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本誌編集長から「携帯ナンパに挑戦してくれ」と依頼があったときは、正直跨踏した。携帯は持ってはいるが、通話以外に使ったことがないし使い方も知らない。それに俺は極度のキーボード恐怖症だ。ワープロでさえ1時間やってると頭が痛くなるし身震いする。お前にペンを持つ手がないのか、がないのかとイライラしてくるのだ。そんな俺がメールナンパ?それは無茶というものだろう。
「いや、末森さんなら大丈夫ですよ。テレクラであれだけイケてるんですから。わからないことがあったら、何でも聞いてください」
「いや、でも…」「大丈夫ですって」
いつもながら強引な編集長に、結局俺は依頼を受けざるをえなかった。
池袋工リアだけで291人の女が
最初の仕事は携帯の取説を探すことから始まった。基本操作の取説以外は用がないと、応用操作のそれは元箱にしまって物置にブン投げたままだ。編集部の話では、Jフォンの場合はスカイウエブの「エキサイトフレンズ」という出会いサイトがお勧めらしい。と一言われても、そのサイトをどうやつて画面に出すのかまるでわからない。取説を見ながら悪戦苦闘する。
何とか「エキサイトフレンズ」のトツプページにたどりついた。ふー。さて、ここからどうすればいいんだ。まずは「友達を探す」にカーソルを合わせ「東京」を選択。次に新宿、渋谷、六本木、代官山、麻布十番など数ある街のなかから俺の得意とする「池袋」を選び、ボタンをプッシュした。結果ヒットしたのが291件ー池袋だけで300人近くの女が男を探しているのだ。俺は思わずッバを飲み込んだ。
探す条件として「新しい順に見る」「好きな条件で探す」「運を天にまかせる」などの項目が並んでいる。どれがいいだろう。と悩んでいるうち、ふと重大なことに気づいた。スカイウェブに接続してすでに15分。果たして、いくらぐらい料金がかかっているのだろう。これまで通話以外に携帯を使ったことがなく、それも月額2842円以上にはならないよう苦心している俺だ。もし何万円も請求がきたらどうしよう。滞納すればすぐ切られると聞いている。いやあこれはマズイ。怖くなってきた俺はいったんスカイウェブを中止、家の固定電話で電話をかけてみた。
「エキサイトフレンズで女性と交際を考えていますが、1人と会うまでにどれくらい料金がかかるんですか」「は?」
さすがに、こんな質問は初めてとみえ、相手の女性は困惑気味である。
「申し訳ありません。そういった統計はありませんが」
仕方ない。法外な請求書がきたら編集部に責任とってもらおう。
『平日の昼間会えます。30代前半の人妻希望』
とりあえず池袋女のメールを拝見しようと「新しい順に見る」を閲覧。おや、男のメッセージばかりじやないか。え、もしかして…。俺はようやく気がついた。291件とは男も含めての数だったのだ。やはり、世の中そんなに甘くはない。そこで、改めて「好きな条件で探きから「女」を選択、年齢、星座、血液型、特に条件なしで再度閲覧すると、
『メル友になってよ。イケメン待ってる』
『つまんない、メールであそぽうよ』なんだよコレ中学、高校ばっかじゃないか。出る幕なし。正気に戻り、相手の女性を30才から40才に変更、あとは条件なしで探す。と、今度はさすがに少なく、たった5件しかない。
『33才・看護婦・疲れています。昼間がいいな』
何が昼間がいいのだ、エッチするなら昼間がいいってことか。どうもテレクラ慣れしている俺はその方向にいってしまうが、とりあえずこの女のメッセージにカーソルを合わせて続きをチェック。
『イヤし系の人で優しいヒトヘルプミー。趣味、深夜のドライブ。お嬢様度3、セクシー度5』
