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東京駅から東海道新幹線に乗って関西方面へ向かうとき、ごくごくマレに、車窓から不思議な光景を目にする。品川駅で降りる客がいるのだ。
なぜそんなオカシな行動がありえるのか? 東京から乗って品川で降りるなんて、そんなバカな?
 東京―品川は在来線でもほんの11分しかかからない。料金は170円だ。
 新幹線を使えば、7分で1030円。とはいえその7分というのは、動き出してから止まるまでの時間であって、乗り場への移動や発車待ち時間などを考えれば、むしろ在来線のほうが短時間で移動できるだろう。
わからない。なぜあの人たちは、わざわざ新幹線で品川へ?品川駅、新幹線下りホームで待ったところ、一人のおばあさんが降りてきた。上品な身なりをしていて、紫色のセーターを着ている。キョロキョロとあたりを見回しているが、なにかあったのだろうか。
「こんにちは。東京から品川まで新幹線で来られたんですか?」
「あー、うんとね、間違えて乗っちゃったのよ」
「間違えて?」
「そうなのよ。わたし、仙台に行くのよ」
 は? 東北新幹線と東海道新幹線を間違えたのか? でも東北の切符で東海道の改札は通れないはずだが。
「そうじゃないの。行って来いしちゃったの」
 このおばあさん、新富士から仙台の息子家族に会いにいくつもりなのだが、いざ東京駅で東北新幹線に乗り換えようとしたところ、どういうわけか「東海道の下り」に乗ってしまったそうだ。
「息子が、ホーム降りてまた上るだけだから簡単だって言うんだけどね。やっぱり間違っちゃったね」
 その間違い方もたいがいなもんだが、それにしてもよく品川で気づいて降りられたものだ。
「隣の方に聞いたら、間違ってますよって言ってくれたのね。でも私、ここからどうすればいいのかしら?」
 もう一度「上り」に乗って、再び乗り換えチャレンジするしかないけど、はたして上手くいくものかどうか。
「駅員さんに聞くのがいいと思いますよ」
「息子には電話したのよ。でも自分で調べろって。本当は静岡に孫を連れてくるはずだったんだけどね」
「はあ」「でも仕事が忙しいから会いに来てくれって。こんな年寄りなのにねぇ。お正月だってね……」
 延々と息子さんへの愚痴がつづいた。息子さん、お年寄りに一人旅なんかさせちゃ駄目ですよ。
かけた確証がないっていうか…
 ホームがスーツ姿のサラリーマンでごった返してる中、慌てて新幹線を降りる男性がいた。学生っぽい風貌で、スニーカーに私服。荷物はカバンひとつだけだ。
「あの、なぜ品川で降りられたんですか?」
「いや、ちょっと…」
「ちょっと?」
「部屋の鍵をかけ忘れたかなと思って」
「かけずに出てきたんですか?」
「いや、かけた確証がないっていうか…」
ははぁ、クーラーの消し忘れとかが気になる例のアレか。ま、クーラーなら電気代で済むけど、カギの場合は下手すりゃオオゴトだもんな。でもこういうときってたいてい、ちゃんとかけてるものなん
だよな。わざわざ引き返す人ってあんまりいないのでは。
「よくあるんですよ」
「なにがですか?」
「気になって家に戻ることが多いんです」
この方、カギのかけ忘れが気になると居ても立ってもいられなくなり、その都度、部屋に戻って確認するのだと。
「実際にかけ忘れていたことはあるんですか?」
「今のところないです」
 ないのかよ! それなら今回も大丈夫だよ!という具合には、心配性の人は考えられないのかもしれない。ちなみに家は小岩だそうだ。東京駅からだと30分はかかるな。
ま、それで気が済むなら戻るほうがいいのか。
それにしてもこういう場合、切符の扱いはどうなるんだろう。この人は一生旅に出られない
名古屋行きの「こだま」から初老の男性が降車して、ホームの柱にもたれかかっている。
「どうして品川で下車を?」
「うーん。旅の途中ってところかな」
「旅ですか?」
「ぶらり旅ですよ」
この男性、アテもなく新幹線に乗り、気が向いた土地で降りる気ままな旅を画策していたらしいが、なぜか一駅目の品川で降車している。
「降りるのが早すぎませんか?」
「めんどくさくなっちゃってね。静岡あたりまで行って、旨いもんでも食おうかなと思ってたんだけどね」
 昨年、定年退職したが、40年間仕事一筋で生きてきたので、趣味もなく、時間を持て余しているという。
「ずっと家にいると嫁さんが邪魔もの扱いしてくるんだよ。それで飛び出てきてやったんだけど、この歳で旅したってなんにも楽しくないって思ったんだよね」
 お父さん、もっと早く気づきなさいよ!
