時間で約9割のセシウムが吸着されることを確認したとのことです。だけど、あくまでそれは体外での話で、体内でのセシウム吸着は確認されてません。無味無臭、無毒なので害はありませんが、ゼオライト入りの飲料を飲んでも気休め程度ということですかね」
そもそもこの業者、3年ほど前から〝毒素を取り除く〞〝野菜についた農薬などを除去する〞をキャッチコピーにドリンクを販売していたのだが震災後にちゃっかり文句を変えていた。典型的な便乗商法である。
業者の目論み通り、プレミアムゼオライトは東北や関東の人を中心に飛ぶように売れた。その数、震災後の20日間で1千人以上。約300万円の元手で2400万円を売り上げたという。いままでくすぶっていたのに、ちょっと知恵を使ったただけで2100万円の儲けである。
だが、目立ち過ぎはアダになる。警察当局は震災後、こうした便乗商法やデマの流布に目を光らせて
おり、ゼオライト業者のネット宣伝もすぐに認知していた。
通常、この手のインチキ薬販売については半年から1年ほどの時間をかけて内偵捜査を進めるのだが、そんな悠長なことを言っていられる情勢ではない。
「おい、これって薬事法では承認されてない商品だろ?」
「ええ、業者も医薬品の販売資格を持ってはいません」
「詐欺を固めるのは時間がかかるから、手っ取り早くやるか」
 警視庁生活環境課は電光石火の早業で4月5日、薬事法違反(無許可販売、販売目的貯蔵)の疑い
で、業者の社長(50才)と従業員の女(29才)を逮捕した。2人は調べに対し、「商品はアメリカから輸入をしていました。被曝対策をうたえば売れると思ったんです。確かにその通りになったんですけどねぇ…」などと供述していたという。
便乗といえば、やはり義援金詐欺が今回も横行している。被災地への義援金と偽って募金を集め、ちゃっかり着服するというわかりやすい犯罪だ。
3月18日の夕刻。東京都立川市のJR立川駅前周辺で、アラサー男がマウンテンバイクを押しながら声を張り上げていた。
「東北で被災した人たちのために、募金をお願いしまーす!」
自転車の前カゴには、縦横約30センチ、奥行き約20センチの、段ボール紙で手作りしたと思しき募金箱が乗っている。見慣れない義援金スタイルに不審がる人もいたが、チラホラと小銭が投入されていった。
「ありがとうございまーす!」
男は1時間ほど周囲を練り歩き、そろそろ撤収モードに入った。と、その傍らで、密かに彼の動向をチェックしていた20代の男性も動き出した。募金男の怪しいオーラを感じ取っていたらしい。男性がしばらく観察していると、募金男は何も気付いていないのか、おもむろに募金箱から現金を取り出し、自動販売機でジュースを買おうとしたのである。
「ちょっとアンタ! 待てよ! それって募金箱の金だろ?」
「えっ、お、おまえ誰だよ」「さっきから見てたんだよ。インチキ募金なんだろ?」
「いや、その…」
シドロモドロの男はそのまま交番に連行され、翌日に詐欺容疑で逮捕された。集めた募金は計1万2千円ほど。ケチくさいことをしないで、自分の財布からカネを出していればパクられることもなかったに違いない。
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