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ヤフオクがサギ師の巣窟なのはよく知られた話だが、近ごろ、中古車販売業を営むオレが被害に遭ったのは、詐欺ではなく窃盗だった。 
怖い世の中という他ない。まさかあんな方法で大事なクルマをかすめ盗られてしまうとは。さっそく、コトの顛末をお話しよう。
ヤフオクには、店頭販売のかたわらネットオークションでも取引を行う中古車業者が数多く存在する。オレが社長を務める、従業員たった1名のチョー零細中古車ショップもそのうちのひとつで、マニア向けの旧車から主婦に人気の軽自動車まで幅広い車種を取り扱い、厳しい業界をどうにかこうにか生き抜いてきた。 
1年ほど前、ヤフオクに日産の古いワゴンカーを出品したときのこと。旧車好きには人気の高い車種だったこともあり、すぐに入札がつき始めたのだが、その一方で、こんな質問メールが届いた。
〈すごい興味があります。できればお店に行って、現物を拝見したいのですが、そういうのは可能ですか?〉 
シメたと思った。経験上、現物を見たいという客は購買意欲が高く、下見に来たその足で、売買契約を結んでしまうことがままあるからだ。
〈もちろん現車確認は大歓迎です。日時はいつごろをご希望ですか?〉
〈できれば明日にでも伺いたいんですけど、それがOKな場合、夜8時くらいになっても大丈夫ですか?〉
〈はい、結構です〉 
文面から興味の強さがにじみ出ている。売約ゲットはほぼ確実だな。翌日午後8時、店頭に2人の男が現れた。両人とも歳は30ちょいくらいで、これといった特徴もない、ごく普通の成人男性といった印象だ。 クルマの購入希望者はベースボールキャップをかぶったノッポの男らしく、しきりに「すげー」「やっぱ渋いわ」などと口にしつつ、目当ての車に見とれっぱなしだ。残りのマッチョ体型の男は単なる連れのようで、車には興味を示さずタバコをふかしている。 
やがてノッポが口を開いた。
「試乗ってできますか?」
「はい。10分ほどでしたら大丈夫ですよ」 
正規ディーラーでの試乗は、必ずスタッフも助手席に同乗するものだが、人員の少ない中古車屋では客ひとりで試乗させるパターンが圧倒的に多い。もちろんオレの店も例外ではなく、ノッポに店名入りキーホルダー付きのカギを手渡すと、連れのマッチョを店に残し、嬉しそうに走り去っていった。
ノッポは慎重な性格らしく、試乗から戻ってきた際も、「細かいハンドリングも試したいから」と、自ら店のパーキングに駐車することを買ってでた。が、そこまでしおいて、ヤツの口から出た言葉はコレだ。
「なんかしっくり来なかったんですよね。購入はちょっと考えます。すいません」
ヌケヌケとそんなことを言いながら、クルマのカギを戻してくるノッポ。ち、買わねえのかよ!
期待して損しちまったぜ。 以上が連中とオレのやり取りのすべてだ。そして、ノッポ(と連れのマッチョ男)はその日の深夜、こっそりと無人の店に舞い戻り、旧車ワゴンカーをまんまと盗み出していったのである。翌朝、オレが腰を抜かすほど驚いたのは言うまでもない。 
盗みの手口の全容がわかったのは、試乗のあと、ノッポがオレに戻したクルマのカギが、本物のキーではなく、まったく別のクルマのキーだと判明してからのことだ。 
何のことはない。ノッポは試乗に出た際、本物のキーから取り外したキーホルダーをニセのキーに取り付け、クルマの返却時にそれを【本物のカギ】としてオレに手渡したに過ぎない。そしてだからこそ、ヤツはクルマの駐車も自分でやらざるを得なかった。オレがやろうとすれば、その時点でキーのすり替えがバレてしまうのだから。 
タネがわかれば単純なトリックだが、うすら寒いのは、こんなことを堂々とやってのけるヤツらの大胆さだ。オレの二の轍を踏まぬよう、同業の方は、くれぐれも注意してほしい。
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