「このまま帰ったら、嫁さんにバカにされそうだから、適当に遊んで帰るよ」
 適当に酒でも飲んでから帰るそうな。この人は一生、旅に出られない気がする。席までついていったら出発しちゃった。夜も遅くなって、ホームが閑散としている。そんな中、新幹線を降りて、車内に向かって手を振っている20代後半くらいの女性がいた。
「こんにちは。どなたに手を振っていたんですか?」
「あ、見られてましたか、彼氏です」
 既にお互いの両親にも挨拶を済ませた仲なのだと。
「でも急に彼の転勤が決まっちゃったんですよね」
 彼氏がこの春から名古屋支店へ転勤になったため、現在は遠距離で交際を続けているらしい。
「なんで名古屋まで行かないで、品川で降りたんですか?」
「えーっと、東京駅で見送りしようと思って、席までついていったら出発しちゃったんですよ」
あらあらお熱いことで。のぞみ」から降りてくる男性がいた。缶ビール片手に上機嫌で歩いている。
「品川まで新幹線で来たんですか?」
「え、そうだよ」
「失礼ですけど、なにか用事でも?」
「いや、あんまり言いたくないんだけどね」
「なんですか?」
 笑顔で粘ってみたら、案外すんなり理由を教えてくれた。
「実はこれから、羽田空港で女と待ち合わせなんだよ」
「女? 奥様ですか?」
「いや、ちがうよ」
 女というのは不倫相手のことらしい。しかし、品川まで新幹線で来た意味がわからない。
「なぜ、新幹線に乗っていたんですか?」
「出張するフリをして嫁さんを騙すためだよ」
 なんと、出張だと嘘をついて東京駅の新幹線改札まで奥さんを見送りに来させて、アリバイを作ったのだという。そしてこの後、品川駅で京急線に乗り換えて羽田に向かい。空港で愛人と落ち合うのだ。
「かなり用意周到ですね」
「うん。前にバレちまったことがあって、大変だったのよ」
 過去に、不倫で大喧嘩してるので、二度とバレないように気をつけているんだとか。奥さんが東京駅まで見送るのは、旦那の浮気を警戒する意味もあるのだろう。
「ま、この作戦がバレたらまた次を考えるよ」 いやー、すごい男性がいたもんだ。
今夜こっそりマンションに行ってやろう
 キャリーケースを持った大学生風の男性が降りてきた。
「あの、実は東京―品川間で新幹線を利用してる人に取材していまして、今日はどうして?」
「ああ、はい、まあ」
 言葉を濁している。なにか事情がありそうだ。
「急な用事ができたんですか?」
「はあ、実は彼女が浮気してるかもしれないんですよ」
 すごい話が飛び出した。
「詳しく教えてください」
「さっきまで彼女と一緒にいたんですけどね…」
 この男性は名古屋に住んでいて、東京に住む彼女の家に遊びに来ていた。で、東京駅のホームまで彼女に見送ってもらったが、実際は品川までの切符しか買っていなかった。
「なんか浮気してるっぽいんですよね」
「証拠があるんですか」
「証拠はないけど、なんかわかるんですよ。だから今夜こっそりマンションに行ってやろうと思って」
帰ったと思わせて、不意にピンポーンするってことか。修羅場にならないことを祈ります。
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