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わが家からも5万円を借りていったが…。「ケンちゃんからね、お金借りてるの」
6月末日。朝メシの最中にチャイムが鳴った。嫁の真由美がインターホンのボタンを押す。
「はい」
「おっ、真由美かい? オレだよオレ。昌子いるかな?」
オレオレ詐欺みたいな口上で登場したのは俺も知ってる人物、ケンジおじちゃん(仮名)だった。義母のお兄さんだ。
「はいはい、ちょっと待って…」 
嫁がそう答えた矢先、一緒にゴハンを食べていた昌子さんが突然、両手をクロスさせ、小声で言う。
「ごめん、いないって言って」
驚く真由美だが、言われるがままに「あー、ちょっと出かけてるみたい」と伝える。実の兄に居留守を使うだなんて、どういうこっちゃ。
「はぁ? いるんだろ? 今日休みなのは知ってるんだから」
「え…でも出かけちゃってて」
「ウソつけ。いいから開けなさい」
真由美はうろたえ、何も言えないままに沈黙が続く。居留守の理由はわからないが、こんな状況では息が詰まりそうだ。 オレはインターホンに近づいた。
「ヒロシです。お義母さん、出かけてていないんすよ」
「あー? オマエには関係ねーだろ。いいから昌子を呼べよ」
(注:姪のダンナに向かって、本当にこんなふうに話す人である) 
オレたちの苦しい言い訳は通じず、玄関前のおじちゃんはどんどんヒートアップしていくと、義母がようやく、重い腰をあげて玄関に向かった。何がはじまるのかこっちはドキドキだが、義母は手早くドアを開け、そのまま外廊下に出ていった。
「真由美、どういうことだよ」
「わかんないよ。おじちゃんがあんなに怒ってるの初めて見たし…」  表からは大声がときどき聞こ
えてくる。ったく、マンション中に響いてんじゃねーの?
止めに行ったほうがいいかもなぁ。 義母は数分後に戻ってきた。おじちゃんはもう帰ったようだ。
「大丈夫ですか?」
「ううん…もうイヤになっちゃったよ」
「なにかあったんですか?」
「こっちのことだからさ、ヒロシ君は知らなくていいよ」
「そんなこと言われても…家の前であんなことされちゃうと困るんですよね」
ついイラっときた様子を察したのか、義母は席に着き、しぶしぶクチを開いた。「ケンちゃんからね、お金借りてるの。返せって言われてたんだけどね…」
「いくらくらいですか?」
「ううん、それは…」
「いいから、教えてくださいよ」
「うーん」
1万円ですか、それとも5万円ですか。徐々に金額をあげていくオレに対し、義母はただただ首を横に振るだけだ。10万、15万…おいおい、もっとかよ?
「…30万とちょっとなんだけどね」
「そんなに!?」
「色々と入用でね。でも『利子をつけて返せ』って、ヒドくない? 普通は身内から利子なんてとらないよねえ」 
開いたクチがふさがらない。この人の借金状況はホントのところ、どうなってるんだ。もしかしてとてつもない額なんじゃないのか?
義母はそれから部屋にこもり、まるで声をかけてくれるなと言わんばかりに、大音量でコブクロを流していた。なんだよそれ。こっちは心配してるってのに。ああー、ウザイ。マジでウザイ。
「オマエが割ったんだよ!ちょっと来い!」
イヤなことがあるとついつい飲んで発散したくなるのがオレの癖だ。めんどくさいときはハシゴ酒で酩酊してバランスをとるのだ。 なもんだから、おじちゃん事件の翌週から、会社帰りに新宿のなじみの店でしこたま飲む日日が続いた。 
決まって、終電が過ぎたころに真由美から電話がかかってきたが、そんなもんは電源を切ってしまえば済む話だ。だいたい、お前らの一家がオレを悩ませるから悪いんだ、恨むならお義母さんを恨めよ、ガハハハ…。
7月某日土曜、早朝。とある駅の構内で目が覚めた。えーっと、昨日は会社の近くで飲んで、そのあと移動して、何軒かハシゴして…。ガンガンする頭をめぐらせてもそこからの記憶がない。つーかまだ酔ってるし。帰らなきゃいけないけど、まだ電車ないじゃん。しかたなく構内にある喫茶店の前に座り込む。時間は早朝4 時をまわったくらいで、当然お店は開いてない。
ふぅ。こうも毎日飲み歩いて大丈夫なんだろうか。この歳で肝臓ガンになったりして。それもこれもすべて周りが悪いんだ。借金して身内から取り立てがくる義母なんて、迷惑以外のなにものでもないよ。くそっ、なんだか腹が立ってきた。思わず立ち上がり、喫茶店のガラスを蹴っとばした。
ゴン!…痛ってえ。ふざけんなよ。なんでオレがこんな痛い思いをしなきゃいけないんだ。
ぶつくさ言いながら、そろそろ電車が来るかとホームに向かったそのとき、
「待て、待てって!!」
誰かに手をつかまれた。誰だよ!
「なんだよ!」
「待てって言ってんだ! 見てたんだぞ!」
「はぁ?」
「オマエが割ったんだよ!ちょっと来い!」えらい剣幕のオッサン2人に抱えられ、どこかに連れていかれた。たどりついたのは、先ほどまでオレが座っていた喫茶店の前だった。ガラス割れてるけど…。
「これだよ。オマエが割ったんだよな?」
「いや、その…」ガラス張りのドアの下方に大きな跡があり、そこから四方にヒビが伸びている。その位置はどう考えてもオレの足が当たったところだ。
「すいません、弁償しますんで」
「そんな問題じゃない。警察呼ぶからな」
このおっさんたちは駅の清掃員で、オレが蹴った瞬間、たまたま通りかかっていたそうだ。ふらふらと歩く俺はまるでそこから逃げているように見えたとか。そこからはもう大変だった。
駅員室から交番、警察署につれていかれ、こってり絞られ、数日後には喫茶店からガラスの弁償金として40万円を支払うよう通知がきた。特注品のガラスなので、そんなに高価なのだそうだ。 
この出来事を支払い通知書ではじめて知った真由美は見たことのない形相で罵倒してきた。
「なに考えてんのよ!どうすんの40万も!頭おかしいんじゃないの?」
返すコトバもない。ただでさえ義母の借金問題でピリピリしているこの時期に、こんな大金を支払わなきゃいけないだなんて。オレたち家族は、いずれ順番に破産していくのだろうか。
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