なかなかソソられる文面ではある。とりあえず、この女にメールを出してみよ、っか。といっても、これがまた厄介で、女性にメッセージを送るには「エキサイトフレンズ」に登録しなければならない。しかも月額300円。タバコ1箱分だ。規約を閲覧すると「公序良俗に反しないこと。わいせつな目的に利用しないこと」など一応建前だけはダラダラと流れる。テレクラと同じだな。しかたなしに承諾した後、次のように登録した。
ちなみに、たったこれだけの文章を登録するのに30分を要した。何回もボタンを間違え、その度に元に戻さねばできない俺。イライラして何度、携帯を壁に投げつけたくなったことか。心底、編集長を恨んだ。それでもどうにか登録は完了、俺は生まれて初めてのメールを先の女性に送った。
この後、伝言でいうオープンボックスのような《自己PR》のコーナーにメッセージを入れた。きっと男のメッセージを見ているだけの女もいるはずだ。
「昼間会えます。30代前半の人妻希望」
あまりにストレート過ぎるかなと思ったが、こんな文句しか考えつかない。どうにかなるさとタカをくくっていた。
果たして、返事は1件もなかった。範囲が狭すぎたのが敗因かと、池袋から23区に広げ、年齢も制限なしにしてみたが、それでもなんの意沙汰もなかった。俺はあきらめた。即会って即セックスが俺の主義。高校時代の文通交際じゃあるまいし、やってられるか、こんなもの。しかし、ここで投げ出し
ては原稿はボツ。編集部に迷惑をかけるのはもちろん、ギャラだって1銭も入らない。だめだ、ここであきらめるのはまだ早い。思案すること半日。俺は数年前、伝言で大ヒットした「デブ専門」を狙うことにした。といっても、むろんこのサイトにデブコーナーなど存在しない。そこで、メッセージを入れた翌日の朝、2通の返事が届いた。初めてのリターン。ドキドキしながら、メールを開く。
どちらを取るにせよ、即セックスありありのようだ。すかさず2人に返事を出した。最初にリターンがあったのは足立の女だ。俺が出した
「こんにちはクマさん、私はオオカミです」
というメールに対し、携帯の番号が入った返事が届いたのである。俺がかけた電話に答えるクマちゃんの声はか細かった。「会うのはこわい」などとも言っている。逃してなるものか。俺は強引に押し切った。クマ体型だろうがタヌキ顔だろうが、何でも来い。最近はとんとご無沙汰だが、
少し前は階段を上るにも苦労する超大型の女とでもセックスできた俺である。大半の女なら喰う自信ありだ。
翌日の昼ちょうど、カメラとバイブの入ったバッグを持って、日暮里駅横のティールームに入った。彼女クマちゃんは入り口近くに座っていた。悲惨だった。コートというよりパラシュートみたいな袋に包まれたその人問は、中野新橋あたりで浴衣を着た、よく見かける体型と顔そのままである。無理だ。さすがの俺でも無理だ。おまえのどこが天使なんだ。言うなら地獄の天使だろ。まったくこんなヤツに携帯を売るなよ。が、目立つようにと紫系のジャケットを着て行ったのが間違いだった。
クマちゃんは俺を見ると、愛想(これが気持ちわるい)よくニコッと笑いかけてきた。
「お寿司でもいかが?」誘ってきた。イヤだ。並んで歩くのを想像しただけでも恐ろしい。
「ステキな方でよかった。今日はなにかいいことあると思って」
女は構わず、その分厚い唇をパクパクさせている。
さんざん時間をかけて金をかけてこれか。ああ、テレクラのほうがずっとましだ。俺はまたもや編集長を呪った。さて、どう逃げるか。
「今日はお会いするだけの予定ですから」
「まじめな方ね、そういう人嫌いじやありませんよ」
おまえは好きでも、俺は嫌いなんだよ。
「お腹の具合が悪くて、今日のところはこれで」
こー言って帰るそぶりをしたところで、やっとこさ女が
「お話が合わないみたい。また電話ちょうだい」
と伝票を持ち立ち上がった。俺は九死に一生を得た。
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